『クロノス日本版』の編集部員が話題のモデルをインプレッションし、語り合う連載。今回は、オメガ「デ・ヴィル トレゾア」を好き勝手に論評する。その歴史は1949年までさかのぼり、オメガのコレクションの中でもドレッシーかつクラシカルな雰囲気を持つ。シンプルながら、実に見どころのあるモデルだった。
阿形美子:文 Text by Yoshiko Agata
2023年8月16日掲載記事
宝物を表す“トレゾア”の名を冠したドレスウォッチ。本モデルは2021年に新たにラインナップされたもので、ムーブメントも新開発のCal.8934を搭載。オメガの独自機構コーアクシャル エスケープメントの採用により、メンテナンスサイクルの長期化が図られている。手巻き(Cal.8934)。29石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.1mm)。30m防水。119万900円(税込み)。
オメガのドレスウォッチ「デ・ヴィル トレゾア」
細田今回、皆さんに着用してもらったのは2021年に登場した「デ・ヴィル トレゾア」で、オメガでは久々の手巻きモデル。ドレッシーな手巻きの薄型がオメガにも出ましたよ、ということで借りてみました。このモデルには2種類あって、ひとつはパワーリザーブが付いている縦二つ目、もうひとつは単純なスモセコですね。どちらもオメガとしては珍しく、ケース厚が10mmちょっとと、かなり薄いです。
土井ケース厚は10.1mmですね。
細田ムーブメントは手巻きといっても専用設計ではなく、コーアクシャル脱進機キャリバーの自動巻き部分を取ったもの。なので、特別巻き味が良いといったことはないんですけども、まぁその辺の話は追々皆さんに聞いていきましょう。
広田これは、すごく良かった。この価格帯だと、僕らが以前この討論会で賞賛したユリス・ナルダン「マリーン トルピユール」とか、IWCの「ポルトギーゼ・オートマティック40」とか、グランドセイコーの白樺(SLGH005)とか、傑作がそろっていますけど、全然ガチで勝負ができる時計だと思います。
細田その中でもかなりドレッシーな方向で、キャラクターとしても立っていますよね。ポルトギーゼよりもなおドレス寄りの作りです。
広田スモセコのポルトギーゼが厚さ12.3mmだったはずだから、そう考えると薄い。
細田機械自体もオメガらしさがあって良いですよね。テンプがデカくて、マスター クロノメーターを取得しているから、精度も恐ろしいぐらい出るし。
広田全長も44.8mmと短いから、ケース径40mmに比して明らかに時計のサイズは小さく感じる。
鈴木バランスが良いよね。すごく薄いわけではないけど、装着感は良かった。
細田まぁ、気になるところがあるとすれば、巻き上げの感触があまり良くないのと、なかなか巻き上がらないところですね。
土井ややスリップするので、パワーリザーブ表示を見ながら巻き上げるのが良いですね。
広田その意味では、このモデルはパワーリザーブ表示は必須だと思います。
鈴木着用中に残量を確認できるし、縦二つ目のインダイヤルのバランスも良いね。よりクラシックな印象になる。
細田この手の時計が好きな人ってノンデイトが良いとか、無駄な要素を省きたがりますけど、このモデルは実用性を考えるとパワーリザーブがあった方が良いですよね。
土井補足をすると、センターセコンド&カレンダー付きもあります。
鈴木日付の有無は完全に個人の好み次第だね。
オメガの外装の進化を感じられるモデル
細田巻き上げに難があるのは、リュウズが小さいからなんですよね。似たような話は、元シチズンのデザイナー、大場晴也さんから聞いたことがあります。クォーツ全盛の時代にクラブ・ラ・メールのデザインをした際に、手巻きだったけど当時の流行に乗って超ちっちゃいリュウズを付けたら巻きずらくてしょうがなかったと。だから、自分のラ・メールは後から大きいリュウズに付け替えたって言っていました(笑)。そのくらい、小さいリュウズは見た目すっきりだけど、手巻きとは相性が悪いんですよね。
鈴木確かに、見た目はドレッシーになるけど、どうしてわざわざ小さいのを選んだのかな。
細田トレゾアってオメガの中でドレスウォッチのポジションなので、そのキャラクターを引き立てたかったんじゃないかと思いますが。
広田あと多分、自動巻きのムーブメントを転用しているから丸穴車も小さいんですよ。それでリュウズを大きくしちゃうと歯車に負荷がかかるからこの大きさなのかと。パワーリザーブが約72時間と長めなのも関係するだろうけど、確かに巻き上げ回数は多い。丸穴車を変更するのは難しいにしても、リュウズは改善してくれるとより良いな。
細田逆に言うと、そこぐらいしか皆さん気になるところはなかったんじゃないでしょうか。
広田外装の出来が本当に良い。インデックスが文字盤にちゃんとくっ付いてるし、実用性もよく考えてあって風防の角をわりかし立てているんですよ。アンティーク風に作るとしたら角は丸くして潰すんですけど、あえてそうせずに現代時計っぽくしてある。個人的にはこのパッケージ、すごく好きです。
細田オメガの外装ってそこまでのイメージがあったけど、ケースの磨きも良かったですね。
広田外装が良くなったオメガを象徴するモデルだと思います。
ケースの薄さにもオメガらしい工夫アリ
鈴木ここで素朴な疑問で、皆さんの意見も聞きたいんだけど、これってトランスパレントバックである必要ってありますかね?
