2023年、耐久レースの代名詞であるル・マン24時間レースが100周年を迎えた。この伝統的なレースをリスペクトし、その偉大なヘリテージを次世代につなげるため、2002年に始まった「ル・マン クラシック」もこれを祝し、今年は例年以上の熱気に名門サーキットが包まれた。レースのメインスポンサーであるリシャール・ミルは、その興奮を凝縮した記念モデル「RM 72-01 ル・マン クラシック」を発表。初の完全自社開発のフライバック式クロノグラフムーブメントを搭載し、ヴィンテージカーが競う世紀の祭典を革新性で彩る。そしてそれは、究極のモータースポーツから多くの着想を得る独自のウォッチメイキングの原点を象徴するものでもある。
「RM 72-01 オートマティック フライバッククロノグラフ」をベースに、全身をル・マン クラシックのカラースキームで統一。洗練されたスポーティースタイルに、独創的なクロノグラフがヴィンテージカーレースの興奮を表現する。自動巻き(Cal.CRMC1)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。クオーツTPT®ケース(縦47.34×横38.40mm、厚さ11.68mm)。30m防水。世界限定150本。4873万円(税込み)。
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年9月号掲載記事]
ル・マン24時間レース100周年を祝す
ル・マン24時間レースは今年、その誕生から記念すべき100周年を迎えた。フランス・パリから南西約250kmにあるサルテ州の州都ル・マンで開催される、24時間を競う過酷な耐久レースは、F1のモナコGPやアメリカのインディ500と並び、世界3大レースに挙げられる。
数多くの熱闘が繰り広げられ、スティーブ・マックイーン主演の映画にもなったことから知名度は高く、モータースポーツファンばかりでなく、時計愛好家にも広く知られている。そしてリシャール・ミル氏もこのレースをこよなく愛するひとりだ。
世界有数のヴィンテージカーコレクターであるミル氏は、伝統のレースへの熱烈な思いから、あるイベントを思い立つ。そして自ら発起人になるとともにメインスポンサーに名乗りを上げ、2002年にスタートしたのが「ル・マン クラシック」である。
もちろんそこにはヴィンテージカー以上に情熱を傾け、その前年に3年以上をかけてようやくプロトタイプが完成し、バーゼル・フェア(後のバーゼルワールド)の会場でお披露目した自身の時計があったのは言うまでもない。サーキットのゲートには誇らしげにリシャール・ミルのフラッグが掲げられ、そのデビューを盛大に祝したのだ。
リシャール・ミル氏は、ヴィンテージカーを愛する理由について「その時代の最高の技術で作られた自動車からは作り手のパッションを感じることができる」と語っている。それは自身のウォッチメイキングの情熱とも呼応するのだろう。だからこそ、ル・マン クラシックはその象徴となり、ブランドデビューを飾り、今も変わることなく続いている。
2年に1度の開催は今回11回目を数え、特に今年はル・マン24時間レース100周年とあって、30カ国から150チーム、900人のドライバーが参加し、800台のレーシングカーが出走した。名門サーキットで稀少なヴィンテージカーが妥協せずに極限のスピードを競う迫力は、本戦以上と言ってもよく、クルマと時計を愛する世界中のファンを魅了してやまない。そのエキサイティングなレースと同時に注目を集めるのが、2008年から毎回発表されている記念モデルだ。
初代モデルは、フェリペ・マッサモデルであるRM 011をベースに、インナーベゼルにル・マン クラシックのカラーであるグリーンとホワイトを採用したアニュアルカレンダー付きのフライバッククロノグラフで、12時位置にはビッグデイトを備え、その上に大会マークを表示する。
その歴代モデルは、グリーンとホワイトのシンボルカラーをまとい、レギュラーコレクションの先進技術を投入することで、毎回、多くのファンの注目を集め、回を重ねるごとにその魅力を増していった。その最新作が「RM 72-01 ル・マン クラシック」である。
