世界最大の時計見本市が、HKTDC 香港ウォッチ&クロックフェアと、サロン・ド・TEである。2019年の9月3日から7日にかけて、この見本市が、香港コンベンション&エキジビションセンターで開催された。
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ディスクで時間を示すというトレンド
香港の見本市には20数年、2010年以降はバーゼルワールドにも参加していたというから、かなりの老舗だ。OEM中心のメーカーだが、香港製らしい手の届く価格と、日本出自らしい、洗練されたデザインの組み合わせに特徴がある。ちなみに責任者のマチノ氏は「香港の景気はあまりよろしくない」と語っていた。
香港の時計トレンドで注目したいのは、回転式のディスクで時間を示すメカニズムだ。決してメインストリームではないが、多くのメーカーが取り組んでいるのは事実だ。OEMで様々なメーカーに時計を供給するドラムローラーウォッチは、今のところ、このトレンドを牽引するメーカーのひとつである。なお、写真撮影は不可とあったが、許可はもらっている。OEMメーカーも多く出展する香港ウォッチ&クロックフェアでは、撮影のできないブースは少なくない。
OEMメーカーのHeelotimeも、回転ディスクの時計をリリースしていた。おそらく、ムーブメントはミヨタの自動巻き。徹底してディスクだけで時間を示すというアイデアが受けたのか、ブースの前には人が集まっていた。
香港ウォッチ&クロックフェアで、大きな勢力を占めているのがボックスメーカーだ。2019年の見本市には、なと39のメーカーが参加した。個人的に面白いと思ったのは、中国から出店した東尚包装(Dongguan D&S Wood Work)だ。創業20年と若い会社だが、今や、木製に限らず、ありとあらゆる素材の箱を製造している。従業員は300名、工場の敷地は2万3000㎡というから、知られざる超大メーカーだ。
責任者のマーティン・ツァン氏は「アメリカ、EU、日本向けの輸出がビジネスの6割を占めている。高級品の箱を作るようになって、今年で10年目。ビジネス拡大のために、今年初めて参加した」という。面白い箱を見せてくれと頼んだところ、葉巻を入れるヒュミドールを見せてくれた。謎のエジプト模様が彫られている。「箱の素材はメイプル、模様はレーザーで彫っている」とのこと。さっぱり意味不明だが、とにかくすごい技術ではある。
ハイブリッドスマートウォッチの鍵を握る、ギアボックス
ムーブメントメーカーも面白い。2019年は、ロンダもハイブリッドスマートウォッチ用のギアボックスを出したが、より目を惹いたのは、中国・深圳の新興メーカーであるLeMoveだ。
同社は2019年に、全面液晶とアナログ針を動かすギアボックスを組み合わせたモジュール「P03」を発表した。メーカーの人が操作してくれたが、確かに針はあるのに、スマートウォッチとして普通に使えてしまう。実用性があるかは未知数だが、差別化を図りたいメーカーには好まれるだろう。ハイブリッドスマートウォッチは、今後のひとつの方向性に思える。
セイコーインスツルの子会社が、ムーブメント販売メーカーのTMIだ。同社も、ロンダ同様、ハイブリッドスマートウォッチ用のギアボックスをリリースしている。普通のクォーツムーブメントとの違いは、調速のためのクォーツと、ムーブメントを動かすためのバッテリーを持たないこと。ギアボックスという名前の通り、ギアだけなのである。ただし、針を動かすためのコイルは内蔵している。
ついでに面白いムーブメントも紹介したい。クォーツなのにスイープ運針するのが、VH31である。正直、この見本市に来るまで、こんなムーブメントがあるとは思ってもみなかった。直径23.3mm、厚さ3.45mmしかないため、小ぶりなレトロ風の時計にも似合うだろう。