伝統と革新に共立する唯一無二のユニークピース「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ」

2023.10.14

基本的に、ユニークピースの製作を行わないオーデマ ピゲ。しかし、飛び抜けた依頼に対しては応じる場合がある。「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ」のユニークピースは、技巧とユニークさにおいて、歴史に残る1本となった。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ

Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年9月号掲載記事]


オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ」

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ ユニークピース
時計愛好家であるくろのぴーす氏のシグネチャー「スマイリーマーク」を文字盤にあしらったユニークピース。ベースとなったのは、傑作カリヨン スーパーソヌリだ。手巻き(Cal.2956)。56石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG×18KPGケース(直径41mm、厚さ13.5mm)。20m防水。参考商品。

 オーデマ ピゲの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ」は「鳴り物」を得意とする同社の中でも、頭ひとつ抜きんでた存在である。事実、このモデルが文字盤に採用するのは、アニタ・ポルシェのアトリエが製作したオーダーメイドのエナメルダイアルだ。内3本は、エナメルにアンティークゴールドのスパンコールをあしらったもので、残り2本は、完全なオーダーとなる。

 このモデルに興味を持ったのが、時計愛好家のくろのぴーす氏だった。カリヨンでオーダーができると聞いた彼は、自身のアイコンをあしらった文字盤をフォトショップで製作し、オーデマ ピゲにリクエストを出したという。もっとも、スパンコールを使うため、絵柄が再現できないと断られたらしい。しかし、アニタ・ポルシェは解決策を見出し、半年後に製作の運びとなった。

アニタ・ポルシェのアトリエ

エナメル文字盤を製作したアニタ・ポルシェは、古典的な手法を熟知している。彼女のアトリエには新旧さまざまな釉薬が並ぶ。

 文字盤に絵文字をあしらうというアイデアは、チャレンジングな時計を好むオーデマ ピゲにしても、困難だったようだ。しかし、CEOのフランソワ-アンリ・ベナミナスはゴーサインを出した。彼は筆者にこう述べた。「なぜ絵文字モデルを製作したのか? 理由は、極めて伝統的な製法に基づきながら、クールだったからだよ。私はこういうクレイジーな試みが好きなのだ」。実現に際しては、同社の法務部が、絵文字が商標登録されていないかを入念にチェックした。

 仮にエナメル文字盤に絵文字を加えるなら、普通は金線で枠を作ったクロワゾネを選ぶ。古典の手法に通じたアニタ・ポルシェならばなおさらだろう。しかし彼女は、文字盤にレーザーで絵文字や模様を彫り込み、その上にエナメルを施すという手法を編み出した。筆者が驚いたのは、その深さだ。ポルシェは具体的な数値を述べなかったが、絵文字や模様の深さは、クロワゾネとはまるで異なる。

エナメルのブルーの釉薬

今回採用されたブルーのひとつ。かつては青だけで15もの数があったとのこと。なお彼女のエナメル文字盤にほぼ気泡がない一因は、ひとつの釉薬の準備に45分を費やすため。その入念さはオーデマ ピゲに通じる。

 ポルシェはこう語った。「絵文字の文字盤を見せられて、解決策を考えました」。それが前代未聞のレーザー彫りというわけだ。確かに、レーザーで文字盤を彫ると模様は深くなり、エッジも鋭くなる。モダンな表現にはぴったりだろう。しかし、今まで採用例がなかったのは、角に気泡が残りやすくなるためだ。ギヨシェの文字盤でさえ、エナメルを施すと気泡が残りやすいことを考えれば、より角の立ったレーザー仕上げは、お世辞にもエナメルとの相性がいいとは言えない。しかし、実物を見た限り、エッジに残った気泡は皆無だ。

「バブルがないわけではないですよ。むしろ残してあるのが、手作業らしくていいと思うのです。もっとも、気泡が入りにくいよう、エナメルを流し込む際に水を増やしたり、上下方向だけでなく、斜めからも色を入れたりしています」

 こういった作業を17層繰り返すことで、唯一無二の絵文字エナメル文字盤は完成した。エナメルで立体的な表現を目指してきた、アニタ・ポルシェにとっても、これはひとつの集大成だろう。ポルシェはこう語った。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリの文字盤の地板

レーザーで彫り込まれた文字盤の地板。この深さは、古典的なクロワゾネでは決して得られなかったものだ。こういう凝ったエナメル文字盤は、複数枚作るのが一般的だ。しかしアニタ・ポルシェは細心の注意を払い、1枚のみに注力した。

「オーデマ ピゲというのは、昔のテクニックと今のテクノロジーを駆使する会社でしょう。ですから、絵文字の文字盤を見せられて、新しい解決策を考えたのです。絵文字モデルをテクニカルな枠組みに留めておきたくなかった」

 伝統と革新の両方向に進むオーデマピゲ。本作は、そういった今の同社にしか作り得ない、金字塔のひとつだろう。関わった人たちに、筆者は心からの敬意を表したい。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリの色合わせの様子

色合わせの様子。完成した文字盤には、ポルシェの好みで、ヴィンテージスパンコールがあしらわれた。テクノロジーと昔のテクニックを両立した本作に対する、彼女なりの敬意の表れだろう。



Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000


オーデマ ピゲ CODE 11.59 New Complication

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