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万年時計のゼンマイはなぜ真鍮なのか(4)   ――洋時計の利用2015年02月21日13:18
前置きが長くなりました。
私が長く疑問に思っていたのは、万年時計の駆動システムでした。
久重は動力として真鍮製のゼンマイを使用し、脱進機は第6面の洋時計の機構を使っています。

洋時計は「フランス製と考えられる時計で、本時計全体のタイムキーパーの役割をもっている」(『復元報告書』P6)ことが明らかになっています。

また、上掲写真の精密工業新聞社編・発行『時計百科事典』(1983年)に菊浦重雄「明治期の時計」という章があり、その「(1)大野規周と田中久重の時計技術」の項に、万年時計の洋時計について「16宝石入り懐中時計」(P547)との説明があります。

これまでさまざまな本に、「万年時計の機構には西洋製の懐中時計が利用されている」ことが述べられてきました。しかしどのようなメーカーの、どのような年代の、どのような機種の懐中時計が用いられているかについて、具体的な説明はありませんでした。『復元報告書』にはその点で以下のような、かなり詳細な説明がなされています。

「古い形状であるが現代の機械時計と同じクラブツース脱進機と5振動のチラネジ付きテンプを持った懐中時計を改造して使っている。」(『復元報告書』P16)

「文字板面は2針短秒針付きであるが、輸入懐中時計を流用したために文字板径が他の表示面と比較して小さくてデザイン的にアンバランスである。右上方半月形のダイアル付きの針は緩急装置、但し彫られている数字と緩急量は一致しない。右下のつまみはスターター、右回転したまま押えているとテンプが止まる。その状態で手を離すとつまみが元へ戻ってテンプ(秒針)が動き出す。右下の黒色のレバーは針合わせ用のクラッチである。下の位置で針回し歯車列が時計から切り離され、上げるとクラッチが入って下中央にある針回しつまみで針合わせできるようになる。外部に出ている操作部と懐中時計部をつなぐ部分の設計には苦心している様子がうかがえる。例えば、下中央のつまみを時計方向に回すと時分針が反時計方向に回って不自然であるが、流用した懐中時計を活かすという制約があったため致し方なかったのであろう。なお追加された針回し機構に使われている歯車は機械で歯割されておりヨーロッパ系の外国製と思われる。
 洋時計の動力は、時方の48時間1回転軸に取り付けられているカサ歯車で直交変換される。その後回転方向を変える中間歯車を介して懐中時計のゼンマイを取り払って香箱歯車に直接取り付けた軸の先端の小歯車と噛合う。大カサ歯車(黄銅製)はインボリュート歯形で外国製と思われるが、相手の小カサ歯車(鋼製)のような?歯車は手作りで正常な噛合い部より大きな力がかかるところである。分解調査の結果、大カサ歯車(黄銅製)の歯元に小カサ歯車(鋼製)の歯先が食い込んだ跡が見られた。このまま動かし続ければ遠からずカサ歯車部の噛合い不良で止まるであろう。」(『復元報告書』P17)

さらにこの報告書には、洋時計のムーブメントの写真も、機構の一部を文章の背景にして階調をやや落とした形ではありますが、掲載されています。

私は時計技術に詳しくないので、報告書の説明を読んでも洋時計の写真を見ても、理解できることはそう多くはありませんでした。それで今回、当SNS会員のトキオさんに、報告書のこの部分の文章とムーブメントの写真をお見せしたところ、洋時計部分の懐中時計としての種類、製造されたおおよその年代など、いろいろとお教えいただけました。

トキオさ~ん、万年時計に使用されている洋時計について、ここで再度、解説していただくと助かりま~す。
ちなみに洋時計と真鍮ゼンマイの連結については、次の第5回で触れる予定です。

なお、上掲の『時計百科事典』の内容は、時計の歴史、水晶時計・電気時計・機械時計の各用語集、大名時計博物館の上口愚朗氏の文章「大名時計」(愚朗氏がここで書かれていることは、江戸時代の時計の実物を多数検証された方の知見・考察として、極めて有益です)、さらには「明治・大正時代における我が国時計産業の概観」など多岐にわたっており、700ページ余の労作です。私はこの本に出会ったことで、時計の世界を少しは体系的に理解できるようになりました。
  • 時計仕掛けの文化

コメント

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9番~28番を表示

2015年
02月21日
17:12

9: teacup

トキオさん、すごい! 本当に勉強になります。

トキオさんが提示されたムーブメントの写真も、とてもわかりやすいです。
おっしゃるとおり、万年時計に組み込まれた洋時計とすごくよく似ています。
そうか、左側の空間が本来の香箱があった場所なのですね。

