ジャガー・ルクルトの心震わすクロノグラフ「レベルソ・トリビュート・クロノグラフ」「ポラリス・クロノグラフ」

2023.10.11

今春発表されて注目を集めた「レベルソ・トリビュート・クロノグラフ」に続き、8月下旬、ジャガー・ルクルトは従来モデルを発展させた「ポラリス・クロノグラフ」を突如リリースした。両モデルとも、コレクションのデザインコードに即しながらもダイアルのクリエイションやムーブメントを進化させており、その繊細かつ凛々しい表情は、眺めるほどに心を奪われる。

レベルソ・トリビュート・クロノグラフ

レベルソ・トリビュート・クロノグラフ
エレガントなニュアンスを強める18Kピンクゴールド製モデル。ポロブーツメーカー、カーサ・ファリアーノのデザインによるキャンバスとレザーのコンビネーションストラップに加え、カーフレザーストラップも付属する。手巻き(Cal.860)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。18KPG(縦49.4×横29.9mm、厚さ11.14mm)。30m防水。567万6000円(税込み)。
黄金比に基づいて構成されたケースの縦横バランスに加え、上下に3本のラインを刻んだゴドロン装飾など、レベルソの象徴的なデザインエレメントを踏襲した表ダイアル。サンレイ仕上げが施されたミニマルなブラックダイアルと18Kピンクゴールド製ケースとを組み合わせたことにより、高貴な雰囲気が漂う。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
竹石祐三:取材・文 Edited & Text by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]


表裏のダイアルが示す伝統と革新
REVERSO TRIBUTE CHRONOGRAPH

 2023年の3月下旬から4月上旬にかけて開催された「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」において、ジャガー・ルクルトは角型の反転式ケースで知られる旗艦コレクション「レベルソ」にフォーカスした。1931年の誕生以来、時代を超えて支持されている、黄金比を取り入れたケースデザインの完成度を改めてアピールするとともに、レベルソの新たな作品群を披露。その中でも、ジャーナリストや時計愛好家の注目をひときわ集めたのが「レベルソ・トリビュート・クロノグラフ」である。

レベルソ・トリビュート・クロノグラフ
ステンレススティールをケース素材に用いたバージョンはサンレイ仕上げのブルーグレーダイアルを組み合わせ、18Kピンクゴールドモデルとは異なる軽快な佇まいに。こちらも2種類のストラップが付属し、交換も簡単に行える。手巻き(Cal.860)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。SS(縦49.4×横29.9mm、厚さ11.14mm)。30m防水。365万2000円(税込み)。

 創業190周年の節目である今年、レベルソのルーツにオマージュを捧げるべく製作されたこのモデルがインスピレーションソースとしたのは、96年に発売された「レベルソ・クロノグラフ」だ。表裏のダイアルには時刻表示とクロノグラフ機能を振り分け、スケルトナイズされた裏側のダイアルにはレトログラード式の30分積算計もレイアウト。この裏ダイアルからのぞくキャリバー829は、象徴的な角型ケースに収まるように設計され、それはクォーツの台頭を経て機械式時計が復活した90年代に〝マニュファクチュール ジャガー・ルクルト〞の高い技術力をアピールするものでもあった。

裏ダイアルに広がるのは、オープンワークによって顕わになったCal.860の姿だ。クロノグラフムーブメントならではの精緻な構造はもちろん、丁寧に面取りされたコート・ド・ジュネーブ仕上げのブリッジや、デザインアクセントにもなっているブルーのクロノグラフ針やネジなど、卓越した技術とセンスを堪能できる。

 それから27年を経て製作されたレベルソ・トリビュート・クロノグラフは、「トリビュート」の名を冠するに相応しい完成度を見せており、当時のモデルを想起させるルックスに仕上げるとともに、ムーブメントも格段に進化させている。表ダイアルを時刻表示とするスタイルはレベルソ・クロノグラフと同様だが、デイト表示やクロノグラフの動作表示が省かれるとともに、トリビュートシリーズのデザインコードを踏襲したバトン型インデックスを採用することで、現行ラインナップの中でもひときわシンプルで端正な表情を見せている。そして、今作における最大のサプライズが裏側のダイアルだ。クロノグラフの秒表示とレトログラード式の30分積算計に加えて、表ダイアルと同時刻の表示も実現――つまり、新たに設計されたキャリバー860は、表裏のダイアルで時分針を反対方向に動かしながら、同一時刻を正確に表示することを可能にしたのだ。

