「ロレアート」は、ジラール・ペルゴを代表するコレクションであり、ラグジュアリースポーツウォッチを牽引する存在のひとつとして認知されている。特に2017年の第4世代登場以降からはコレクションをいっそう拡充していく中で、人気を高めていくと同時に、製品としても熟成していった。「ロレアート スケルトン」は、そんな“熟成”がよく現れるモデルのひとつだ。今回は、傑作ラグジュアリースポーツウォッチとして結実したロレアート スケルトンについて、撮り下し画像とともに解説する。
Photographs by Masanori Yoshie
鶴岡智恵子(本誌):文
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
2023年9月15日掲載記事
円熟したジラール・ぺルゴの“ラグスポ”「ロレアート スケルトン」
1975年に誕生した「ロレアート」は現在、第4世代を迎える。この第4世代は2016年、創業225周年の節目にジラール・ペルゴが発表した限定モデルをブラッシュアップし、翌17年にレギュラー化した現行コレクションだ。本作は初代および第2世代のデザインを色濃く反映しつつ、洗練された薄型の外装やしなやかなブレスレットを持つ。加えて、シースルーバックからは高級機らしい面取りや装飾が施された自動巻きムーブメントをのぞかせており、現代ラグジュアリースポーツウォッチとして仕上がっている。
そんなロレアートがレギュラー化された同年、バリエーションとして発表されたのが「ロレアート スケルトン」だ。
自動巻き(Cal. GP01800-0006)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SSケース(直径42㎜、厚さ10.68㎜)。573万1000円(税込み)。
ロレアート スケルトンは文字盤側からも裏蓋側からもムーブメントが鑑賞できる、アヴァンギャルドな意匠を特徴とする。また、スケルトンの名の通り、ムーブメントの地板やブリッジが肉抜きされ、レース模様をかたどっている。直線と曲線によって構成されるスタイルは名のある建築物を想起させるとともに、初代ロレアートがイタリア人建築家によってデザインされたという歴史を思わせる。さらに、“魅せる”ためのムーブメントは、小さなパーツに至るまで優れた仕上げが与えられており、ロレアートをさらなる傑作ラグジュアリースポーツウォッチへと押し上げた。
ロレアートの人気モデルと言うと、ベーシックな3針のソリッド文字盤や、クロノグラフのイメージが強い。しかし、ジラール・ペルゴの上質なムーブメントを表裏で鑑賞できるロレアート スケルトンは、拡大してきたラグジュアリースポーツウォッチ市場において、目の肥えた愛好家らを引きつけていくだろう。
フリースプラング化! 美しさと強さを兼ね備えたムーブメントCal.GP01800-0006
ロレアート スケルトン最大の特徴は、ムーブメントだ。ベーシックな3針モデルにも搭載されてきた自動巻きCal.GP01800系をスケルトン仕様としたCal.GP01800-0006は、本作のエンジンでもありデザインを構成する要素でもある。
ベーシックモデルのCal.GP01800も、シースルーバックからのぞく機械は高級機らしく各パーツが仕上げられており、ブリッジの装飾も見事だ。一方のCal.GP01800-0006は、前述の通り“魅せる”ことを目的としたムーブメントであり、ジラール・ペルゴのハイレベルなウォッチメイキングの仕事を見ることができる。
まず目を引くのが、透かし彫りによってかたどられた、地板やブリッジのレース模様だ。ガルバニック処理によってアンスラサイトカラーとなっており、アヴァンギャルドな印象を強めている。デザインは先進的でも、各パーツの面取りはジラール・ペルゴの職人らが、伝統的な手作業で行なっている。高度な仕上げと組み合わされることで、いかにも高級ムーブメントに仕上がった。12時位置に配されたテンプ、そして5時位置の香箱もデザインコードの1要素となる。実際にテンプが振動したり、ゼンマイが巻き上げられたりするさまを文字盤側から可視化できるのは、スケルトンモデルの特権だろう。
18Kローズゴールドのブロックから削り出されたローターもレース状に肉抜きされており、ムーブメントを覆わず、光を透過させている。
ムーブメントサイズはCal.GP01800が直径30mm、厚さ3.97mmであったことに対し、GP01800-0006は直径30.6mm、厚さ4.16mmと大径化している。しかし、ケース直径は変わらず42mm、ケース厚も10.68mmに抑えられている。防水性も100mを保っており、ムーブメントはもちろん、そのパッケージにおいてもジラール・ペルゴは傑出したマニュファクチュールブランドであることが分かる。
さらに特筆すべきは、フリースプラングテンプ化したことだ。Cal.GP01800では、精度調整機構が緩急針であった。しかしCal.GP01800-0006では、フリースプラングテンプが採用され、高級仕様となっているのだ。薄い外装を持たせたラグジュアリースポーツウォッチには、衝撃や振動に強いフリースプラングテンプが欲しいところだ。ロレアート スケルトンは外観のみならず、機能面でもさらに飛躍したモデルと言えよう。
高級時計の基準はさまざまであろうが、やはり一級品のムーブメントを持つことはその前提となる。一級品ムーブメントを表裏から見せるロレアート スケルトンが所有者に与える高級時計としての価値は、疑いようがないと言えるだろう。
優れた作り込みと丁寧な仕上げで最高級“ラグスポ”へ
ロレアートの持ち味でもある、作り込みの質の高さや丁寧な仕上げは、ロレアート スケルトンでも健在だ。
