クロノス日本版編集部の細田が、正月の暇な時間にネットサーフィンをしていたらうっかり時計を買ってしまったというだけの話。しかし、タケオキクチのムーンフェイズウォッチ「フォーチューン」は思いのほかいい時計だ。
Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[2025年1月31日公開記事]
“うっかり”買ってしまったタケオキクチ
私と交流のある方であればお気付きのことも多いだろう。私は貯金ができない人間だ。カメラ、ダイビング、すみっコぐらし……元々、多趣味なうえ、こんな仕事をしているもんだから常に物欲が刺激されている。
クロノグラフ特集をやれば手巻きのキャリングアームが欲しくなるし、ダイバーズ特集をすれば、やっぱりピケレケースの自動巻きが欲しくなるというもの(流石にミニッツリピーター特集の時はそんな気にもなれなかった)。
そんな日頃の欲望に程よく負けつつも打ち勝ちながら、年末年始を迎えた1カ月前。仕事で時計に触れない、精神衛生に大変良い年末年始を過ごしていた細田は、別の問題に直面していた。年末のwebの仕込みも終わり、暇を持て余した結果、ほぼ脳死状態でフリマサイトと時計の中古屋を巡り始めてしまったのだ。
しかし、昨今の価格高騰はセカンドマーケットにもしっかり反映されており、ときめいた時計は今の懐事情では到底手に届かないものばかり。こうして、細田家の家計は守られた。めでたしめでたし、とはもちろんいかない。完全に心が「欲しいモード」になってしまったため、なんとか買えそうな時計を物色し続ける。そして、ふと気付いてしまった。ヤフオクのウォッチリストに入りっぱなしの1本を。
「フォーチューン」と名付けられたその時計こそ、知る人ぞ知るタケオキクチの名作だ。アンティークウォッチに造詣の深かった菊池武夫が自らデザインしたとされるこの時計は、手巻き式のCal.ETA7760を搭載する本格的な機械式時計である。
最大のチャームポイントは6時位置に配されたムーンフェイズだろう。お月様に顔が描かれた“ムーンフェイス”仕様であり、このなんとも言えない表情が個人的なツボだ。
個人的に気になる時計として、常にヤフオクのウォッチリストに入れられ、眺めてはいたものの、これまで購入されることがなかったフォーチューン。お前、まだ売れてなかったのか……。2年以上も自動再出品を繰り返されたお月様の表情が心なしか寂しそうに見える。
結局深夜のテンションも相まって、2年越しにポチってしまった。そしてその後、よく探したら近い金額で整備済み品も出品されていたことに気付き、ちょっと後悔をした。
状態は中々に……
購入後、手元にきたフォーチューンを手に取ってまじまじと見てみる。これは中々に問題児だ。風防はヒビが入っているだけでなく、乳白色に変色していた。それだけでなく元々、出品ページに記載されていたように、クロノグラフが途中で止まることがある。
流石にこのままでは使えない、ということで知り合いの時計店に持ち込み、とりあえず風防の交換と必要ならオーバーホールを、ということで預けた次第。
「確かにヤれてるけど、意外と振り角は出ているし、油差したら精度も出るね。常用するわけでもなさそうだし、一旦は様子見でいいんじゃない?」
ということで、手元には新品の風防に交換され、簡単に注油してもらった状態のフォーチューンが置いてある。ただし、ストラップはボロボロだし、やっぱり時間が経つとクロノグラフの動きが不安定になるため、近いうちにオーバーホール&ストラップ交換をしようかなと考えている。想定よりも金はかかりそうだし、外装の状態も良くないが、それだけのことをする価値のある時計だと思っている。
こんなオチも何もない話を編集部ブログに記載するのも恐縮だが、旧Twitterでこの時計の購入報告をしたところ、大変好評だったために「意外とタケオキクチ需要ある?」と思って今回投稿させていただいた。
中古市場をパッとみる感じ、状態のいい個体はほとんどなさそうだが、市場価格も安いし、もし、気になる人がいれば手に取ってみてほしい。