2014年、オリスは世界初、そして唯一の高度計付き自動巻き腕時計である「ビッグクラウン プロパイロット アルティメーター」を発表した。そして2023年には、その改良版である「プロパイロット アルティメーター」を発表する。新型モデルでは高度の測定範囲を6000mまで高めただけでなく、ケース素材にカーボンファイバーとPEKKコンポジットを採用し、小型化と軽量化を実現した。
自動巻き(Cal.Oris793)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。カーボンケース(直径47mm)。10気圧防水。88万円(税込み)。
世界で唯一の高度計付き自動巻き腕時計「プロパイロット アルティメーター」
スイス・ヘルシュタインに拠点を置く時計メーカー、オリスは実用的な機能を備えた時計で知られており、これまでに280個ものムーブメント開発を行ってきた。今回紹介する「プロパイロット アルティメーター」は、世界初かつ唯一の高度計付き自動巻き腕時計として、2014年に発表されたモデルの改良版である。
新しいプロパイロット アルティメーターは、6000m(1万9700ft)までの高度を表示できる高度計を搭載している。リュウズを引き出し、回転させて計測開始地点の高度を設定するだけで、その後は現在の高度を示してくれる。この驚異的な技術を理解するには、まず物理学を理解する必要があるだろう。プロパイロット アルティメーターは、パイロットや登山家といった専門家、そして時計愛好家のための時計なのだ。もっと簡単に使える電子高度計はいくらでもあるが、この時計には機械式ならではの楽しさがある。
気圧と地上からの高度は相互に関連しており、高度が上がるにつれて気圧は下がる。その地点の標高にもよるが、シンプルな計算式では高度が8m上がるごとに気圧は1hPa減少する。オリスはプロパイロット アルティメーターの高度計測機能に、この計算式を利用している。
気圧は、空の金属製ボックスの変形を利用して計測する。気圧が上がるとボックスは圧縮され、気圧が下がると再び膨張する。このわずか100分の数mmの動きが、精巧な機構によって高度計の指針に伝達されるのである。
プロパイロット アルティメーターの高度計に正確な数値を表示させるためには、製造段階から気圧と高度の設定を行う必要がある。時計を組み立てる際、職人は気象データを表示するウェザーステーションを目の前に置き、その場所の気圧に応じた高度を計測して調整する。この関係性は、正確でなければならない。これによって、常に変化する気圧のなかで正確な高度を表示することができるのだ。
ユーザーが高度計を作動させるには、まず4時位置にある刻み付きのリュウズを引き出す必要がある。高度を測定できるのは、リュウズが一段階引き出されている時のみだ。リュウズのねじ込み部分にある赤いリングが見えていれば高度計は機能する状態であり、見えなければ通常の自動巻き時計として作動している状態である。
高度計を調整するには、リュウズを二段階引き出す。すると、文字盤とムーブメントの間にある気圧表示のリングが調整できるようになるので、基準気圧を文字盤の6時位置にある赤い三角形へ合わせる。正確に設定されていれば、黄色のマークが現在位置の高度を示してくれる。
高度計の調整が終わったら、リュウズを一段階引き出した状態に戻す。ハイキングやフライトなどの高度変化は、文字盤外周部分の黄色い2本線によって0から6000m(または0から1万9700ft)まで表示される。この時、特許を取得したオリスのリュウズは、PTFE製の機能性膜により湿気が入り込むことを防ぐ。高度計を利用せず、リュウズを完全にねじ込んだ状態であれば、この時計は通常の自動巻き腕時計として機能し、10気圧または100mの防水性能を有する。
6000mまで計測できる高度計と、新たな自動巻きムーブメントCal.793
プロパイロット アルティメーターの高度計測機構は、2014年に発表された「ビッグクラウン プロパイロット アルティメーター」をベースとしたものだ。また、他の機器に搭載されている携帯可能な高度計も参考にして、機械式時計のニーズに合わせてカスタマイズされている。
本作で重視されたことのひとつが、計測範囲を従来の4500mから6000mへと引き上げることであり、開発には丸3年を要した。解決策は、気圧ボックスに細かな調整を施すことであった。より高い計測範囲を求めるのであれば、抵抗値も高くする必要がある。そのため気圧ボックスを少し硬くし、さらにポインターが1.5倍の運針をするよう比率を変更させ、追加される1500m分を表示させるのだ。
高度は0mから4000mまでの360度と、4000mから6000mまでの180度の2種類の目盛りで表示される。表示内容の増加にともない、高度表示リングの繊細なデザインも、もうひとつの挑戦となった。
ケースは前作よりもスリムに、そして軽量化させることが望まれた。このために、異なる自動巻きのムーブメントがベースとして採用されている。Cal.SW200は、約1mmの薄型化を可能とする厚さ3.6mmのCal.SW300へと変更され、厚さ5.5mmのモジュールが組み合わされている。また高度計機能を組み込むため、文字盤の下に気圧ボックスを配置し、ムーブメントと文字盤の間に高度表示リングを配すという、以前とは異なる方法を選択した。高度計は自動巻きムーブメントから完全に分離されており、ねじ込み式のリュウズを緩めると高度計のムーブメントが前面に出る。この新しい自動巻きムーブメントは、オリスによってCal.793と名付けられた。
カーボンファイバーとPEKKのコンポジットを時計業界で初めて採用
高度測定機構を搭載したムーブメントは、チタン製ベゼルとケースバックを備えたカーボン製のケースに搭載されている。カーボンは、チタンより3分の1ほど軽量な素材だ。結果として、プロパイロット アルティメーターのケースは前作より70g軽く、1mm薄くなった。直径47mm、厚さ17mmの腕時計はかなり存在感があるが、オリスの矜持を宿す部分である。
オリスは革新的なプロセスで、軽量で丈夫な素材から時計を作りたいと考えていた。独特なデザインや模様を備え、そして何よりもオリスの哲学に沿う持続可能なプロセスを持つ、全く新しい手法によるケース用カーボンファイバーの開発と生産を担ったのは、スイスのハイテク素材製造会社、9T Labsだ。本モデルのケース素材は、カーボンファイバーとPEKKと呼ばれる耐摩耗性、耐熱性、化学物質に対する耐腐食性に優れるプラスチックの積層によるものである。この素材はプラスチックのように軽いが、金属より硬い。大量生産が可能で、必要があれば再溶解ができる。航空、車両、外科器具の製造分野から生まれたこの技術を時計業界で採用したのは、オリスが初めてだ。
オリスはこの新しいカーボンファイバー加工法を「ツリーリング効果」と呼んでおり、プラスチックとカーボンファイバーは一層ごとに重ねられ、ケースのミドルパーツのラグ方向に円を描いていく。3Dプリンターはふたつのノズルを備え、どの材料をどこに堆積させるかを正確に決めることができる。「経験から学び、試行錯誤を重ねました」と、オリスの商品開発担当エンジニアであるリチャード・イプヤナ・シーグリストは語る。最終的に、カーボンは技術的に最適化され、なおかつコストを抑えた形で使用されている。
ケースの軽さに加え、片開きのフォールディングクラスプが付属した、レザーの裏地が施された丈夫なテキスタイルストラップは、手首への快適な装着感に貢献している。刻みのついたベゼル、ねじ込み式のケースバック、そしてふたつのねじ込み式のリュウズは、PVDコーティングが施されたグレード2のチタン製である。クラスプはしっかりと固定され、どのような手首の状態でも開閉システムが単独で行えるようになっている。
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