近年のラグジュアリースポーツウォッチの外装仕上げは、その多くがサテンとポリッシュとでコンビネーションされている。これは薄く作られるラグジュアリースポーツウォッチに立体感を与えるためである。現在は外装技術の発展により、幅広い価格帯でこの仕上げのコンビネーションが採用されている。一方で高度な仕上げは、高級ブランドの腕の見せ所だ。
その点、ジラール・ペルゴは傑出していると言って良い。
(右)スケルトン文字盤によるインパクトに目を奪われがちだが、パーツひとつひとつからもジラール・ペルゴのウォッチメイキングへの姿勢が現れる。針やハカマの仕上げが研ぎ澄まされていることはもちろん、画像左手に見える秒針とブリッジとのクリアランスが、極限まで詰められている。
ロレアートの外装は、表面にサテン仕上げが与えられている。そしてエッジのラインとブレスレットのセンターリンクにポリッシュ仕上げを施すことで、立体的な視覚効果ときらびやかな印象を生み出している。驚くべきは、ポリッシュに仕上げられた鏡面部分だ。例えばオクタゴンとラウンドを組み合わせたベゼルを見ると、鏡面に歪みが見受けられず、パーツがきれいに映り込んでいるのである。
スケルトンの文字盤からのぞくムーブメントにも、同じことが言える。前述の通り、肉抜きされたムーブメントのパーツはしっかりと面取りされているが、さらに針やハカマなどの各パーツが磨き込まれている。また、スモールセコンドの秒針はブリッジとのクリアランスが限りなく詰められていることにも注目したい。パーツ同士のクリアランスが狭いことも、作り込みの質の高い時計の特徴だ。
(右)ケースサイドから見ると、ロレアートの造形がよく分かる。ラグからブレスレットにかけてシームレスにつながるラインが現代ラグジュアリースポーツウォッチらしい。
ラグジュアリースポーツウォッチの特徴として、ケースとブレスレットが一体型となっている点が挙げられる。ロレアートもまた、ラグからブレスレットにかけてシームレスにつながっており、サイドから見るとその造形が強調される。
このように、作り込みの質の高さと高度な仕上げが、時計愛好家の所有欲をくすぐることは間違いない。
実用できてこその“ラグスポ”
ラグジュアリースポーツウォッチと言った時、デザインや外装についての言及が多くなってしまうものだが、スポーツウォッチなら実用性も求めたいところだ。そして、ロレアートはこの実用性の点でも高い評価を得られるだろう。
(右)やはり強度の高いネジ留め式ブレスレット。薄型であるラグジュアリースポーツウォッチに耐衝撃性を与える仕様となっている。
まず、ロレアート スケルトンの防水性は100mである。これは本作に限らず、ロレアートの多くのモデルで適用されるスペックだ。また、前述の通りフリースプラングテンプが採用されたムーブメントやネジ留め式ブレスレットからも、耐衝撃性という点に配慮したことが分かる。
スケルトン文字盤でありながら、優れた視認性を持つことも特筆すべき点だ。スケルトンの世界観を損なわないよう、ベーシックな3針モデルと比べるとインデックスおよびミニッツサークルは控えめなサイズだが、時分針とともにインデックスに夜光塗料が塗布され、暗所での視認性も確保する。
またリュウズは控えめなサイズだが、引き出しづらさは感じず、針回しも良好だ。
繰り返しになるが、優れた装着感はラグジュアリースポーツウォッチを構成する要素のひとつだ。重く厚みを持ちやすいスポーツウォッチは、薄型時計と比べると装着時の違和感を覚えやすい場合がある。こういったスポーツウォッチに対してラグジュアリースポーツウォッチは、薄型設計であるため腕乗りが良い傾向にあるが、コマの可動領域が小さかったり、ケースのエッジが立ちすぎたりしていると、途端に装着感は悪くなる。その点ロレアート スケルトンは、やや重い点は気になるものの、装着時に優れている。
円熟してなお進化するジラール・ペルゴのロレアート
建築物を思わせるスケルトン文字盤、フリースプラングテンプを搭載させたムーブメント、高度な仕上げを有したロレアート スケルトンは、ジラール・ペルゴの“ラグスポ”が円熟の域に達していることを示すモデルだ。
しかし、ジラール・ペルゴは止まらない。23年8月、ジュネーブ・ウォッチ・デイズにて、いっそう進化を果たした「ロレアート アブソルート クロノグラフ 8Tech」を発表した。
自動巻き(Cal.GP03300-1058)。63石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。カーボン×Tiコンポジットケース(直径44mm、厚さ15.15mm)。100m防水。352万円(税込み)。10月発売予定。
本作は、革新的かつユニークな手法で製造されたカーボンチタンの複合素材をケースに用いていることが大きな特徴だ。この素材は樹脂を含浸させた一方向の非編み込みカーボンファイバーに、軽量のチタンパウダーを結合させている。この結合は、厚さわずか0.05mmの薄い層状に変化するが、本作ではこの層を異なる向きで重ね合わせ、「スタック」を形成した上でロレアートのオクタゴンフォルムにカットした。
さらに、カットしたオクタゴンパーツを型に入れて加熱・超高圧処理を行う。その後、フライス加工して手作業で研磨することで、ケースに独特の輝きとパターンを与えた。
本作を始め、いっそうコレクションを拡充していくロレアート。ラグジュアリースポーツウォッチ市場が熟成していくにつれて消費者の目は肥えていくが、そんな目利きにとってもロレアートは良い選択肢であり続けるだろう。
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