2024年も残すところあと2カ月。年末には、ボーナスが控えているという読者もいるだろう。「まとまったお金が入った」状態で、どんな腕時計を買おうか考えるのは楽しい。そこで私も、ちょっとそのシーズンには早いけど、ボーナスが入ったら買いたい腕時計を考えてみた。なお、意外といろいろな方に読んでいただいているため、もうあと2本、欲しいモデルを追加してみた(強欲なもんで……)。
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年11月04日公開記事]
2024年12月16日更新
買いたい腕時計のことを考えている時が人生で一番楽しいかもしれない
先日、本ブログで「40歳になった記念に買いたい腕時計」という記事を公開した。そして本日「ボーナスで買いたい腕時計」。いつも腕時計を買うことばかり考えていると思われるかもしれないが、実際その通り。会社と家の往復という、大して面白くもない毎日に彩りを添えてくれるのが、すでに所有している腕時計を愛でることに加えて、「欲しい時計」「買いたい時計」に思いを馳せることだ。
それはさておき。年末が間近になると、時計業界はボーナスやクリスマスといったイベントを迎えて、繁忙期になる。販促活動が活発になる街の時計屋なんかをのぞくと、ついついこちらも購買意欲がそそられるものだ。そこで、自分自身が考えている「ボーナスが入ったら買いたい腕時計」を2本、この記事で紹介していく。なお、この記事で紹介するモデルの金額と私がもらっているボーナスの金額はまったく関係はない(弊社、そもそも12月がボーナス支給月じゃないしね)。
冒頭でも述べた通り、本記事は11月に一度公開しており、その後さまざまな読者にアクセスしていただいていることが分かったので、あと2本、欲しいモデルを追加した。ちなみについ昨日、広島のアンティークディーラーであるBQ氏から「45GS」を買ってしまった。ボーナス支給月でもなければ、余分な金もないのにね(白目)。
ボーナスで買いたい腕時計①オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ」
手巻き(Cal.3861)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42mm、厚さ13.2mm)。5気圧防水。107万8000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000-087
いきなり余談で恐縮だが、今年に入ってから「『クロノス日本版』編集部オススメの時計」というコンテンツをwebChronosに掲載している。
このコンテンツは小誌編集部のメンバーが、決められたテーマに沿ってそれぞれ読者にお勧めしたい時計を挙げる、という趣旨である。この「オススメ」で、いつも自分が挙げたいけど、大体ほかのメンバーがピックアップしてしまうのが、オメガの「スピードマスター ムーンウォッチ」(ほかのメンバーとかぶっちゃいけない、というわけではないのだけれど、たくさんあるオススメのうち、やはり他人と同じものは紹介したくないという気持ちがある)。だから、ようやく「ブログ」という形で、本作への思いをつづることができる。
とはいえ、もともと購入しようと思っていた「スピードマスター」は、現行モデルではなかった。1980年代後半~1990年くらいに製造された、まだムーブメントもCal.861だった頃のモデルだ。この年代のモデルのうち、12時位置の“Speedmaster”のロゴの、最後の“r”が一般的なモデルよりも、少し下がり気味に書かれた個体が存在する。この個体が欲しいなと何となく考えていて、以前に某中古時計店で入荷したという報を聞き、見に行った。すると、私がこの個体の存在を知った時よりも価格がずいぶん上昇していて、驚かされた。この個体に引かれたのは「価格」だけではなかったものの、現行モデルを買うよりもお手頃に済むと思っていたのは確かだ。そこでふと、「もう少し頑張ってお金を貯めて、現行スピードマスターを買うという手もアリだな」と、気持ちを切り替えた。
基本的に、スピードマスター ムーンウォッチは第4世代以降、デザインのスタイルを大きく変えていない。だから、もちろん現行モデルでもあの渋い意匠を楽しめるし、おまけに現行モデルならマスター クロノメーター認定ムーブメントCal.3861を搭載しているので、1万5000ガウスという超耐磁性能もついてくる。
