ジンが2023年に発表した「T50.ゴールドブロンズ」は、ジン独自のブロンズ合金である「ゴールドブロンズ125」や、スクラッチ加工を施した文字盤を採用したダイバーズウォッチである。デザイン性と500mという高い防水性能を両立するために、ジンの多彩な技術が活かされている。
技術と機能美を融合させたダイバーズウォッチ
自動巻き(Cal.SW300-1)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。ゴールドブロンズ125製ケース(直径41mm、厚さ12.3mm)。50気圧防水。世界限定300本。110万円(税込み)。
珍しいケース素材と技術の採用は、ドイツ・フランクフルトを拠点とする時計ブランド、ジンの強みだ。これまでにも、特殊な素材を採用したモデルを数多く送り出してきた。「T50.ゴールドブロンズ」もそのひとつであり、自社で開発したブロンズ合金が採用されている。
その外観は、ジンのさまざまなダイバーズウォッチのように、我々にはなじみ深いものだ。ベゼルには「U1」や「U50」に見られる精緻な、あるいは「T1」に見られるような細長い特有な目盛りが刻まれている。不規則なパターンを持つスクラッチダイアルは「U1.DS」で見られるものであり、U1.DSは手仕上げで文字盤に施された装飾的カットで知られている。
U1.DSとT50.ゴールドブロンズの12時位置には、エクスクラメーションマークのようなインデックスがある。一方、他のインデックスは「U2」や「U212」のようであり、T50.ゴールドブロンズでは少し短く、太く見える。時刻表示にはグリーン、ダイビング機能に関する表示にはライトブルーの蓄光塗料が塗布されており、この組み合わせは新しい。2色の蓄光塗料は、グリーンとイエローを用いたT1だけが採用していた。
T50.ゴールドブロンズは、ひと目見ただけで機能的なダイバーズウォッチの特徴であるさまざまな要素が、熟考の上に融合されていることがわかる。さらにいえば、ぱっと見ただけでは分からない要素も含まれている。T50.ゴールドブロンズが持つ500mの防水性は、ヨーロッパのダイビング機器規格EN250およびEN14143に従ってテストされ、認証会社「DNV GL」によって認定されている。つまり、50気圧の耐圧性を備えたT1、U1、U212シリーズの時計と同様に、T50.ゴールドブロンズも、−30度から+70度の間のさまざまな温度と最大湿度95%の環境下において、ヨーロッパの潜水規格に準拠したふたつの手順で精度と機能信頼性のテストが行われたのだ。
さらに、ジンの特別なArドライテクノロジーは、風防の曇りに対する機能的な耐性を担保している。乾燥カプセルや、極めて気密性の高いパッキン、そして不活性ガスの充填という3つの要素により、ムーブメントはほぼ乾燥した環境下にある。それによって、機能への信頼性と精度がより長く維持される。
安全性を重要視した誤回転防止構造ベゼル
ジンではおなじみのつかみやすい形状をしたセーフティダイバーズベゼルには、誤操作防止のための保護機能が追加されている。まず、潜水時間を設定する際には、正反対の位置にある2ヵ所を押さなければ回転しない誤回転防止構造だ。この際にベゼルは感触と音を伴って、なめらかに1分刻みに、そしてもちろん反時計回りに回転する。この安全機能は、ジンの主要な時計で採用されることはほとんどない。
T50.ゴールドブロンズと、その姉妹モデルであるゴールドブロンズ製回転ベゼルを備えたチタン製の「T50.GBDR」は、T1、T2、U1000の系譜を受け継いでいる。ジンのオーナーでありマネージングディレクターであるローター・シュミットは、このつかみやすい回転ベゼルの特許申請を40年以上も前に行っている。
特許取得のブロンズ合金「ゴールドブロンズ125」
T50.ゴールドブロンズのケースに採用されているのは、新素材の「ゴールドブロンズ125」だ。ローター・シュミットは、ブロンズを「引き出しに長い間しまってきた」と我々に語った。多くのブランドがブロンズの採用を始めるなか、彼はなにかいいアイデアが浮かぶまで、この素材を使わずにしまっておいたのだ。