「商館時計」というキーワードもいただきました。私にとって新しい道しるべです。

ご指摘の、弟子による修理の件、どんぴしゃの1884年に依頼されています。

『復元報告書』のP7に以下の年表があります。

1851年(嘉永4年)  万年時計完成
1877年(明治10年) 第一回内国勧業博覧会に出品
1884年(明治17年) 万年時計の修理(2代久重より弟子の田中精助に依頼)
1920年(大正9年)  時の展覧会(東京教育博物館)に出品
1949年(昭和24年) 国立科学博物館の朝比奈事業部長らにより分解調査
1953年(昭和28年) 万年時計、田中家より東京芝浦電気株式会社に寄贈
1955年(昭和30年) 時の記念日に合わせ、一部を分解修理
1969年(昭和44年) 国立科学博物館の村内理化学研究室長らにより分解調査
2004年(平成16年) 国立科学博物館と東芝により万年時計分解複製プロジェクト

トキオさんの判断としては、洋時計のムーブメントはスイス製であると。

トキオさんに教えていただいた「商館時計」を、とりあえずネットで調べてみたら、スイスの時計メーカーが日本市場に進出を図り、明治の日本の富裕層に爆発的に普及した懐中時計を指すようですね。これは個人のブログにあった情報なので、これからゆっくり調べますが。

さて、そうなると万年時計の復元・複製プロジェクトがなぜ、洋時計をフランス製と判断したのか、その根拠が知りたいところです。

2015年
02月21日
18:37

10: mr.hmv

面白くなってきた!

2015年
02月21日
19:05

11: トキオ

> なぜ洋時計をフランス製と判断したのか
ん~何故でしょう?
調査隊が調べた古い資料に書いてあったとか???

2015年
02月21日
19:07

12: トキオ

でもあの写真からするとスイス製だと思うんですよね~?

2015年
02月21日
20:16

13: teacup

山口隆二氏の『日本の時計』の改訂版(1950年)を最近、手に入れました(この本については、第7回で触れます)。
そのP28には、万年時計を分解して、洋時計の裏側、つまりムーブメント部分と、4つ並んだゼンマイ香箱の部分を写した写真が掲載されています。
そしてP29には「第一文字板にはスイス製十六寶石入懐中時計機械が装置されており」とあります。

私の知る範囲では、スイス製という説明が古くからされていたと思います。
そうした説明には、私の知っている範囲では、具体的な根拠が説かれていませんでした。今回のトキオさんのご説明は、初めての具体的な論述なので、私としてはとてもありがたいです。

2015年
02月21日
20:37

14: teacup

『日本の時計』の改訂版の出版が1950年。その前年の49年に科学博物館の朝比奈氏による調査が行われています。
山口隆二氏が改訂版に掲載した、万年時計を分解した写真は、49年の調査時に撮影されたものと考えてよいのではないでしょうか。

もし49年の調査で「フランス製」との判断が出たら、山口氏も「スイス製」とは書かないのではないでしょうか。朝比奈氏と異なる見解を山口氏が持ったとしたら、それなりに詳しく「フランス製との意見があるが、スイス製と判断する理由があって……」という反証をされると思うのです。それとも、持論だけ載せて異論は黙殺するかなあ。こんなふうにこだわる私が、こだわりすぎなのかもしれませんが。

2015年
02月21日
21:34

15: トキオ

万年時計の完成時に使用された最初の洋時計の話なら
フランス製の可能性もあるかな?と思いましたが、
あの画像の機械ならまずスイス製と考えて良いと思います。

2015年
02月21日
21:35

16: トキオ

ここからちょっと脱線しますが、最初の洋時計がどんな物
だったかを少し想像します。1850年頃に日本に輸入されていた
懐中時計は、殆どバージ脱進機だったはずですが、バージの
機械はブリッジ分割になっておらず、一枚板のプレートで
歯車を挟む構造だったので、そこに万年時計から来る歯車を
上手く噛ませるのは難しかったはずです。
http://page.freett.com/depuis/wadokei.htm

2015年
02月21日
21:36

17: トキオ

そこで思い浮かぶのが”支那時計”と呼ばれる懐中時計です。
スイスは1800年頃から中国向けに懐中時計を輸出していました。
http://forums.watchuseek.com/f11/pocket-watches-made-chin...
その多くが皇帝などの中国富裕層向けの物で、ケースには
真珠取り巻きのエナメル装飾が施された物が多いのですが、
中には簡素な作りの物もあります。1850年当時に、久重が
中国の支那時計を入手できたとしたら、バージ脱進機の
時計よりも改造しやすかったはずです。

2015年
02月21日
21:42

18: トキオ

これは私のコレクションですが、機械は分割ブリッジ型。
クラブツースレバー脱進機で、文字盤はスモールセコンド仕様では無く
現代の時計のようなセンターセコンド(中三針)仕様です。
もしかしたら完成当時の万年時計の洋時計は
こんな物では無かったかと、そんなことを想像していました。

ところで、完成当時の万年時計の洋時計部分の図面とか
残ってないものでしょうか?

