シチリア島の南に浮かぶ地中海の島国、マルタ。首都ヴァレッタは、オスマン・トルコと戦ったマルタ騎士団が築いた要塞都市として知られ、小規模ながらも美しい街並みや多くの文化財が残されている。ここでは、17世紀末に起源を持つ伝統的な時計が多く作られてきた。
[2023年11月15日公開記事]
豪華な装飾が施された、希少なマルタ時計
マルタはその文化遺産や美しい景観、そして地元の工芸品で有名だ。レースのような装飾はもちろんのこと、陶器、吹きガラス、織物、透かし模様の銀細工、伝統的な素材を用いたタイル、そしてあまり知られていないが、17世紀末に起源を持つ伝統的な時計なども含まれる。
実用的で、なおかつ装飾的なこれらの時計(マルタの言葉で"tal-lira")は、一般的に貴族や上流・中流階級、裕福な聖職者の屋敷に置かれていた。つまり、高級な時計を手に入れる財力を持つ人々のところにあったのである。またいくつかの時計は、公邸や旅宿、教会の聖具室に設置されていた。
これらの時計は150年以上にわたって、地元での販売を目的として製造されたと考えられている。この美しい作品は、専門の異なる職人たちの協力によって生み出された。本体を作る大工(当初は木製、のちに金属製となる)、2針の構造を開発した時計師、そして仕上げと全体の組み上げを担当する金細工職人である。
一般的に、マルタの時計は木製のケースを備え、設置する場所によってさまざまなサイズが作られた。色合いはレッド、ダークグリーン、クリアブルーなど多彩だ。そしてご想像の通り、これらの手作り時計は決して大規模には生産されなかったのである。
マルタの時計の多くは豪華な装飾が施され、購入者一族の紋章、マルタ騎士団の勲章、あるいはグランドマスターの紋章などが配されることが多かった。伝統的にマルタ時計の金装飾に使われていたのは、23.5Kの金箔である。
文字盤に使用されるインデックスはローマ数字であることが多く、現代の高級時計と同じように4はIVではなく、IIIIと表される。文字盤中央には、田園風景や海の情景、城や花が描かれた。19世紀のマルタでは、主人が使用人に結婚祝いとして、時計か金貨を贈ることがよくあったと言われている。
現在では、オリジナルのマルタ時計は希少価値が高くなり、コレクターズアイテムとなっているが、見付けるのは難しく、また非常に高価である。だが、昔のモデルに着想を得た、現在の復興モデルも存在する。
マルタの時計の人気は、1992年に設立されたマルタの非営利ヘリテージ財団である「Fondazzjoni Patrimonju Malti」が開催した展覧会の影響が大きいようだ。
マルタを訪れると、あちこちで観光客向けのクォーツ式の複製品を見かけるだろう。これらはあまり面白いレプリカではないが、19世紀のマルタの生活におけるこれらの時計の重要性を示している。
しかし、本物のマルタ時計を見たいのであれば、ビルグの異端審問宮殿博物館や国立美術館、首都ヴァレッタにある貴族の邸宅跡「カーサ・ロッカ・ピッコロ」を訪れるといいだろう。
また、有名なヴァレッタの聖ヨハネ大聖堂の中庭にある、1745年に作られた天文時計も時計ファンには必見だ。2011年末に完全に修復され、その美しさを誇っている。
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