その名が示す通り、2020年に発表されたクロノグラフをベースに、ル・マン クラシックを象徴するグリーンとホワイトのクオーツTPT®のコンビネーションカラーになっている。特にミドルケースからベゼルとケースバックに連なるグリーンは、ブランドでも多用するノッチを入れたトノーシェイプを思わせ、モータースポーツをテーマにしたモデルにふさわしいスピード感にあふれる。
そこに搭載されるのが、ブランド初の自社開発による自動巻きフライバック式クロノグラフムーブメントだ。
一般的なクロノグラフがインダイアルを縦や横に配列するのに対し、2時位置の60分積算計、その下に24時間積算計、左の9時位置にスモールセコンドをアシンメトリーにレイアウトする。それぞれのインダイアルは、文字盤全面を覆うかのように最大限に拡大され、特にクロノグラフの積算表示に関わるふたつのインダイアルを右側の上下に設けることで、優れた視認性とともに、まるでコックピットに整然と並んだメーター類を印象付ける。
この独創的なレイアウトを実現したのがダブルスイングピニオンだ。
スイングピニオンは、垂直クラッチや水平クラッチに比べ軽量のため、俊敏なフライバック機構に適するとともに、そのシンプルな構造は省スペース性にも優れる。こうした特徴を生かし、秒クロノグラフ車と4番車、60分積算の歯車と香箱の連結にそれぞれ設けることで、インダイアルの最大化とトルク供給の分散を図った。これにより、伝達時のパワーロスを防ぎ、約50時間のパワーリザーブと等時性を両立させたのである。
一見、簡易とも思えるスイングピニオン機構の特性を別次元に引き出すとともに、耐久性や実用性を担保した初の自社開発クロノグラフは、リシャール・ミルの真骨頂と言えるだろう。今やブランドのデフォルトとも言える24時間積算というスペックも、ある意味ではル・マン24時間レースを想定した指標だったのかもしれない。さらに「RM 72-01 ル・マン クラシック」の24時間積算計は、16時の部分を赤く示し、24時間レースのスターティングタイムを明示しているのである。
このほか3時位置のファンクションインジケーターや縦配列の日付表示といったリシャール・ミルを代表する象徴的な機構を理路整然と組み込む一方で、レギュラーモデルにあった3・8・11の数字は取り除かれ、計器然としたデザインを強調。そして注目すべきが、11時位置に配されたグリーンとホワイトのチェッカーフラッグをモチーフに掲げられたル・マン クラシックのロゴマークだ。これこそ、走り続ける意思と情熱のシンボルにほかならない。
リシャール・ミル歴代「ル・マン クラシック」モデル
※この歴代「ル・マン クラシック」モデルはコレクションの一部です。
フライバッククロノグラフに、アニュアルカレンダーとGMT機構を搭載する。ビッグデイトやGMT針の多彩な表示要素を盛り込みながらも視認性は損なわれない。自動巻き(Cal.RMAC2)。68石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。ATZホワイトセラミックス×カーボンTPT®ケース(縦50.0×横42.7mm、厚さ16.15mm)。50m防水。世界限定150本(完売)。
搭載するCal.RMAC3はCal.RMAC2からGMTを省き、造形はより立体感を強調した。グリーンのミドルケースに、ベゼルにはトノーシェイプにノッチを入れる。自動巻き(Cal.RMAC3)。68石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。ATZホワイトセラミックス×カーボンTPT®ケース(縦49.94×横44.5mm、厚さ16.15mm)。50m防水。世界限定150本(完売)。
ベゼルにホワイトのクオーツTPT®でダブルのレーシングストライプをインサート。ブランド初の試みだ。2時位置の24時間計は時分針と連動し、24時間レースをオマージュ。自動巻き(Cal.RMAS7)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。クオーツTPT®ケース(縦48.15×横40.10mm、厚さ13.10mm)。50m防水。世界限定150本(完売)。
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