2015年頃から、時計市場において高い人気を誇ってきたラグジュアリースポーツウォッチ、通称“ラグスポ”。2023年もさまざまな時計ブランドから豊富に新作モデルがリリースされた。この新作“ラグスポ”モデルのうち、時計愛好家の所有欲をくすぐる、注目の5本を紹介する。
2023年新作ラグジュアリースポーツウォッチから5モデルを選ぶ
2023年に発表された魅力的な新作を、ジャンル別にブランド横断で俯瞰する企画として「ラグジュアリースポーツ」を取り上げる。15年頃から知名度と人気を一気に高めてきたジャンルであり、近年では魅力的な選択肢が増えている。その結果、“ラグスポ”というジャンルを通じて、各ブランドの歴史や特色、外装の仕上げを始めとした技術力が透けて見えるようになってきた。それでは、本年に発表された代表的な新作5本を紹介しよう。
IWC「インヂュニア・オートマティック 40」
自動巻き(Cal.32111)。21石。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。162万8000円(税込み)。
フルモデルチェンジの度に大きくデザインイメージを変えてきた「インヂュニア」が、1970年代のアイコニックなスタイルに、現代的な“ラグスポ”のテイストが加えられて刷新された。デザインのベースとなったのは、76年発表の「インヂュニア SL(Ref.1832)」である。これはジェラルド・ジェンタによるデザインである点や、ケースサイドからブレスレットになだらかに続くラインを描く点が、現在の“ラグスポ”に対するイメージと合致したものであった。
新作の「インヂュニア・オートマティック 40」は、インヂュニア SLの5個の凹みのあるねじ込み式ベゼルや、グリッドダイアル、H型リンクの一体型ブレスレットといった特徴を備えつつ、リュウズガードが追加され、ブレスレットのセンターリンクを始めとして各所にポリッシュが与えられるなど、現代的な解釈が加えられている。更に、外装品質は昨今のIWCに準じた良好なものとなっており、現在の“ラグスポ”に求められる要素を本作は得たと言えるだろう。
初代インヂュニアの特徴であったが前作では省略されていた高い耐磁性能も復活し、本作は約4万4000A/mの耐磁性能が与えられている。その上で、時計の仕上がり厚さは10.8mmに抑えられており、この点も“ラグスポ”らしいエレガンスを生むポイントとなっている。
https://www.webchronos.net/features/93076/
https://www.webchronos.net/features/95602/
ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・ムーンフェイズ・レトログラード・デイト」
自動巻き(Cal.2460 R31L/2)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径41mm、厚さ10.48mm)。5気圧防水。629万2000円(税込み)。
フォーマルモデルからコンプリケーションまで幅広くラインナップするヴァシュロン・コンスタンタンの中で、“ラグスポ”に分類される「オーヴァーシーズ」には毎年のように様々なアプローチで新作が発表されている。本年はレトログラード表示を備えたモデルと、ケース径35mmおよび34.5mmの新サイズが追加された。
今回は「オーヴァーシーズ・ムーンフェイズ・レトログラード・デイト」を紹介しよう。本作は、直径41mm、厚さ10.48mmのケースに、ダイアル12時側の半分にレトログラードによるデイト表示、6時位置にムーンフェイズ表示が収められたモデルである。デイト表示は、センターから伸びる青い針が9時位置の”1”から12時位置を通って1か月をかけて3時位置の”31”に到達し、”1”の表示まで瞬時に戻る作動をする。このような瞬時の作動には衝撃が伴うため、本作の製作に当たって耐久性を高める機構が採用されている。また、ムーンフェイズ表示は、122年で1日分のズレしか生じない高精度な機構が与えられている。
また本作には、ブレスレットの他に、ブルーのラバーストラップとカーフレザーストラップが付属する。ヴァシュロン・コンスタンタンは、オーヴァーシーズにおいてインターチェンジャブルシステムに早くから取り組んできた経緯があり、本作もそれに準じた構造を備える。
https://www.webchronos.net/features/93521/
https://www.webchronos.net/features/86207/
パルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF ミニッツ ラトラパンテ」
自動巻き(Cal.PF051)。35石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS×Ptケース(直径40mm、厚さ10.7mm)。60m防水。438万9000円(税込み)。