トランスパレント式のケースバックからムーブメントがのぞくRef. 310.30.42.50.01.002も良いけど、やっぱり昔ながらのプラ風防の感じが好きなのと、オメガに限らず、ケースバックの素敵なメダリオンをこよなく愛する民なので、Ref. 310.30.42.50.01.001が候補かな。
ボーナスで買いたい腕時計②チューダー「ブラックベイ 58 GMT」
自動巻き(Cal.MT5450-U)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径39mm、厚さ12.8mm)。200m防水。64万3500円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570
チューダーの2024年新作モデル「ブラックベイ 58 GMT」も、前述した「編集部おすすめ」で、よく他のメンバーが挙げてしまうがゆえに、自分ではなかなか紹介できなかった腕時計だ。
このモデルはその名の通りGMTウォッチ。GMTウォッチで多いのが、時針が単独操作できる仕様になっている、というモデル。この仕様によって現在地の時間と、もうひとつ別のタイムゾーンを持った地域の時間に時計を合わせて表示させることができる。本作はこの機能に加えて、瞬時日送りができる仕様になっている。おまけにセーフティー機能が付いているため、深夜12時に日付がカシャっと切り替わった後、日付を1日逆戻しして、さらにその状態で針を12時以降に進めると、カレンダーディスクがゆっくり進む仕様になっているのだ。このあたりは、小誌編集長・広田雅将が書いた記事が分かりやすいと思う。
こういった機能をさりげなく搭載させ、しかも60万円台という価格で打ち出すところに「さすが俺たちのチューダー!」と喝采を送りたくなるが、実は私が本当にこのモデルに引かれたのは機能や価格ではなく、そのルックス。Watches and Wonders Geneve 2024で本作が発表された2カ月後くらいに、日本で新作モデルの内覧会が開催されて、初めて実機を手に取った時、まだアルミ製ベゼルインサートを有していた頃のロレックス「GMTマスター II」をほうふつとさせる雰囲気だと思った。
もちろん「ロレックスのGMTマスターが買えないからこのモデルを」という意味ではまったくない。ただ、ベゼルインサートがアルミだった時代の、ブレスレットのコマ同士の遊びやバックルなどが、現在よりもゆるっとしていた時代の、今はないGMTマスター IIを感じられて(もちろんロレックスの現行モデルも良いけど)、なんだか私はノスタルジックな気持ちになると同時に、ヴィンテージウォッチ好きとして、強く所有欲を刺激されてしまったのだ。
実際、ロレックスにもチューダーにも最近のモデルにはなかった“赤黒ベゼル”とか、しかもそのベゼルにはアルマイト加工されたアルミ製インサートを使うとか、エイジングを思わせるカラーの蓄光塗料を施すとか、上手に過去のモデルに寄せているように思われる。一方で現代の「ブラックベイ」らしい要素も盛り込んでいるところから、チューダーの“新作巧者”なところが分かるだろう。
なお、ルックスは過去のモデルをほうふつとさせるとはいえ、機能は最新。本作もマスター クロノメーター認定機であることに加えて、工具なしでバックル部分でサイズを微調整できる“T-fit”が搭載されている。「ボーナス入ったら」と狙っている時計好きも多いモデルなのでは? と思う。
ボーナスで買いたい腕時計③IWC「パイロット・ウォッチ・オートマティック 36」
自動巻き(Cal.35111)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径36mm、厚さ10.4mm)。6気圧防水。83万6000円(税込み)。
予算が許せばコレクションしたくなる腕時計が、自分にはいくつかある。そのひとつが、IWCの「パイロット・ウォッチ」シリーズだ。
このブログを読んでくださっている皆さんにはおなじみ、IWCを代表するこのコレクション。同社が「航空計器を想起させるデザイン」と記すように、必要な機能が使えることを優先した、高い視認性、操作性、良好な装着感といった、機能美ある意匠を備えた腕時計である。ちなみに、まだ時計業界に入ったばかりの頃、初めて見たIWCが「マーク XVII」だったのだが、そのあまりのシンプルさやツール感の強さに「高級腕時計なのに、こんなに素っ気ないんですか?」と当時教育してくれていた先輩に聞いてしまった。高級時計といえばダイヤモンドやゴールドに代表される華美な装飾を持つ、という思い込みがあったためだ。今なら分かる、こういうツールウォッチやシンプルウォッチで、高級感出すのこそ、結構大変なんだよと。
