2024年新作のうち、傑作コンプリケーションウォッチ(複雑時計)5本を選ぶ

FEATURE2024年新作時計
2024.04.15

2024年の新作より、コンプリケーションウォッチの傑作5本を紹介する。今年も各社よりユニークな機構を有したモデルが多く発表された。中でも特筆すべきは、ヴァシュロン・コンスタンタンのグランドコンプリケーションだろう。ポケットウォッチの中に、63もの複雑機構を搭載したユニークピースだ。

野島翼:文
Text by Tsubasa Nojima
[2024年4月15日公開記事]


人類の叡智が結集したコンプリケーションウォッチ

IWC ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー

 長い年月をかけて進化を重ねてきた機械式時計。時刻を知らせるという機能を軸として、その進化の過程ではクロノグラフやアラーム、ワールドタイマー等、利便性を向上させるための複雑機構が多く開発されてきた。驚くべきは、その全ての機能が機械的にプログラムされ、限られたスペースの中に収められているということだろう。

 コンプリケーションウォッチは、その機能がもたらす利便性を享受できるだけではなく、その時計に注ぎ込まれた職人の情熱を生々しく感じることができるアイテムでもある。今年も驚くべき機構を携えたコンプリケーションウォッチが発表された。その顔ぶれを見ると、世界中の時計師たちが限界を打ち破らんと日夜研究を重ねていること、そしてその火が絶えない限り、機械式時計の進化は終わらないであろうということに、改めて気付かされる。


IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」

 IWC初のセキュラーパーペチュアルカレンダー搭載モデル。一般的なパーペチュアルカレンダーでは、4年に一度訪れる閏年を判別し、正確な日付を表示する。しかし、我々が普段使っているグレゴリオ暦では、西暦年号が100で割り切ることが可能であり、かつ400で割り切ることができない場合は、例外的に閏年として扱わないという規則がある。本作では、その例外処理を含めて機械的にプログラムされているのだ。

 3時位置にはパワーリザーブインジケーターと日付表示、6時位置には月表示、7時半位置に西暦年号、9時位置にスモールセコンドと曜日表示、そして12時位置に超高精度な南北両半球のムーンフェイズを配している。

 パーペチュアルカレンダーを搭載したモデルのオーナーは、なるべく時計を止めたくないだろう。カレンダーの調整が複雑であるためだ。しかし、本作では約7日間の非常に長いパワーリザーブを備えており、かつその残量をインジケーターから視覚的に把握することが可能である。複雑な機構を組み込んでいるだけではなく、その実用性にまで配慮されているのは、数々のコンプリケーションウォッチを生み出してきている同社ならでは。

IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」Ref.IW505701
自動巻き(Cal.52640)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約7日間。Ptケース(直径44.4mm、厚さ15mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。


パテック フィリップ「ワールドタイム」Ref.5330

パテック フィリップ 2024年新作

 2023年6月に開催されたウォッチアート・グランド・エキシビション(東京2023)で限定モデルとして発表されたパテック フィリップの新世代「ワールドタイム」に、レギュラーモデルが登場。搭載するCal.240 HU Cは、ローカルタイムの設定と日付表示を簡単に同期させることができる画期的なワールドタイマームーブメントだ。ローカルタイムの都市名を12時位置の赤い三角に合わせることで、ポインターデイトが選択した都市の日付を表示するように設定される。ポインターデイト用の針は、先端を赤く彩ったガラス製。これによって、針に重なった表示が見にくくならないように配慮されている。

 ダイアルのカラーはブルーグレーオパーリン。中央にはカーボンスタイルのパターンが刻まれている。その外周には24時間表示リングが配され、昼夜の区別をつけるためにツートンに色分けをされている。ステップの付いたラグがスタイリッシュなケースは、18Kホワイトゴールド製。

 シースルーバックからは、テンプやマイクロローターの動き、地板や受けに施された仕上げの数々を鑑賞することが可能だ。

パテック フィリップ 2024年新作 ワールドタイム

パテック フィリップ「ワールドタイム」Ref.5330
自動巻き(Cal.240 HU C)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWGケース(直径40mm、厚さ11.57mm)。3気圧防水。1155万円(税込み)。