広田贋作対策としての意味はあるかな。
鈴木それはあるか。今の時計の相場からすると決して高い価格ではないとは思うけど……、普通の人の感覚だと100万を超えてくると高級時計だからその意味でも見せているのかな。個人的にはケースバックが塞がっていても、この顔だけで十分良いんですが。
細田確かに、ドレッシーやクラシックという意味では、裏がソリッドの方が合うかもしれません。「スピードマスター」みたいにケースバックにもバリエーションがあってもいい気がしますけど、でも、そこまで本数の出るモデルじゃないだろうから、それも難しいでしょう。
広田それから、この時計の良さをもうひとつ挙げるなら、薄さへの工夫ですね。風防の厚みを除けば10.1mmよりもっと薄く仕上げているわけですが、これはベゼルを裏から4本のネジで固定することで、ベゼルの食いつきを良くしているからなんです。単なる嵌め込みではなく、ベゼルに4本の筒を立てて、裏からキュッキュッと閉めることで重い風防を支えているし、防水性能も高めている。
土井ケースの裏蓋自体はスクリューですね。
広田そう。それに追加してベゼルにも工夫をすることで、ケース径に比してかなり大きくて厚い風防をきっちり支えるようにしてある。これは地味だけどオメガっぽい。
鈴木確かに、この薄さで締まってる! って感じの印象があるよね。このスリムな感じは好感が持てる。
見るほどに味わい深い文字盤の仕上がり
細田このバーインデックスも文字盤のカーブに沿って曲げられていて、よく出来ています。
鈴木ディテールを見る私達からしても、気持ちの良い出来だよね。フュメダイアルに沿っていて、浮いてない。
土井針も沿わせて曲げてありますし、インダイヤルを1段下げることで立体感もあります。
鈴木時計って身に着けている時は斜めから見るから、その際に陰影感と立体感を感じられるようになってる。良い表情で、ずっと見ていられますね。
土井この写真でよく分かるんですけど。短針の高さがめちゃくちゃ詰まってるんですよね。
細田文字盤に当たっちゃうんじゃないかってくらいめっちゃ詰めてるよね。オメガってスポーツウォッチのイメージが強いですけど、ドレスを作るとこんなに攻めるんだって思いました。もちろん、これを着けている時はそんなに激しい運動はしないだろうという前提で作られていると思いますけど。
広田この写真を見ると、軸と針のツラがそろえてあるのも素晴らしい。高さがそろっているということね。普通は軸の頭だけが飛び出したりするけど、それがない。
細田細かいところが流石ですね。写真を1カット撮ってみても、見るポイントが多くて楽しいです。
広田見どころ満載。100万円台で実用時計を選ぶ時には選択肢のひとつとしては超良い。
鈴木近頃はまた、ドレス時計の人気も高まってますし、これならスーツだけじゃなくて色んなシーンにも着けられる。バリエーションもあるけど、迷ったらこのベーシックなのが良いと思う。
細田オメガの中ではデ・ヴィルコレクションってあまり一般に認知されてないけど、実は良い時計がいっぱいあるんですよね。
鈴木隠れた名作です。オメガの時計の中で差別化するって意味でも良いですね。
https://www.webchronos.net/features/88927/
https://www.webchronos.net/features/73559/
https://www.webchronos.net/features/62243/