2019年にルイ・エラールの社外アドバイザーになり、翌年には同社CEOに就任したマニュエル・エムシュ。アラン・シルベスタインやコンスタンチン・チャイキンといった時計業界の〝新旧アイコンたち〞と組むことで、瞬く間にその存在感を高め、新たなブランドイメージの創出に成功した彼に、まずはルイ・エラールCEOに就任した経緯を聞いた。
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]
アイデンティティをもう一度つくり直す、それが刺激的で面白い
1972年、スイス生まれ。アートセンターでデザインを、HECローザンヌ校でマネージメントを学び、ウォッチメイキングの世界に入る。29歳という若さでスウォッチ グループ最年少のブランド社長に就任。ジャケ・ドローに在籍した9年間で売上高を約40倍に伸ばす。2018年に自身の会社を設立し、複数の時計ブランドのコンサルティングやプロジェクトを手掛ける。2020年、ルイ・エラールのCEOに就任。
「最初にルイ・エラールというブランドに出会った時、ブランド自体が少し困難な状況にあったことは事実です。目の前にある問題を解決し、自分で戦略をつくり、その戦略を基にブランドを再編していく。その中で、社外にいるよりも株を取得してボードメンバーに参加するほうが、自分のやりたい戦略のコントロールと遂行ができると考えるようになり、今に至っています」
なぜCEO就任というリスクを取って、ルイ・エラールに関わろうと思ったのか?
「私は高級時計の世界に約25年、身を置いてきました。その経験の中で、ジャケ・ドローやRJの時もそうでしたし、ルイ・エラールもそうでしたが、ブランド自体は面白いのに、アイデンティティをなくしていると思いました。ですが、そこにこそ面白味があると感じました。なくしていたアイデンティティをもう一度つくり直すということ。それが刺激的だし、面白くなるなという想いがありました」
エムシュは、ルイ・エラールらしい、もうひとつのチャレンジについても語る。
「ルイ・エラールならば、高級時計でありながらもアクセスしやすく、購入しやすいプライシングを実現できるのではないかと思い、心に火が付きました。実際、そうしたことができているブランドは、ほかにはほとんどありません。そうした価格を実現することで、若い人をはじめ、新しい顧客にもリーチできるような価格帯にありつつも、オートオルロジュリーでいる。そういった相反することかもしれないけれども、それを実現するところに魅力を感じました」
新たにルイ・エラールというブランドを創り直そうと考えていたエムシュだったが、ブランド自体にはその可能性と価値を最初から見いだしていた。
「ルイ・エラールにもともといたチームが新しいビジョンを待っていました。誰か新しいビジョンをもって、この素晴らしいルイ・エラールの資産を新しいものに変えていく、より良いものに変えてくれるのを待ち望んでいる。そんなとても良いチームがすでにそこにいてくれて、私を迎え入れてくれた。そのコンビネーションがあったからこそ、ブランドが困難な状況にあっても、リスクを取ってやりたいと思ったのです」
著名な時計師やデザイナーと協業する「エクセレンス」シリーズの最新作は、ロシア人時計師コンスタンチン・チャイキンとのコラボレーション第2弾。スラブの伝説に登場するノコギリのような口を持つひとつ目の怪物「Likho(リホ)」の怒りに満ちたダークな一面を表現した。自動巻き(Cal.SW266-1)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径42.0mm)。5気圧防水。世界限定178本。89万1000円(10月下旬発売予定、税込み)。
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