ジンが自社開発したブロンズは「フォーナインズ・マテリアル(999.9)」と呼ばれる、3種類だけで構成される非常に純度の高い合金である。銅が80.5%、錫が7%、金が12.5%であることから、ゴールド・ブロンズに125という名前が付けられた。添加物や不純物としてブロンズ合金に含まれる可能性のある他の金属は、ゴールドブロンズ125では検出限界の0.002%以下である。この非常に高い純度により、塩水に対する耐腐食性の向上や、皮膚への低い干渉性を生み出す結果となっている。
珍しいケース素材と技術の開発・採用は、ジンの強みである。ローター・シュミットが共同創業者となって1999年にSächsische Uhrentechnologie GmbH(SUG)を設立し、ゴールドブロンズ125製ケースの開発とテストにも携わったのはここにも関係する。合金自体はフォルツハイムに拠点を置く専門の企業(Agosi Allgemeine Gold- und Silberscheideanstalt AG)によって、開発・製造されている。
ブロンズは、ジンが長年培ってきたダイバーズウォッチのノウハウと見事に融合している。ねじ込み式ケースバックだけが高強度のチタン製だ。しかしながらさらなる試みも進行中である。ゴールドブロンズ125も酸化により経年変化が起きるが、この合金に含まれるゴールドは変化を遅らせる。表面の黒ずみが濃くなるのに、一般的なブロンズより時間がかかるのだ。ゴールドブロンズ用の付属クロスを使えば明るい色に戻すことができるが、それを必要としない人もいるだろう。
ねじ込み式のリュウズにも、ゴールドブロンズ125が使われている。多くの既存作と同様、手の甲を圧迫しないようリュウズは4時位置の配置だ。リュウズは大きく間隔のある刻みにより、つかみやすく、ねじ込みも楽である。ムーブメントには、セリタ製の自動巻きムーブメントであるCal.SW300-1が搭載されている。計測テストにおいて日差は7秒から8秒となり、着用時には5秒とより良い値となった。文字盤に表示されるのは、センターから時、分、秒表示と、そして3時位置のデイト表示のみである。
スクラッチ加工が施された文字盤
T50.ゴールドブロンズの文字盤もまた、非常に特別なもので、世界限定300本のこのモデルのみに採用されている。限定モデルではないT50.GBDRや、T50の文字盤はブラックだ。この文字盤はスイス製で、不規則な手仕上げが施され、ところどころに微妙なニュアンスの下地が見える。スクラッチのある石のようなラフな装飾は、T50.ゴールドブロンズの堅牢なアウトドアウォッチを思わせる雰囲気とよく合っている。このユニークな仕上げにより、T50.ゴールドブロンズは1本1本が唯一無二の存在となっているのだ。
採光条件による変化にもかかわらず、時刻と機能のクリアな視認性は損なわれていない。両面に無反射加工が施されたサファイアクリスタル製風防により、特徴的な剣型針と力強いアプライドインデックスによって高い精度の時刻が表示されている。ジンの時計で素晴らしいのは、潜水機能の仕立てだ。ダイビングベゼルの計器のような目盛りは、1分ごとのクリックと合わせて緻密に並置されているため、潜水時間を精密に調整することができる。
採光条件が悪い環境下において、ダイビング機能に付随する要素はライトブルーに浮かび上がる。ダイビングベゼルの機能チェックにおいて意外と忘れられがちな要素だが、秒針にも蓄光塗料は塗布されている。これらは非常に機能的な特徴であり、T50.ゴールドブロンズがU1やU50より受け継いだものである。
防水性テキスタイルストラップを採用
T50.ゴールドブロンズには、丈夫な防水性テキスタイルストラップが組み合わされている。ジンのラインナップでこのテキスタイルストラップが採用されているのは、現在のところこのモデルだけだ。丈夫であるがゆえに、使い始めには慣れるまで少し練習が必要だろう。二重織りで非常に耐久性があるため、他のテキスタイルストラップに比べて厚みがある。
潜水用のストラップには、ラバーまたはメタル製の他の選択肢がおすすめである。それは美しいテキスタイルストラップの開閉が、純チタン製の尾錠によって行われるからである。オリーブグリーンのストラップのカラーは、T50.ゴールドブロンズと好相性であり、タウンユースにも向くだろう。
Contact info: ホッタ Tel.03-5148-2174
https://www.webchronos.net/features/85719/
https://www.webchronos.net/features/95965/
https://www.webchronos.net/features/86211/