2022年9月にスタートしたザ・ニシオギは、「囚われのない、融通無碍の精神で、エッジの効いた物作りを行う」新ブランド。日本製らしいカッチリした作りと、想像を超えたユニークさは、今までのメイド・イン・ジャパンにはなかったものだ。文字盤に東京・西荻窪の地図をあしらった「ISSUE 3」は、その限界をさらに超えた野心作である。
西荻窪の地図を文字盤にあしらった超野心作。回転式の方位計測ベゼルと時針を併用することで、大まかな方位を割り出すことができる。外装には904Lステンレススティールを採用。上のISSUE 3.1と下の3.2ブルーでは、色だけでなく、文字盤の仕上げも異なる。自動巻き(MIYOTA Cal.9015)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径38mm)。5気圧防水。各16万5000円(税込み)。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
加瀬友重:編集 Edited by Tomoshige Kase
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]
痛快なデザインと細部への配慮
ミスズのオリジナルブランドとして2022年9月に始まったザ・ニシオギ。名前の由来はミスズの本社がある東京都杉並区の西荻窪から。「ミナセという会社があるぐらいだから、地名をブランド名にするのはありだろう」という冗談めいた理由で名付けられたが、その実、時計作りはかなり真面目だ。
もともとミスズは、40年以上前からウォッチビジネスに携わってきた。そんな同社は、今やハイゼックやメモリジン、ロベルト カヴァリ バイ フランク ミュラーなどの代理店を務めるほか、ヤーマン&ストゥービを傘下に擁する一大グループとなった。ウォッチビジネスで経験を重ねる同社が、知見を反映したオリジナルブランドを作ろう、と考えたのは当然だろう。
ザ・ニシオギの初作が、スポーツウォッチ風の「ISSUE 1」である。続いて加わったのがジュエリーウォッチの「ISSUE 2」。そして第3弾の「ISSUE 3」は、本社のある西荻窪の地図を文字盤にあしらった、前代未聞の超野心作となった。
現在、パテック フィリップやグランドセイコーといった老舗も、文字盤に地図を描くようになった。しかし、選ばれるのは、福岡や銀座といったメジャーな都市ばかり。対してザ・ニシオギは、レギュラーモデルの文字盤に、誰も興味を持たないであろう、マイナーなベッドタウンの地図を加えたのである。ちなみに文字盤に描かれた黄色の線は、西荻窪の駅からミスズ本社への道順を示すものである。加えて、方位が記された回転ベゼルと赤い時針を併用すれば、日時計よろしく、大まかだが方位を計測できる。地図とベゼルを併用すれば「富士の樹海からでも、西荻窪にたどり着けます」というのが本作の売りである。
一見、冗談のようなISSUE 3。しかし、時計自体の出来栄えは、優等生と言っていい。例えば、本作の個性である文字盤。青いベゼルとストラップのISSUE 3.2 ブルーはあえて地形をエンボス加工で浮かび上がらせているが、黒いベゼルとストラップのISSUE 3.1は地形がプリント仕上げだ。2種類の文字盤を用意したのは、仕上げの違いを楽しんで欲しいため。
ケース素材はISSUE 1に同じ904Lステンレススティール。風防もサファイアクリスタル製で、ムーブメントにもミヨタの高級版の90系が選ばれた。廉価版の82系を採用しないのは、控えめな価格であっても良いものを提供したい、という姿勢の表れから。赤い時針、青い分針、黄色の秒針は、いずれもラッカー仕上げ。鮮やかな発色を得にくいカラーにもかかわらず、色のりはかなり良い。
ケースの仕立ても細かい。直径は38mmだが、ラグを短く切ることで、女性や細腕の男性が着けても違和感はないだろう。併せて装着感を高めるために、型押し加工を施したカーフストラップもごく薄く仕立てられた。こういう遊び時計は他にもあるが、きちんと中身を詰めるというギャップに、本作の魅力がある。
ちなみに、本作に限らず、すべてのザ・ニシオギウォッチは3年保証付き。大手メーカー並みの手厚いケアも、ザ・ニシオギの真面目さを示すポイントだ。実用性一辺倒で時計を作ってきた日本の時計メーカー。誰も予想しなかったプロダクトを投入したザ・ニシオギは、そんな日本のウォッチメイキングの在り方を今後大きく変えていくかもしれない。
https://www.webchronos.net/features/47245/
https://www.webchronos.net/features/93191/
https://www.webchronos.net/features/75817/