ジャガー・ルクルト「デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル」

デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル

 複雑機構の作動に伴う計時精度への影響を排除するため、時刻表示用と複雑機構用の2つの輪列と香箱を備えた、ジャガー・ルクルトのデュオメトル機構。「デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル」は、3軸トゥールビヨンとパーペチュアルカレンダーを併載したコンプリケーションウォッチだ。

 ダイアルの9時側には大きな開口部が設けられ、3つのチタン製ケージとその中に収められたシリンダー形ヒゲゼンマイの神秘的な動きを鑑賞することができる。

 3時位置には時刻表示用のインダイアルとともに、グランドデイトが配されている。その他のカレンダー表示は12時側と6時側に示され、時刻表示用のインダイアルの上下には、2つの香箱に対応したパワーリザーブインジケーターを備えている。

 一般的なパーペチュアルカレンダーでは、時刻を戻す操作を行うことはご法度だが、本作では時刻を戻してもカレンダー機構にダメージを与えることはない。安全な設計を持つ、ユーザーフレンドリーなコンプリケーションウォッチと言えるだろう。

ジャガー・ルクルト デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル

ジャガー・ルクルト「デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル」
手巻き(Cal.388)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KPGケース(直径44mm、厚さ14.7mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。


シャネル「J12 クチュール ワークショップ オートマタ キャリバー6」

 ハサミを手にしたマドモアゼル シャネルと、カンボン通りにあるクチュールのアトリエの様子が表現されたモノトーンのダイアルが魅力的な「J12 クチュール ワークショップ オートマタ キャリバー6」。本作は、8時位置のプッシュボタンを押下することによって起動するオンデマンドタイプのオートマタウォッチだ。約10秒間、マドモアゼルが生き生きと動き、トルソーが上下する。

 このアニメーションを作動させているのは、自社工房によって設計と組立が行われる、新開発の自社製手巻きムーブメントのCal.6である。ダイアルに命を吹き込むだけではなく、そのダイナミックな輪列も魅力だ。円が重なり合ったブリッジや歯車の動きをシースルーバックから楽しむことができる。

 直径38mmのケースは、J12コレクションでお馴染みの高耐性セラミックス製。ベゼルにはダイヤモンドがあしらわれ、本作の魅力を一層引き立てている。18Kホワイトゴールド製のケースバックには、限定数量を示す“LIMITED TO 100”の文字が刻まれている。

シャネル「J12 クチュール ワークショップ オートマタ キャリバー6」
自動巻き(Cal.6)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。高耐性ブラックセラミックケース(直径38mm)。50m防水。世界限定100本。3707万円(税込み参考価格)。


ヴァシュロン・コンスタンタン「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」

 63の複雑機構を搭載した、驚異のグランドコンプリケーション。ヴァシュロン・コンスタンタンが組立期間のみで費やした1年を含む、計11年にわたる開発期間によって実現したことからも、本作にどれほどの叡智と技術が注ぎ込まれているかがうかがい知れる。

 本作が成し遂げた最大の偉業は、世界で初めて中国暦パーペチュアルカレンダーを搭載したことだ。月の満ち欠けに倣った太陰暦に基づく中国暦は、太陽暦に比べて複雑かつ不規則である。本作では、2200年までのカレンダーが機械的にプログラムされている。

 その他にも、日常生活で馴染み深いグレゴリオ暦のパーペチュアルカレンダーや上海から見える星座をリアルタイムに表示するスカイチャート、高精度なムーンフェイズに加え、グランソヌリ、アラーム、3軸トゥールビヨン、スプリットセコンドクロノグラフ、ワールドタイム等、思いつく限りと言っても過言ではないほどの複雑機構が網羅されている。もちろん、パーツのひとつひとつには丁寧な仕上げが施され、本作のコンセプトにふさわしい審美性を備えている。

ヴァシュロン・コンスタンタン

ヴァシュロン・コンスタンタン「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」
手巻き(Cal.3752)。245石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWGケース(直径98mm、厚さ50.55mm)。ユニークピース。


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