1998年の「レベルソ・グランスポール・クロノグラフ」(左)に搭載されていたのが、Cal.829とはブリッジの仕上げを変えたCal.859。「レベルソ・トリビュート・クロノグラフ」ではその進化形となるCal.860(右)を搭載し、クロノグラフ機構やレトログラード式の30分積算計は継承しつつ、表と同時刻の表示を追加。水平クラッチを用いてムーブメントの厚さを5.44mmに抑えるなど、劇的な進化を見せている。

 レベルソ・クロノグラフにインスパイアされたこのモデルでは、裏ダイアルのオープンワークデザインも継承され、角型ケースにきれいに収まったキャリバー860の姿が愉しめるようになっている。コート・ド・ジュネーブ装飾が施されたブリッジには丁寧に面取りされた様子が確認でき、ブルーに彩られたネジはクロノグラフ秒針や30分積算針と調和してデザインに統一感を持たせている。7時位置にはコラムホイールも姿を現し、その回転動作を見られるのもクロノグラフモデルならではの魅力だろう。その一方で、バトン型インデックスを外周のミニッツトラックにセットしてムーブメントから浮かせ、さらにはカウンターもブラックにすることで、クロノグラフムーブメントの複雑な構造を顕わにしながらも視認性を確保するなど、元はスポーツ用に開発されたレベルソらしく、実用性にもしっかりと配慮されている。

 レベルソの伝統的な意匠を継承し、メゾンの革新性を示すレジェンダリーモデルをさらに発展させたレベルソ・トリビュート・クロノグラフ。まさに、伝統と革新性を融合させたこのモデルは、外装、ムーブメントともに惚れ惚れするような魅力に満ちあふれている。

 

繊細な手仕上げがもたらすダイアルの艶
POLARIS CHRONOGRAPH

 レベルソがジャガー・ルクルトを象徴する、歴史あるコレクションであるのに対し、「ポラリス」は2018年に追加された新鋭コレクションだ。その佇まいは、ドレッシーな雰囲気を放つレベルソとは対照的なスポーティールックであり、源流を辿ると、1968年に発表されたアラーム機能搭載のダイバーズウォッチ「メモボックス・ポラリス」にさかのぼることができる。現在のポラリス コレクションは、このメモボックス・ポラリスをインスピレーションソースとし、当時の雰囲気を漂わせながらも現代の技術で製作された、モダンなスポーティーウォッチとしてデビューを飾った。

ポラリス・クロノグラフ
ジャガー・ルクルトでは初となる、ウォームグレーカラーをダイアルにまとったこのモデルは、ブティックのみの限定販売。ミドルリングに施されたグレインサークル仕上げの繊細な質感が、時計に有機的な表情をもたらしている。自動巻き(Cal.761)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS( 直径42mm、厚さ13.39mm)。10気圧防水。226万6000円(税込み)。
センターディスクとミドルリングにそれぞれグラデーションを表現し、さらに上品な光沢を与えているのは、ひとつひとつのパーツに対し、カラー層を最大6層、その上に35層もの半透明ラッカーを手作業によって塗り重ねるという、手の込んだ工程によるもの。これにより、ダイアルには奥行きが生まれている。

 しかもポラリスは、新たに加わったコレクションとは思えないほどラインナップを充実させており、ベーシックな自動巻きの3針モデルを筆頭に、デイト表示やリピーター機能を搭載したモデル、さらにはパーペチュアルカレンダーなど、幅広いバリエーションを展開している。

 そのひとつが「ポラリス・クロノグラフ」。ダイアル内周のセンターディスクと外周のミドルリングが仕上げ分けされたポラリスのデザインコードを踏襲しつつ、3時位置に30分積算計、9時位置に12時間積算計を配した2カウンタークロノグラフで、スポーティーな雰囲気をより強めながらも着用スタイルを選ばない、品のあるデザインで好評を得てきた。

