バーゼルワールド2016編集部注目モデル
Chronos Japan Recommends #2
中堅メゾンの失速と小工房たちの良心
2016年のS.I.H.H.からバーゼルワールドを通して雑感を述べるなら、やや重い閉塞感の一語に尽きようか。ジュネーブから続く〝スタンダード再構築〟の気運は、成長著しい〝真正のミドルレンジ〟に対し、いわゆるハイブランドの提示する〝天下り組〟の多くが、プロダクトの質を下げることでしか、望まれるプライスレンジにフィットできないという現実を浮き彫りにしただけだった。もちろん今年のバーゼルにも、曇天を吹き飛ばしてくれそうな快作は数多くあった。怒濤のハイコンプリケーションラッシュを見せたパテック フィリップ。薄型ミニッツリピーターのレコードを更新すべく気を吐いたブルガリ。初作の自社製ムーブメントを非凡な完成度に昇華させたシャネル……。しかし、こうした資金力に余裕のある大手はともかく、このご時世に最も期待を寄せたい中堅メゾンが押し並べて〝死に体〟では「金がすべてじゃないなんて」と中二病をこじらせて死んだ尾崎某が口をついて出てしまう。
で、今年の俺リコメンは〝作り手の良心〟で選ぶことにした。候補はふたつ。プライスレンジを下げつつも〝ピュアネス〟を貫いたモリッツ・グロスマンと、グランフーに挑んだツァイトヴィンケル。特に後者は(資金を浪費するばかりの)ブースを構えず、手持ちでトランクショーを展開したのだから気分的にはこちら。この写真だって近在のブラッスリーに頼み込んで醸造タンクの側で撮った。久しく忘れていた初心と言うか、こうしたお互い手作りの取材って、実はこの上なく楽しいものなのです。(鈴木裕之)