オメガのスピードマスターは、宇宙開発競争と深く関わってきた。数々の歴史的なイベントに立ち会ってきた時計は、今もなお国際宇宙機関の船外活動に適した時計として認定されている。そこでスピードマスターの歴史や系譜から、その魅力をひもといていこう。
オメガ スピードマスターと宇宙の歴史
スピードマスターは、もともとモータースポーツ向けに作られたオメガの計時ウォッチだ。NASAに選ばれ宇宙における数々のプロジェクトにおいて、宇宙飛行士たちに愛用されてきた時計としても広く知られる。
宇宙とスピードマスターは、どのように関わってきたのだろうか。その歴史を、記念すべきイベントごとに見ていこう。
1962年 マーキュリー計画で着用される
オメガのスピードマスターが初めて宇宙に飛び立ったのは、1962年のこと。1958〜1963年の有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」で、宇宙飛行士ウォルター・シラーが自身のスピードマスター クロノグラフを着け「シグマ7」ミッションに臨んだ。
時代は東西陣営のしのぎを削る宇宙開発競争のさなか。当時はようやく、人類が宇宙の環境に耐えられるという確証が得られた時期である。アメリカは満を持して、自国初の有人宇宙飛行計画としてマーキュリー計画を実行に移した。
シラーを含む7人の宇宙飛行士がアメリカ空軍のテストパイロットから選抜され、マーキュリー計画に臨むことになる。スピードマスターを初めて宇宙に連れていったシラー、マーキュリー計画5機目の宇宙船「シグマ7」に乗って宇宙に飛び立ち、地球6周を果たした。
1965年 NASAの公式認定を受ける
1964年、NASAはオメガを含む時計メーカーに腕時計型クロノグラフの見積もりを依頼した。このときNASAの要望に応えて見積もりを提出したメーカーには、ロレックスやロンジン、ハミルトンなど名だたる高級時計ブランドが名を連ねている。
オメガのスピードマスターは、翌1965年、NASAの公式装備品として認定された。時計が壊れてしまうほどの厳しいテストに耐えたのは、スピードマスターだけだった。スピードマスターは、有人宇宙ミッションにふさわしい時計として唯一認められた時計だったのだ。
1969年 人類初の月面着陸に携行される
NASAの公式装備品として認定された4年後、アポロ11号の乗組員の装備としてスピードマスター プロフェッショナルが支給される。宇宙飛行士たちの腕に装着されたスピードマスターは、1969年7月20日(日本時間21日)、人類が初めて月に降り立った瞬間、「ムーンウォッチ」となった。
さらに翌年、アポロ13号の爆発事故が起こった際、乗組員たちがスピードマスターでエンジンを逆噴射する時間を計算し、無事に地球に帰還したというエピソードも知られている。1972年に月での最後のミッションを遂行したアポロ17号でも、スピードマスターは船内での実験に活用された。
1975年 アポロとソユーズのドッキングに立ち会う
1975年の7月、冷戦のただ中にあったアメリカと旧ソ連は、それぞれアポロ計画、ソユーズによる有人宇宙ミッションで競い合っていた。しかし激化する宇宙開発競争は両国の予算を圧迫し、宇宙開発は頭打ちになってしまう。
こういった背景を受け、アポロとソユーズをドッキングさせて共同宇宙開発を試みる「アポロ・ソユーズテスト計画」が生まれる。冷戦の雪解けを見る、大きな出来事だった。
この歴史的な計画にも、オメガのスピードマスターの姿がある。両船の船長が抱き合って握手をした瞬間、船長らを含む宇宙飛行士たちの腕にはスピードマスターが装着されていた。
オメガ スピードマスターの歩み
オメガがスピードマスターを生み出したのは、マーキュリー計画への同行から5年さかのぼる1957年だ。初代モデルから今日まで、スピードマスターがどのように受け継がれてきたのかを見てみよう。
プロフェッショナルラインとして生まれた「Ref.CK2915-1」
スピードマスターは、1957年に創設されたプロフェッショナルラインのひとつとして誕生した。残るふたつは、防水機能に特化したダイバーズウォッチ「シーマスター」、もうひとつは耐磁機能を極めた鉄道時計「レイルマスター」である。
初代スピードマスター「Ref.CK2915-1」は、コレクションの名前が表す通り、モータースポーツ向けのプロフェッショナルラインとして誕生している。Ref.CK2915-1は、復刻モデルが存在するほどオメガにおいてインパクトの大きい時計だ。
2022年に登場した「スピードマスター キャリバー321(Ref.311.50.39.30.01.001)」は、Ref.CK2915-1から着想を得て作られている。Ref.CK2915-1の象徴であったオーバル型の「O」、ヴィンテージのオメガロゴが特徴的だ。オメガ独自のホワイトゴールド「18Kカノープスゴールド™️」を採用し、重厚感が与えられている。
手巻き(Cal.321)。17石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約55時間。カノープスゴールド™️ケース(直径38.6mm、厚さ13.9mm)。6気圧防水。1372万8000円(税込み)。
