腕時計の魅力はさまざまだ。デザインやメカニズムばかりでなく、ブランドやモデル固有のストーリーに心魅かれることもある。そのひとつに、個性をアピールするアクセサリーとしての魅力というものがある。ジェイコブの「エピックX」は、そうした装う楽しさを教えてくれる。手元に着ければ気持ちを盛り上げ、腕時計を見るたび、ラグジュアリーを実感することだろう。
スケルトンダイアルをシャープに演出するふたつのブリッジには、スタッズをモチーフとしたクル・ド・パリ装飾を施し、ポリッシュで仕上げる。インナーリングとリュウズを縁取るブルーの差し色が躍動感を表現する。手巻き(Cal.JCAM45)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径44mm、厚さ13.05mm)。50m 防水。478万5000円(税込み)。
(右)エピックX フライト オブ CR7
長年の友人、クリスティアーノ・ロナウドとのコラボレーションモデル。情熱溢れるレッドを基調とし、左のブリッジにその姿が描かれ、香箱にはサッカーボールをイメージしたパターンをあしらう。手巻き(Cal.JCAM45)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRG(直径44mm、厚さ13.05mm)。50m防水。924万円(税込み)。
柴田充:文 Text by Mitsuru Shibata
加瀬友重:編集 Edited by Tomoshige Kase
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]
装う楽しさを教えてくれるラグジュアリータイムピース
際立つゴージャスさと唯一無二の感性を持って、時代のアートやカルチャー、エンターテインメントと結びつき、その美学をさらに究める。そんなハイエンドラグジュアリーウォッチの先鞭をつけたブランドのひとつが、ジェイコブである。
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ローズゴールドケースにトレンドカラーのグリーンを大胆に組み合わせる。コントラストが映えるカジュアルなテイストながら、ブリッジやムーブメントのゴージャスなRGが品格を漂わせる。手巻き(Cal.JCAM45)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRG(直径44mm、厚さ13.05mm)。50m防水。957万円(税込み)。
旧ソ連(現ウズベキスタン)からアメリカに渡ったジェイコブ・アラボは、専門教育を受け、ジュエリー職人として新たな人生を歩み始めた。技術を研鑽し、1986年に自身のブランドを設立。この時、ジュエリーとともに目指したのが、幼い頃からの夢だったウォッチメイキングだったのだ。
きっかけは13歳の時に父から贈られた2タイムゾーンの腕時計だった。その文字盤には世界地図が描かれ、金メッキではあっても彼の幼心を世界に広げ、時計の深遠に強い憧憬を抱かせたのは想像に難くない。この記憶から2002年に発表したのが、ファイブタイムゾーンウォッチだ。ジェイ・Zやナオミ・キャンベルといったセレブが愛用したことでその名は一気に広がり、クォーツの特徴を生かしたユニークな機能とデザインは一世を風靡した。
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軽量なチタンケースとアクセントカラーのスカイブルーが軽快感を演出。垂直のブリッジにもオープンワークが施されている。ハニカム構造のストラップは伸縮性と通気性
に優れる。手巻き(Cal.JCAM45)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti(直径44mm、厚さ12.3mm)。50m防水。363万円(税込み)。
ニューヨークのヒップホップカルチャーとともに時代の寵児となったジェイコブは、機械式時計の限界にも挑戦する。2軸トゥールビヨンとサブダイアル、地球と月がメリーゴーラウンドのように回転するアストロノミアや、16気筒エンジンをデザインモチーフにしたブガッティ「シロン」とのコラボレーションモデルなど、本格的なコンプリケーションも数多く手掛けている。
こうしたスタイリッシュなクリエイティビティと圧倒的なウォッチメイキングこそ、ブランドを前へと推進させる原動力だ。その世界のゲートとなる注目作が「エピックX」である。
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ベゼルに合計26個、リュウズには11個のバゲットカットダイヤモンドをインビジブルセッティングする。インナーリングにはサファイア、ツァボライト、アメジストを虹のように配置。手巻き(Cal.JCAM45)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRG(直径44mm、厚さ12.3mm)。50m防水。2970万円(税込み)。
2008年に登場した「エピック」コレクション。15年にはスケルトン文字盤にモデル名であるXをモチーフにしたブリッジを持つ、エピックXが加わった。そしてその名を継承し、22年に魅力を一新した第2世代が誕生した。
(左)シースルーバックはサファイアクリスタル。ラッキーナンバー「7」のユニフォームを着たロナウドの後ろ姿をゴールドでプリントする
シンボルのXを上下のラグのデザインでかたどり、スケルトン文字盤には左右の垂直ブリッジの間にキャリバーJCAM 45 が収まる。上部に大型バレルを掲げ、縦にレイアウトされた輪列から連なり、チラネジが付けられたテンワは先進的なデザインの中に時計技術の伝統を宿す。カレンダー表示を省いたドレッシーな仕様も、このムーブメントの美しさを妨げない。
カラフルなラバーストラップのほか、硬質感あるブレスレット仕様は、現在主流になっているラグジュアリースポーツにも通じ、アクティブで洗練されたスポーティーさを感じさせる。
多面で構成されたフォルムは、あえて滑らかに面を仕上げ、美しい光沢でエレガンスを演出する。これもジュエラーならではの美的感性だ。
(左)ハーフブラックのシースルーバック越しにはキャリバーJCAM45がのぞく。縦方向の輪列に加え、独自のオクトパススプリングを採用。美しいカーブを描いて伸びた薄い3枚のブレードは巻き上げと針合わせをシンプルにし、ムーブメントにユニークな個性を添える。
ベーシックかつインフォーマルなスタイルは、多彩なライフシーンに応えるとともに、確固としたオリジナリティーを秘める。現代のラグジュアリーを象徴するエピックXが、改めて装うことの楽しさを教えてくれるだろう。
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