その後、自分自身でも「マーク XV」を購入した。このマーク XVもIWCのパイロット・ウォッチらしく、見やすくて、堅牢だから傷など気にせず使いやすくて(サテン仕上げ多めなので、傷が目立ちにくい。もちろんエッジに深い傷をつくらないようには気を付けているけど)、おまけによく巻き上がるから、精度も良好だ。
すでに所有しているとはいえ、このパイロット・ウォッチは「予算が許せばあと1本くらいは欲しい」腕時計だ。先日も、webChronosの公式X(旧Twitter)のリプ欄で「現行の『マーク XX』欲しいんですよね」なんて話をした。なぜなら、IWCの歴代パイロット・ウォッチは計器のようなデザインを受け継ぎつつも、スペックや外装のディテールが時代に合わせてブラッシュアップされていたり、カラーバリエーションが豊富に出ていたりと、同じシリーズであってもまた違った味わいを備えているためだ。
そんな私が、現行モデルのパイロット・ウォッチで欲しいのが「パイロット・ウォッチ・オートマティック 36」だ。何といっても、36mm径のコンパクトなケースにそそられる。
所有している「マーク XV」も直径38mmと、決して大きいわけではない。とはいえ女性の手首回りには、やはり存在感が強すぎるきらいもある(もちろん、好みもありますけどね)。現行「マーク XX」のグリーン文字盤も良いなと思っている。なんせ自社製ムーブメントを搭載して、パワーリザーブ約120時間と、高いスペックを備えている。ただケース径は40mmのみで、もちろん薄いし全長は大きくないので着け心地が悪いということはないが、小径ケースが好みということもあり、購入には躊躇してしまう。一方のパイロット・ウォッチ・オートマティック 36であれば36mm径で、多くのユーザーにとって扱いやすいだろう。実際、IWCはプロモーション写真に女性も男性も起用している。パワーリザーブ約50時間と、マーク XXに比べればスペックは低いが、自分の生活には十二分だ。
「また似た腕時計買って、どうするの?」なんて、時計に興味のない身内や友人に言われそうだけど、パイロット・ウォッチ・オートマティック 36とマーク XVを自宅の時計ケースに並べて、そのツーショットを眺めながら飲む酒は、きっとうまいに違いない。
ボーナスで買いたい腕時計④ブレゲ「クラシック トゥールビヨン 3358」Ref.3358BB/VD/986/D0
自動巻き(Cal.187D)。21石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWGケース(直径35mm、厚さ9.43mm)。30m防水。2411万2000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211
ボーナスだけじゃ絶対に買えないけど(全財産を注ぎ込んで、さらに借金すればあるいは)、欲しい時計を言うだけならお金はかからない! ということでもうひとつ挙げる「ボーナスで買いたい時計」が、ブレゲの「クラシック トゥールビヨン」だ。
ブレゲのトゥールビヨンというとさまざまな名作が挙げられる中で、本作はレディース向けのクラシック トゥールビヨン 3358の中のバリエーション。今年の夏に本作をメディア向け内覧会で見せてもらったのだが、ひと目でこの文字盤のトリコになってしまった。
夜空を思わせる文字盤は、ツヤ出し加工を施したミッドナイトブルーのマザー・オブ・パール。ダイヤモンドがセッティングされた星が浮かんでいるのが、愛らしくも贅沢で、さらにトゥールビヨンのブリッジ代わりに、同じくダイヤモンドがふんだんにあしらわれた月がのぞくというのが、ユニークさも感じられる。
こういったファンタジックな意匠である一方で、ケースバックからは装飾が施された、ブレゲの見事なムーブメントが鑑賞できるというのも、たまらない。このムーブメントの地板は鎚目(つちめ)に仕上げられており、シリアルナンバーとブレゲのサインが刻まれている。
意匠そのものが良いということに加えて、やはり時計好きとして「ブレゲのトゥールビヨンを所有する」ということ自体に憧れる。同社が名前を受け継ぐ時計師アブラアン-ルイ・ブレゲは「時計の歴史を2世紀進めた」と称されており、数多くの機構の開発や改良を行なった。彼の技術の中には、今なお受け継がれているものも少なくない。トゥールビヨンもそんな発明のうちのひとつ。しっかりとポリッシュされたパーツが渦のように動くその様を見ているとそんな歴史に思いが馳せられ、時計という奥深く甘美な世界に浸れることの幸せが改めて感じられるだろう。