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「というわけで、姉は部屋に鍵をかけて寝るようになってしまいました。それなのに毒殺されてしまったのです。」
私とマメキュール・マメロは、姉が毒殺されたというミス・ビーンズの相談を受けていた。
彼女の姉は、ドアに鍵をかけたままの窓のない密室で、毒殺されたというのだ。
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「で、毒殺されたというのは、間違いないのですか。」
「ええ、手首に小さな傷のようなものが有りました。そこに針のようなもので毒を刺されたというのです。」
「ふむ、ふむ。非常に興味深いですな。私の豆色の脳細胞が大いに刺激される事件です。分かりました、お引き受け致しましょう。」

「ここが、お姉さんが亡くなられた部屋ですな。」
「ええ、姉はここで寝ておりました。」
「確かに窓も無いし、ドアに鍵を掛ければ誰も入って来られない。おや、あそこに小さな通風孔が有りますね。」
「でも、マメロ。あんな小さな穴では子供でも通れないよ。」
マメロは椅子に乗って部屋の上部に有る通風孔を調べ始めた。
「この通風孔は、隣の部屋に通じているようですね。普通は外に向けて通風孔を作りそうなものだが・・・。隣の部屋はどなたのお部屋ですか？」
「叔父の部屋ですが・・・。そういえば、夜中に口笛のような音が叔父の部屋から聞こえると、姉が亡くなる少し前から話しておりました。」
「口笛？」
マメロは通風孔を気にしているようだが、あんな小さな穴では人が通ることなど不可能だ。それよりも私は、部屋のベッドの上にロープが天井からぶら下がっているのが、気になってしようがなかった。
「このロープは？」
「ああ、それは、起きるときにロープにつかまれば楽に起きられるだろうと言って、最近叔父が付けたものですわ。」
その時私は、ハッとひらめいた。
「分かったよ、マメロ！これは隣の部屋の叔父が飼い慣らした毒蛇を通風孔に放って、お姉さんを咬ませたに違いない！ロープは蛇がそれをつたって降りられるように。口笛は、その蛇が戻ってくるようにとの合図だよ！叔父はミルクを与えて蛇を飼い慣らし、その蛇を金庫に隠していたんだ！」
私の言葉を聞くと、マメロは悲しげに首を振って言った。
「ああ・・・、君は、推理小説の読み過ぎです。だいたい蛇は耳が聞こえないのですよ。それにロープをつたって降りたり上ったりなんて出来ないんです。蛇は生きたものしか食べないからミルクなんて飲みませんし、金庫の中でなんて飼ってたら、紫外線不足で死んじゃうんですからね。」
「ええっ！」
「推理小説なんて絵空事です。あんな話が作者が選ぶベスト１だなんて・・・。」
そう言うと、マメロは天を仰いだ。

「おや、腕時計がテーブルの上に・・・。」
「それは姉の愛用していた時計です。叔父がプレゼントしてくれた時計ですわ。姉はとてもそれを気に入っておりました。」
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（画像が分かりにくくて、すみません）
「ほほう、最近は時計を着けない人が多くなって、腕時計をプレゼントされても、『私、時計着けないから要らない。』などという不心得者も多いのに、お姉さまはご立派な方だったんですね。私の知り合いなどは、フランクミュラーの手巻きのサンセットをプレゼントしたのに要らないと言われ、非常にショックを受けておりました。」
「でも、変ですわ。姉はこの前、尾錠をDバックルに交換してもらったと言ってましたのに、今はDバックルが付いてないですわ。」
「なんですと！間違いないですか！」
「ええ、間違い有りません。時計マニアの叔父に交換してもらうと言ってました。叔父は普通の人とは違う変わり者なんです。」
「時計マニアは変わり者では有りませんよ、マドモアゼル。」
マメロは優しく微笑んで、そう言ったが、私には少し怒っているようにも見えた。

「犯人が分かりましたよ、ミス・ビーンズ。叔父さんが犯人です。」
「ええっ！」
「叔父さんは尾錠をDバックルに交換するときに、毒針を仕込んだDバックルに交換したんです。お姉さんは腕時計を着けようとカチッとDバックルをはめて、その毒針を手首に刺してしまったのです。」
「まさか・・・。」
「叔父さんは時計マニアですから、自分でベルト交換も出来るでしょうし、バックル交換もお手のものです。叔父さんは、あなたとお姉さんの死体を見つけた後、あなたに警察に電話するように言ったそうですね。あなたが電話を掛けに行っている隙に、急いでそのDバックルを交換したのです。」
「そんな・・・。」
「もし、叔父さんが、毒を仕込んだDバックルを普通のDバックルに交換したなら、私も気付かなかったかも知れません。でもDバックルは高価なんです。２つもDバックルを用意するお金が有るなら、次に買う時計の資金に回したい。時計マニアに有りがちな心理が、私を助けてくれました。」
「ああ・・・、マメロさん、良く分かりました。時計マニアはケチなんですね。」
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～おしまい～