もともとアンティークウォッチが好きなので、最近の復刻モデルは嫌いじゃない。昨年のオメガ「トリロジー」などは大好物中の大好物だ。しかし、これだけレトロ調のモデルが増えると、あまのじゃくな筆者は、もう少し新味があってもいいだろう、と思う。
バーゼルワールドの期間中、タグ・ホイヤーがスペシャルなコラボを発表するという。どうせアンバサダーを呼んで、愚にも付かない話をさせるのだろうと想像していたところ、壇上に上がったのはなんと、ジョージ・バンフォードだった。タグ・ホイヤーはジョージ・バンフォードとコラボしたのかよ。
ジョージ・バンフォードは、イギリスの貴族にして超富豪にして、それ以上に時計マニアである。時計が好きなあまり、彼は時計のカスタマイズを始め、やがてそれは大きなビジネスへと成長した。今や一種のブームになった、全面ブラックケースのロレックス。その先駆者は、間違いなくジョージ・バンフォードである。
そのバンフォードとは、日本で何度か会った。バンフォードの修理を請け負ってくれる店を探しているが、誰かいい人を知らないか、と言われたので、ゼンマイワークスを紹介した。店の前で立っていたところ、黒塗りのリムジンが止まり、そこから降りてきたのがジョージ・バンフォードその人だった。時計好きの中で、あれほど洗練された人を、筆者は他に知らない。そのくせ猛烈に時計オタクで、彼のカスタマイズした時計が売れるのはなるほど納得させられた。
世界中に良質な顧客を持つとはいえ、バンフォードはあくまでアンダーグラウンドのメーカーである。カスタマイズの題材に選ばれている各社も、彼のカスタマイズを黙認しているに過ぎない。しかし、2017年、タグ・ホイヤーはバンフォードをパートナーに選び、お気に入りのモデルをカスタマイズするサービスを提供し始めた。
その延長線上にあるのが、今回のコラボレーションだ。ベースに選ばれたのは、タグ・ホイヤーの名作「モナコ」。しかし、タグ・ホイヤーもバンフォードも、ありきたりのカスタマイズを好まなかったようで、わざわざカーボンケースの金型を新規で起こした。ケースサイズをSSモデルとまったく同じに揃えたのは、タグ・ホイヤーの意地だろう。モナコは、小ぶりなケースだからこそモナコなのであって、大きくなると間延び感が出てしまう。さすがにバンフォード、センスがいいなあと感心させられたのであった。
復刻モデルは好きだが、正直そろそろ飽きてきた。そこに一石を投じるような、タグ・ホイヤーとバンフォードのコラボレーション。今後、こういうモデルが増えて欲しいと思っている。(広田雅将)