現在の基本形となった「Ref.CK2998」
手巻き(Cal.1861)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径39.7mm、厚さ14.4mm)。5気圧防水。現在は生産終了。
スピードマスター プロフェッショナル「Ref.CK2998」は、1959年に第2世代のスピードマスターとして発表された。この段階で、今日のスピードマスターのベースが出来上がったといってよいだろう。
針の形やベゼルの色が変わり、ブラックのアルミベゼルとなったことで、今日のスピードマスターに近い、スポーティーな見た目に近づいている。
2018年には、オリジナルのRef.CK2998からインスピレーションを得て、「スピードマスター CK 2998 パルスメーター(Ref.311.32.40.30.02.001)」が発表された。オリジナルモデルの魅力を取り入れつつ、レーシングライクなレザーストラップが斬新さをプラスしている。この時計はオリジナルモデルの型番にちなみ、2998本限定で生産された。
ムーブメントを新たにした「Ref.ST145.022」
自動巻き(Cal.3330)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。SSケース(縦46.2×横42.4mm、厚さ14.9mm)。10気圧防水。現在は生産終了。
第5世代のスピードマスター プロフェッショナル「Ref.ST145.022」は、ムーブメントがCal.321からCal.861に変更された。Cal.861はCal.321のクロノグラフを始動させるコラムホイールを簡略化してハートカムに変更したが、機能性は向上している。
ムーブメントメカニズムの変更には、高精度なクロノグラフを大量に生産することを目指していたオメガの企業としての思惑がある。文字盤にあしらわれていたオメガのロゴも、大量生産へ舵を切るため、プリントに変更されている。
Ref.ST145.022のデザインを刷新した派生モデルが、スピードマスター マークll(Ref.ST145.014)だ。Ref.ST145.014の復刻版として、2014年、自動巻きクロノグラフ「Cal.3330」を搭載した「Ref.327.10.43.50.06.001」が発表されている。
進化を続けるスピードマスター
宇宙開発競争時期の後も、スピードマスターはその進化を止めていない。基本のスタイルを貫きながら躍進を続けている。2023年11月現在までの変遷も知ることで、より深くスピードマスターの歴史を味わえるはずだ。
限定生産モデルや派生モデルを精力的に生産
1987年に登場した、スピードマスター初の自動巻きモデル。2年間で1500本ほどしか製造されなかった。わずかに厚みを増したケースに自動巻きムーブメントが収められ、通常のムーンウォッチよりもボタンとリュウズが近くに配置されている。
1980年代になると、オメガはムーンフェイズ搭載モデル、自動巻きムーブメントを搭載したケースと3時位置のデイデイト表示が特徴のモデルなど、本数・期間限定のスピードマスターを発表した。希少性の高いオメガ時計として「聖杯(ホーリーグレイル)」と称されるRef.ST376.0822も、この時期に製造されたモデルだ。
1990年代後半には、ロジウムメッキ仕様に変わった「Cal.1861」を搭載した第6世代が登場する。その後も数々の限定モデルや記念モデルをリリースしていく。
さらなる技術の高みへ
手巻き(Cal.3861)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42mm、厚さ13.2mm)。5気圧防水。123万2000円(税込み)。
2021年から、オメガは新たなステージへと歩みを進めることになる。「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」を発表、スピードマスターの定番モデルにもマスタークロノメーターが採用されることになったのだ。
さらに2023年の新作では、「スピレートシステム」を搭載した「スピードマスター スーパーレーシング」をリリースしている。スピレートシステムは、日差0〜+2秒という驚異的な精度を実現する、特許申請中のシステムだ。
自動巻き(Cal.9920)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径44.25mm、厚さ14.9mm)。5気圧防水。179万3000円(税込み)。
スピードマスターの歴史は宇宙とともに
オメガのスピードマスターが歩んだ歴史を振り返れば、密接な宇宙とのつながりが色濃く見える。アメリカ初の有人宇宙飛行計画からアポロ・ソユーズテスト計画まで、激動の東西陣営が競い合った宇宙開発競争とともに発展してきたのが、スピードマスターだ。
その系譜は、1957年の初代モデルから、新たな技術によって生み出された新作まで、今もなお脈々と受け継がれている。宇宙とともにあったスピードマスターの歴史を思いながら、ぜひ至高のタイムピースを手に取ってみてほしい。
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