イタリア語で「円形のキャンバス」を意味するトンダは、11年の「トンダ 1950」によって大まかな方向性が定まり、20年の「トンダ GT」によってデザインコードが確立された。21年に登場したのが、トンダ GTのケースおよびブレスレットデザインを共有し、ドレッシーに解釈した「トンダ PF」である。ダイアルは、小型のインデックスと「PF」のロゴだけと割り切ったデザインに、テクスチャーのように細かくて滑らかでありながら、立体感もある細かなギヨシェ装飾が与えられている。また、スケルトン針もデザインコードのひとつだ。
今年発表された「トンダ FP ミニッツ ラトラパンテ」は、従来のトンダ PFのデザインコードを守りながら、経過時間を視認性良く管理可能な新機能を搭載している。本作の時間の表示方法を解説しよう。
ロジウム加工が施されたゴールド製の針は、一般的な時間と分を表示する機能を担当している。これに対し、分針の下に配置されている18Kローズゴールド製針がミニッツ ラトラパンテを担当している。18KRG製の針は、8時位置のプッシャーを押すことで5分、10時位置のプッシャーで1分進む。1回ずつ押せば6分だ。この状態から時間が経過して分針と18KRG製の針が重なったとき、設定した時間、すなわちこの例では6分経過したことを測ることができるのである。また、リュウズ一体型のプッシャーにより、スプリットセコンド機能と同様に針位置は分針と重なる状態に戻され、機能はリセットされる。
日常生活で頻繁に活用したくなるような分単位の経過時間の管理だが、この機能を極めてシンプルに、かつ機能を使用しない場合は二針モデルに見える合理的でミニマムな表示形式によって実現している点は、パルミジャーニ・フルリエのフィロソフィーが色濃く表れていると言えるだろう。
https://www.webchronos.net/features/93651/
https://www.webchronos.net/features/96450/
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ショパール「アルパイン イーグル 41 XPS」
自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。パワーリザーブ約65時間。2万8800振動/時。ルーセントスティールケース(直径41mm、厚さ8.0mm)。100m防水。335万5000円(税込み)。
昨今のショパールは、登場以来人気を集めるアルパイン イーグルと、Cal.L.U.C 96系に施された、傑出した仕上げが好事家の間で注目されていると言えるだろう。今年発表された「アルパイン イーグル 41 XPS」は、アルパイン イーグルにCal.L.U.C 96.40-Lを搭載した夢の超合体モデルである。
Cal.L.U.C 96.40-Lは、マイクロロータ式自動巻きに、スモールセコンドを備えるムーブメントで、ジュネーブシールを取得する優れた仕上げが特徴である。また、ムーブメントの厚さは3.0mmと薄い仕立てであり、これにより時計の仕上がり厚さは8.0mmに抑えられている。この点は、従来モデルに比べてエレガンスが増す効果が得られ、また着用感の向上にも寄与することだろう。ケース素材には、従来モデルと同じく、リサイクル素材を80%使用しながら美観に優れるルーセントスティールが用いられている。
多彩にバリエーションモデルを増やすアルパイン イーグルであるが、デビュー時のオリジナルモデルのデザインから大きな修正を加えられずに展開されている点は、当初のデザインの完成度が高いことの表れであり、アイコンとなるモデルの定着というブランド戦略の観点から見ても見事である。
https://www.webchronos.net/features/95057/
https://www.webchronos.net/features/72592/
ベル&ロス「BR 05 グリーン ゴールド」
自動巻き(BR-CAL.321)。2万8800振動/時。18KPGケース(直径40mm)。100m防水。434万5000円(税込み)。
従来は武骨なミリタリーテイストの強いツールウォッチブランドという印象の強かったベル&ロス。「BR 05」は、ベル&ロスのアイコンであるコックピットクロックのデザインを引用したスクエアのケースと、大きく視認性の高いアラビアインデックスの特徴を引き継いだツールウォッチの趣に、ケースからブレスレットになだらかに続くラインを描く“ラグスポ”テイストのシルエットを備える。
ポイントは、シルエットが“ラグスポ”テイストを備えるだけに留まらない点である。今回、近年のモデルでは急速に外装品質が向上している点に注目してピックアップした。肉厚のベゼルやケースはサテン仕上げでエッジはポリッシュと磨き分けられ、ベゼルのねじのくぼみはダイアル中央に向くように配置されて見栄えが良い。また、ねじもポリッシュされている。ブレスレットも平面部はサテン仕上げで、中ゴマはポリッシュと仕上げが分けられている。インデックスの立体感や、デイト窓の処理も手が込んだものだ。
本作ではケースとブレスレットを18Kピンクゴールド製とし、華やかさや煌びやかさのある仕上がりとなっており、ダイアルは鮮やかながら落ち着きのあるグリーンが合わせられている。
https://www.webchronos.net/features/94017/
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