2015年
02月21日
21:55

19: トキオ

古い図面があったので比較画像を作りました。
古い図の文字盤は中三針ですが、
新しい写真ではスモールセコンドになっている。

オリジナルの洋時計は”支那時計”だった説。
いかがでしょう?

2015年
02月21日
22:30

20: teacup

トキオさんの深いお話、ますます私の迷宮が複雑になっていきます。うれしいです。

まず、バージ脱進機のお話にちなんだ枕時計のサイト、拝見しました。西洋の時計に割駒文字板を組み込んで、ムーブメントに日本的な模様(という感じがします)が彫ってありますね。これも興味深いです。日本の時計師の技を感じます。これは「和前時計」というジャンルに入るのでは、という気がします。和前時計については、今回のシリーズの第11回で触れます。このタイプの洋時計は、万年時計には組み込みにくいということですね。バージ脱進機については、勉強します。

その次の支那時計。これも、私にとって知らなかった用語でうれしいです。ムーブメントの装飾がいかにも中国人好みという気がします。支那時計の豪華でないものを久重が手に入れた可能性というのは、なるほどと思います。

2015年
02月21日
22:50

21: teacup

やあ、トキオさん、すごいところに目をつけられましたね。
嘉永七年、万年時計ができた時の広告ですね。

本当に針が3つありますね。トキオさん、本当にすごい。
万年時計の最初の洋時計は3針だったというのはすごい発見です。
支那時計説、これは真剣に議論してよいのではないでしょうか。

2015年
02月21日
22:57

22: teacup

失礼、万年時計の完成年を間違えました。
嘉永4年です。

2015年
02月21日
23:02

23: トキオ

teacupさん、どうも有り難うございます。
少しでもお役に立てれば幸いです。

僭越ながらバージ脱進機の例です。
http://www.webchronos.net/sns/?m=pc&a=page_fh_diary&targe...
http://www.webchronos.net/sns/?m=pc&a=page_fh_diary&targe...

2015年
02月21日
23:28

24: teacup

トキオさん、バージ脱進機の情報、本当にありがとうございます。
今、拝見してきました。

これって円テンプとか丸テンプとか呼ばれているものではないですか?
尺時計によく見られるテンプ。和時計の場合、掛時計とか櫓時計は最初棒テンプで始まって、枕時計も初期が棒テンプで、そこから丸テンプになっていったと私は理解しています。

懐中時計では、バージ脱進機からスタートした、といったことが、拝見したトキオさんのブログにありました。クロックからウォッチにダウンサイジングする過程で、バージ脱進機が発明されと理解してよいでしょうか。

2015年
02月22日
00:24

25: トキオ

仰るように古い物はフォリオット(棒テンプ)を使っていました。
http://catalog.antiquorum.com/catalog.html?action=load&lo...
このように400年前の特別古い物には棒テンプ式がありますが、
1650年~の物は全て丸型テンプになるので、懐中時計の場合、
特に丸テンプを分けた分類はしません。ただ和時計では比較的
新しい形式として”丸テンプ”という分類をするようです。

2015年
02月22日
00:25

26: トキオ

またバージ脱進機は最初は教会の塔時計で使われました。
脱進機としては最古の形であり、発明時期や発明者は
ハッキリしませんが、1300年代の図面の記録があります。

それが時代と共に様々な進化を繰り返しながら、塔時計→
卓上時計→懐中時計というミニサイズ化がなされて来ました。
ですからサイズの差はあっても全て同じバージ脱進機です。

2015年
02月22日
00:48

27: トキオ

補足です。
懐中時計で、テンワに切れ目のある温度補正テンプと
温度補正の無いテンプを分類する意図で
後者を”丸テンプ”と呼ぶ場合があるようですが、
私はそういう呼び方はしません。
ただテンワの断面が丸い物を丸テンプと呼ぶことはあります。

2015年
02月22日
08:41

28: teacup

トキオさん、おはようございます。
トキオさんのお陰で、「バージ」の意味が、かなり理解できたように思います。

私は機械時計の最初期の脱進機が「冠型脱進機」で、そのテンプ部分が棒テンプから丸テンプとなり、懐中時計では「レバー型脱進機」が基本となって、丸テンプにレバー、アンクルを組み合わせたような(こう述べている時点で、私の理解がかなり乱暴な用語の使い方になっていると、トキオさんのお話でわかってきたのですが)形が、どんどん改良されて、ついには「トゥールビヨン」のようなとてつもない機構が開発された、みたいな、とてもおおざっぱな理解をしていました。

用語は定義がありますから、それをきちんと理解して使わないといけないわけで、トキオさんの説明をお聞きしていると、そのあたりの「言葉を使う姿勢」がとても刺激になります。感謝です。

それでは朝食を食べたあと、第5回をアップしますので、お待ちください。

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