世界のセレブたちがどんな時計を着けているのか、ワンシーンを切り取り紹介する連載コラム「セレブウォッチ・ハンティング」。今回は5ヵ国語を操るマルチリンガルであり、俳優、監督、ミュージシャン、モデルと幅広く活躍する多彩なディーン・フジオカが愛用するA.ランゲ&ゾーネの腕時計に着目した。
Text by Yukaco Numamoto
2023年8月20日掲載記事
5ヵ国語を操り、幅広く活躍するディーン・フジオカ
名前から、日本人ではないのかと思われがちなディーン・フジオカ。しかし両親、祖父母ともに日本人であり、本名は藤岡竜雄、中国繁体表記では藤岡靛だ。「ディーン」はホームステイ先のホストファーザーがそう呼んでいたことに由来する。香港をはじめ、東南アジア諸国では英語名を持つことが一般的であるため、何か決めなくてはいけない、となったときにディーンと決まったそうだ。
ディーン・フジオカは千葉県船橋高等学校を卒業後、米国シアトルのコミュニティ・カレッジでITを専攻した。カレッジを卒業後はアジアを中心にさまざまな国を巡り、文化や人種、多様な言語に触れた体験を写真や詩にまとめた。この経験が現在の感性に繋がっている。趣味は中国武術、キックボクシング、チェス、写真撮影とバラエティに富んでいる。
父親が中国生まれだったこともあり、グローバルな感覚は家系的に自然と身についていたのではないだろうか。元「チェキッ娘」のメンバーだった妹が1997年に第10回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストに応募し、最終選考まで残った経験もある。デビューのきっかけとなったのは2004年、香港のクラブに飛び入りでラップを披露していたところ、客席にいたファッション雑誌編集者にスカウトされたことだそうだ。これを機に、香港を拠点に雑誌や広告、ショーを中心にモデルとして芸能活動を開始している。その後、台湾のドラマや香港映画に次々と出演し、俳優としての注目が高まっていった。
数あるキャリアの中でも、思い出深いものであると思われるのは、実在の殺人犯を演じた「I am ICHIHASHI 逮捕されるまで」だろう。本作は出演作であるだけでなく、ディーン・フジオカの監督デビュー作でもある。事件が起こった当時は海外で活動していたため、事件のことは出演オファーが来るまで知らなかったという。周囲からは「実在の殺人犯を演じることがイメージダウンに繋がらないか」と心配されたそうだが、そのリスクを理解した上で引き受けたと後にインタビューで語っている。台湾や香港では良い人の役柄が多かったため、挑戦したい気持ちからだったようだ。撮影に入る際には事件の担当弁護士に会って話を聞き、実際に逃亡したルートを辿っていった。撮影期間中には撮影機材でアキレス腱を切ってしまう大怪我を負ったが、車椅子で移動しながら撮影を続行し、出演する時は立ち上がった。クールな表情からは想像しがたいほどの壮絶な撮影だったという。
ディーン・フジオカが愛用する時計はA.ランゲ&ゾーネの「グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ」
ディーン・フジオカが2022年12月10日にインスタグラムへ投稿した写真には、A.ランゲ&ゾーネの「グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ」と思われる腕時計が写っていた。鏡に映っているため、反転しているがアシンメトリーなダイアル配置からそう思われる。ケース直径は41mmで、18Kイエローゴールドのモデルではないだろうか。本モデルに搭載されるキャリバーL095.3は446の部品から成り立ち、文字盤は象徴的なアウトサイズデイトに加え、細やかな星が描かれたムーンフェイズや、約72時間のパワーリザーブの表示を備える。ムーンフェイズの月は金無垢製だ。
ムーンフェイズ表示の誤差修正は122.6年に一度という高精度なもので、これは99.998%の正確さである。新月から次の新月までどれだけ時間がかかるのか、つまり朔望周期または朔望月と呼ばれる月の満ち欠けが一巡する周期を正確に計算することは、天文学の中でも複雑な問題のひとつである。A.ランゲ&ゾーネの時計師たちは、この値をできるだけ正確に再現することに挑戦している。
また、ムーンディスクの深いブルーの色調にも着目したい。何層にも重ねられた光波のオーバーラップによって生まれる効果は干渉効果と呼ばれるもので、特許を取得したコーティング方法が採用されている。
実用性の面では、日付設定の容易さが特長に挙げられる時計だ。通常、日付を設定するにはリュウズを操作する必要があるが、本作はボタンを押すだけで日付を1日ずつ先に進めることができる。
ダイアルの素材にはアイボリーシルバーカラーのシルバー無垢が採用されている。意図的にメッキがかけられていないため、酸化によって表面に被膜が生じる経年変化を楽しむことができる。実用性を備え、芸術品クラスにまで突き詰められたA.ランゲ&ゾーネのひとつひとつの部品へのこだわりが、趣味や特技も幅広いディーン・フジオカの琴線に触れたのではないだろうか。“すべてを兼ね備えている”というファンからの声も多いディーン・フジオカが選ぶ時計は、やはり多角的に見て秀でた部分が多い時計なのかもしれない。
Ref.139.032。手巻き(Cal.L095.3)。18KPGケース(直径41.0mm)。3気圧防水。
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