スピークマリン ―フェーズ2― 10年で磨き上げられた芸術性と強い個性

2023.10.07

2002年、イギリス人時計師によって立ち上げられたスピークマリンは、2012年に新CEOが就任したことに伴い、次のフェーズへと突入した。それから約10年。スピークマリンが展開する腕時計はアイコニックな意匠を残しながらも着実に進化を続けており、よりモダンで個性的な作品へと磨きがかけられている。

アカデミック ブラックタイ、
リップルズ

(右)アカデミック ブラックタイ
直線的なラグと大型のリュウズといったクラシカルなエレメントはそのままに、立体的なインデックスや、グレーとオレンジで印されたミニッツトラックを組み合わせることで、北欧プロダクトを思わせる洗練された表情に。写真の直径38mmモデルに加え、直径42mmモデル(270万4900円)も展開。自動巻き(Cal.SMA03)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。Tiケース(直径38mm、厚さ10.5mm)。3気圧防水。263万2300円(税込み)。
(左)リップルズ
スピークマリンで初めてステンレススティール製ブレスレットを備えた2022年発表モデル。ラウンドとスクエアを組み合わせたユニークな“ラ・シティ”ケースは、ロンドンの金融街にある建築物に着想を得たデザインで、エレガンスと軽快感が共存する。自動巻き(Cal.SMA03-T)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。SSケース(直径40.3mm、厚さ9.20mm)。5気圧防水。年間限定100本。361万2400円(税込み)。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
竹石祐三:取材・文 Edited & Text by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]


スピークマリン「アカデミック ブラックタイ」と「リップルズ」

 イギリスの独立時計師ピーター・スピーク・マリンが自身の名を冠した時計ブランド、スピークマリンを創設したのは2002年のこと。その作風は19世紀のイギリス製懐中時計に着想を得たもので、太く直線的なラグを組み合わせた端正な意匠は、ブランドが誕生して以降、多くの時計愛好家を魅了してきた。その一方でもうひとり、スピークマリンのクリエイティビティに着目した人物がいる。フランスを拠点とするカルフール グループ傘下のスーパーマーケット、プロヴァンシアの経営者を父に持つ、女性起業家のクリステル・ロスノブレだ。

Cal.SMA03

Cal.SMA03
「アカデミック ブラックタイ」に搭載されるSMA03は、特徴的な1時30分位置のスモールセコンドに加え、9時位置にはマイクロローターを配置。巻き上げにはリバーサー式を採用しながらも、厚さはわずか3.9mmに抑えている。このムーブメントにロジウムやハンドポリッシュ仕上げを加えたのが、「リップルズ」に搭載されるSMA03-Tで、Tは“Tradition(伝統)”を意味する。

 ロスノブレは12年にスピークマリンを買収し、CEOに就任。独特のセンスを持ったイギリス人時計師をサポートし続け、17年にこの時計師であり創業者が離れてからは、ブランドのアイデンティティを残しながらも、コレクションをより個性的かつモダナイズさせることに注力してきた。その結実とも言えるモデルが、創業20周年を迎えた昨年にリリースされた「リップルズ」と、今年発表された「アカデミック ブラックタイ」である。両モデルとも、ブランドのアイコンとも言えるハート型の時針を取り入れているが、加えてスピークマリン第2章の独自性を明示しているのが、ダイアルの1時30分位置にレイアウトされたスモールセコンドだ。

アカデミック ブラックタイ

ダイアルの1時30分位置にスモールセコンドを配置した独創的なレイアウトは、ル・セルクル・デ・オルロジェとの共同開発による自社製ムーブメントの賜物。また、立体的なローマンインデックスはブラックマットで仕上げられ、ブラックラッカー仕上げのダイアルとの絶妙なコントラストを描く。

 これを実現するうえでのカギとなったのが、ラ・ショー・ド・フォンのムーブメント製造会社「ル・セルクル・デ・オルロジェ」で、近年はルイ・ヴィトンや、ジャン-クロード・ビバーが新たに立ち上げたBIVERといった錚々たるブランドのムーブメントを開発していることで注目を集めている。設立当初はムーブメント研究開発会社としてスタートしたが、その後は時計師の採用に加え、装飾や品質管理を行うための設備、さらにはCNCマシンを導入するなど、小規模ではあるものの時計製造工房として発展を遂げている。これに着目したスピークマリンは、自社の時計開発リソースを獲得するため、15年よりル・セルクル・デ・オルロジェへの出資を開始。20年には株式の大半を保有するまでになり、自社ムーブメントの生産体制を整え、品質基準をも確立できるようになった。

アカデミック ブラックタイ

懐中時計を想起させる大型のリュウズには細かなノッチが刻まれ、操作性の高さも確保。
アカデミック ブラックタイ

初期モデルより採用されている直線的なラグは、アイコニックなディテールのひとつだ。

 現在まで、ル・セルクル・デ・オルロジェがスピークマリンのために開発したムーブメントは15種類に及ぶが、その嚆矢となったのが18年リリースの「ワン&ツー」に搭載され、1時30分位置にスモールセコンドを備えたSMA01-1だ。このムーブメントをフックに、スピークマリンの強い個性が一層確立された。アカデミック ブラックタイに搭載されているSMA03、リップルズに搭載されているSMA03-Tもこの特徴を継承し、時計の表情を個性的なものにしている。

リップルズ

スピークマリンのコレクションに共通するディテールが、“ビッグベン”と呼ばれるハート型の時針で、新しいケースデザインにおいても確固とした存在感を放っている。

 このような、コレクションに共通する強い個性に加えて、リップルズでは工業デザインを想起させるエレメントを取り入れてラグジュアリースポーツウォッチのような雰囲気を持たせ、一方のアカデミック ブラックタイは往時のミリタリーウォッチに範を取りながらもミニマルでモダンなデザインを作り上げた。ロスノブレが掲げた、時計のデザインにおける新しいアプローチの提案は、10年をかけてじっくりと磨き上げられ、ついに完成したが、ムーブメントの生産体制が本格的に固まった今後の展開にこそ、スピークマリンの真価が表れるのは間違いない。

リップルズ

リップルズウェーブと名付けられたダイアルの仕上げは、現代アートや工業デザインから着想を得たもので、時計全体にクールな印象を添える。
リップルズ

ロンドンの金融街(シティ)の名を冠した建築物にインスパイアされた、“ラ・シティ”ケース。ラウンドとスクエアを融合させたフォルムが新鮮な印象を与えている。



Contact info: DKSHマーケットエクスパンションサービスジャパン cg.csc1@dksh.com


スピークマリンが「ワン&ツー」コレクションに「アカデミック ブラックタイ」「アカデミック ホワイト」を追加

https://www.webchronos.net/news/97439/
スピークマリンのブレスレットウォッチ「リップルズ」コレクションからふたつの新作がデビュー!

https://www.webchronos.net/news/97370/
文字盤にイエローゴールドを採用した、スピークマリン設立20周年を記念する限定モデル「リップルズ」が登場

https://www.webchronos.net/news/86621/