新しいポラリス・クロノグラフでは、これまでのCal.751をアップデートしたCal.761(下)を搭載。従来のポラリス・クロノグラフ(下左)では、ダイアルの9時位置に12時間積算計を配していたが、Cal.761ではこれに代わり、写真上のようにスモールセコンドをレイアウトした。ふたつのインダイアルには、メインダイアルとは質感が異なるサーキュラーグレイン仕上げを施して表情を引き締めており、随所に施されたオレンジもデザインのアクセントになっている。

 そのデビューから5年が経過した今年8月、ジャガー・ルクルトは「ポラリス・クロノグラフ」をさらにブラッシュアップした新バージョンをリリースした。最新のポラリス・クロノグラフで何よりも目を惹くのが、ダイアルのクリエイションだ。従来モデルはセンターディスクにサンレイ仕上げ、ミドルリングにグレイン仕上げ、フランジにオパーリン仕上げを施した単一カラーのダイアルを備えていたが、新モデルではセンターディスクとミドルリングにグラデーションを施し、3パーツ構成のダイアルデザインを生かした手法が取り入れられた。

ウォームグレーのダイアルと組み合わせることで軽快な印象を与えるベージュのファブリック製ストラップに加え、クル・ド・パリ装飾をモチーフとしたブラックのラバーストラップも付属。インターチェンジャブルシステムを採用し、交換も容易に行える。

 従来モデルと比較すると、ダイアルはより立体的で奥行きを感じさせる表情になっており、これを実現するために用いられたのが、手作業によるラッカー仕上げだ。センターディスクとミドルリングにはまず透明のニスを塗布し、その後、カラー層を塗り重ねていくのだが、ふたつのダイアルパーツは別々に塗装作業が行われるため、両パーツを組み合わせた際に違和感がないよう、カラー層は陰影とグラデーションをコントロールしながら最大で6層を塗り重ねているという。そして、この工程の後に実施されるのが半透明ラッカーの塗布。実に35層も重ね塗りすることで表面は艶やかになり、その奥ではジャガー・ルクルト初採用となるウォームグレー、またはディープブルーを基調としたカラーが外側に向かって沈み込んでいく、実に立体的かつ有機的な表情を描き出しているのだ。

ポラリス・クロノグラフ

ポラリス・クロノグラフ
ブルーはこれまでのポラリスでも取り入れられてきたカラーだが、グラデーションとラッカー仕上げを取り入れることで、より深みのある表情に。ステンレススティール製ブレスレットに加え、クル・ド・パリ装飾をモチーフとしたブルーのラバーストラップが付属する。自動巻き(Cal.761)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS(直径42mm、厚さ13.39mm)。10気圧防水。235万4000円(税込み)。

 また、フランジにはオパーリン仕上げを、インダイアルにはサーキュラーグレイン仕上げをそれぞれ施し、タキメーターや30分積算計、スモールセコンドの情報を読み取りやすくしつつ、各パーツの質感にコントラストをつけることによってダイアルの表情を引き締めているのも、メゾンの卓越したセンスがうかがえるクリエイションと言えるだろう。

 このようにダイアルのデザインを一新する一方で、新しいポラリス・クロノグラフは搭載するムーブメントもアップデート。従来モデルで採用されていたキャリバー751は、9時位置に12時間積算計を備えていたが、新キャリバー761はこれに代えてスモールセコンドを装備し、より実用的な仕様としている。

 ヴィンテージの雰囲気が漂う従来モデルも味わい深かったが、そのデザインをベースに、手間のかかる仕上げによって全く異なる表情を生み出した新ポラリス・クロノグラフもまた、眺めるほどに心が揺さぶられるタイムピースである。

 

ジャガー・ルクルト REVERSO STORIES

ジャガー・ルクルト REVERSO STORIES

 世界の主要都市を巡り、昨年はレベルソをテーマに期間限定で営業された「1931 CAFÉ」が、今年は「REVERSO STORIES」と名称を新たに、東京ミッドタウン(六本木)地下1階のアトリウムで11月に5日間限定でオープンする。オリジナルのフードトラックやキオスクが並び、コーヒーなどのドリンクを楽しみながら、レベルソの物語がさまざまな感覚を通して体験できるようになっている。

日時/2023年11月22日(水)~26日(日)11:00~20:00 ※22日のみ17:00~20:00
場所/東京ミッドタウン B1 アトリウム
住所/東京都港区赤坂9-7-1



Contact info: ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833


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