オメガの「スピードマスター オートマチック」は、スピードマスターを時計市場に普及させた立役者だ。生産終了した今も、ヴィンテージオメガとして時計愛好家に注目される。そこで、スピードマスター オートマチックの歴史を、初代から最終型番の特徴を交えて見ていこう。
愛好家が今なお評価する「スピードマスター オートマチック」
オメガの「スピードマスター オートマチック(スピードマスター リデュースド)」は、現在は生産が終了しているシリーズだ。しかし、定番モデルにはない特徴を備えたヴィンテージオメガとして、今なお愛されている。
スピードマスター オートマチックの歴史を深く理解するために、まずはこのシリーズの特徴を見てみよう。
1980年代に登場した後発組のシリーズ
オメガの「スピードマスター」は1957年から現在まで、長い歴史を持つコレクションだ。その中でスピードマスター オートマチックは、1980年代後半に製造が開始された比較的新しいシリーズである。
スピードマスター オートマチックが登場した背景には、プロフェッショナルラインとして生まれたスピードマスターを一般にも普及させたかったオメガの狙いがある。
初代スピードマスター オートマチックは、同時期に発売された「スピードマスター プロフェッショナル」と比べて手が届く価格帯であった。さらに手巻きモデルのスピードマスター プロフェッショナルと違い、オートマチックはその名の通り、自動巻きである。
価格の面でも、使い勝手の面でも、それまでのスピードマスターにはなかった「手軽さ」を取り入れているのが特徴だ。
デザインはムーンウォッチよりも幅広い
オメガの代名詞といえる「ムーンウォッチ プロフェッショナル」は、全般的にレトロな雰囲気のシリーズだ。スピードマスター オートマチックにもムーンウォッチ プロフェッショナルと同じスタイルのモデルはあるが、レーシングモデルのようにスポーティーな時計も作られている。
他にもムーンフェイズ搭載モデルやレディース向けなど、スピードマスター オートマチックのバリエーションは豊富である。ムーンウォッチ プロフェッショナルに比べて小さめのケースも相まって、より幅広いシーンに対応できるようになったといえるだろう。
スピードマスター オートマチックの歴史
スピードマスター オートマチックは、スピードマスターの中では生産期間が長いロングセラーだった。初代モデルの登場からシリーズの終了まで、その軌跡をたどってみよう。
1987年〜 「Ref.ST376.0822」が始まり
スピードマスター オートマチックが誕生したのは、スピードマスターの歴史が始まった30年後、1987年のことである。
初代モデルは「Ref.ST376.0822」だ。スピードマスター マークIII(Ref.ST176.002)の流れを継いだ、自動巻きクロノグラフである。見た目はプロフェッショナルシリーズによく似ている。ケースやブレスレットの素材は、ステンレススティールである。
翌1988年に、リデュースドとして発表された「Ref.3510.50」は2006年まで生産された。
その後は「Ref.3511.XX〜」「Ref.3513.XX〜」「Ref.321X.XX〜」と、デザインやバックルの構造を変化させた後継シリーズも登場した。
2008年頃〜「Ref.323」シリーズで歴史を終える
初代Ref.3510.50の生産が終了しても、「Ref.321X.XX〜」シリーズが発表され、しばらくスピードマスター オートマチックは作られていた。しかし2008年頃から生産された「Ref.323X.XX〜」シリーズをもって、スピードマスター オートマチックはその歴史に幕を下ろす。
「Ref.323X.XX〜」シリーズは、手巻きのプロフェッショナルと同じ横3つ目のダイアルを採用した、自動巻きスピードマスターでもある。より頑丈な風防や約48時間のパワーリザーブなど、それまでのスピードマスター オートマチックと比べて性能が向上している。
しかし、その後「スピードマスター オートマチック」は、シリーズとして後継機が作られることはなかった。
自動巻きスピードマスターの歴史
スピードマスター オートマチックの歴史を知る上では、自動巻きスピードマスターの変遷も押さえておきたい。スピードマスターから初めてリリースされた自動巻きモデルの特徴、スピードマスター オートマチックの終了から現在までの流れを紹介しよう。
初の自動巻きは「スピードマスター マーク Ⅲ」
スピードマスターは1971年に初の自動巻きモデルが登場するまで、手巻き式のみのコレクションだった。初代の自動巻きは「スピードマスター マーク Ⅲ(Ref.ST176.002)」である。
Ref.ST176.002が発表された当初は、まだスピードマスター オートマチックというシリーズがあったわけではない。あくまでも手巻きのスピードマスター プロフェッショナルとは一線を画した時計として、自動巻きのモデルを作った形だ。
Ref.ST176.002はデザインにも未来的な要素が見られ、オメガがそれまでのスピードマスターと違った時計を作りたかったことが想像できる。
現在に受け継がれる自動巻きモデル
自動巻き(Cal.9300)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラミックケース(直径44.25mm、厚さ16.1mm)。5気圧防水。写真のモデルは現在、ホームページに在庫なし。
スピードマスター オートマチックは「Ref.323X.XX〜」シリーズで歴史を終えた。しかし近年のモデルにも、自動巻きのスピードマスターは数多くある。
例えば2013年に登場した「スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン」シリーズは、月面着陸の際にも使用された「スピードマスター プロフェッショナル」のオマージュモデルだ。このムーンウォッチのアイコン的デザインを新たに解釈し、革新的な技術が搭載されている。なお、搭載されるCal.9300は、コーアクシャル キャリバーの中で初めてクロノグラフ機能を組み込んだムーブメントである。
2017年に登場した「スピードマスター レーシング マスター クロノメーター」は、初代スピードマスターを彷彿とさせる特徴的なレーシングのダイヤルスタイルを受け継いでいる。ムーブメントは、マスター クロノメーター認定の最高水準を誇る、Cal.9900を搭載していることもポイントだ。
自動巻き(Cal.9900)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径44.25mm、厚さ14.9mm)。5気圧防水。143万円(税込み)。
2023年に新作が発表された「スピードマスター スーパーレーシング」は、日差0~±2秒という超高精度であることはもちろん、スピードマスターの中でもスポーティーなラインとしてデザイン面でも人気が高い。手に取れば、手巻きのムーンウォッチ プロフェッショナルとは違った魅力を感じられるだろう。
自動巻き(Cal.9920)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径44.25mm、厚さ14.9mm)。5気圧防水。179万3000円(税込み)。
「スピードマスター38」にも、自動巻きムーブメントが搭載されている。きらびやかなダイヤモンドをまとっていたり、洗練されたカラーに彩られていたりと、女性をターゲットにしたコレクションとはなるものの、シンプルなモデルであれば、男性の手首にもぴったりハマるサイズ感だ。
自動巻き(Cal.3330)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。18Kムーンシャインゴールドケース(直径38mm、厚さ14.73mm)。100m防水。716万1000円(税込み)。
スピードマスター オートマチックの系譜を振り返る
オメガのスピードマスターを深く知りたいなら、約20年という長きにわたって製造されていた「スピードマスター オートマチック」の存在は無視できない。それまでのプロフェッショナルラインより一般向けに作られ、スピードマスターの人気に大きく貢献したシリーズだ。
「スピードマスター オートマチック」という名は「Ref.323X.XX〜」シリーズで歴史に幕を下ろしたが、自動巻きのスピードマスターは今もオメガのラインナップに欠かせない。自動巻きには、手巻きと違った良さがある。オメガを選ぶときは、スピードマスター オートマチックの歩みも思い出してみよう。