G-SHOCK初のフルメタルモデルとして、1996年にデビューしたMR-G。その後はGPSハイブリッド電波ソーラーとフルメタルの耐衝撃構造を備えて性能を著しく強化し、さらには甲冑に着想を得た外装デザインを作り上げたことで、突出した耐衝撃性能とジャパンブランドとしての矜恃をルックス面でもアピールし続けてきた。その最新作となる「MRG-B2000SG」は、このモデルのために特別製作された兜をモチーフにデザインされており、G-SHOCK誕生40周年の締めくくりに相応しい、堂々たる姿を披露している。
竹石祐三:文 Text by Yuzo Takeishi
[2023年11月22日公開記事]
特別製作の兜に着想を得た、コンセプチュアルなデザイン
今でこそ、甲冑を想起させる外装デザインのイメージが定着したMR-Gだが、その嚆矢となるモデルが誕生したのは2014年のこと。この年に発表された「MRG-G1000B」は、シリーズで初めてGPSハイブリッド電波ソーラーとフルメタル耐衝撃構造が両立したモデルとして注目を集めたが、一方ではDLCと深層硬化処理によってオールブラックに仕上げ、まさしく武具をまとったかのような力強いルックスも話題となった。その際に制作された、黒い時計と鎧兜が並んだイメージビジュアルも手伝い、MR-Gは単に「フルメタルの外装をまとったG-SHOCK」であるだけでなく、「ジャパンスピリットが紡ぎ出す高機能ウォッチ」というコンセプトも確立させたのだ。
その後も、甲冑を想起させるモデルがコンスタントにリリースされる中、MR-Gの最新作にして、G-SHOCK誕生40周年のフィナーレを飾るスペシャルモデルとして発表されたのが「MRG-B2000SG」だ。アニバーサリーを祝して特別製作された兜「衝撃丸─皚(がい)─」をモチーフとしたもので、ベースとなったのは2020年に限定発売された「MRG-B2000SH」。この時計のために作られた兜「衝撃丸」に着想を得てデザインされ、日本国内はもとより海外でも好評を博したモデルとして記憶に新しいが、MRG-B2000SGはこの衝撃丸の第2弾となっており、兜に着想を得た意匠はもちろん、ベゼルに彫金を施す大胆なクリエイションも継承することで、実に重厚な雰囲気を放つ時計に仕上げている。
伝統の技術を駆使した、力強い虎の意匠
2020年のMRG-B2000SHでひときわ注目を集めたのが、ベゼルに施された龍の彫金。ベゼルを兜の前立に見立て、龍が天に昇る姿を彫刻することで、MR-Gが掲げる力強さや挑戦し続ける姿勢を表現したものだ。これを手掛けたのが、日本を代表する彫金師の小林正雄氏。京都で彫金を学び、その後は神社仏閣に用いられる金具の製作や文化財の修復、美術工芸品に至るまで、さまざまな錺(かざり)金具を手掛けている人物であり、第1弾に続き、最新作となるMRG-B2000SBでもベゼルの彫金を担当した。
本作に施されたのは、こちらも強さの象徴である虎の意匠だ。カシオによれば、この意匠を考案したのは本作を企画したタイミングであり、図らずも“竜虎相搏つ”を表現するような展開になったというが、一方で力強い虎の姿を確立させるまでには試行錯誤が重ねられた。というのも、龍とは対照的に虎は身体が大きいため、幅の狭いベゼルで表現することが困難だったからだ。小林氏とカシオは何度にもわたってデザインの擦り合わせを行うのみならず、小林氏は彫金を施す際に虎の目と牙の表現にも注力。個体によって目の表情や牙の角度を変えることで勇猛な虎の姿を刻み、ベゼルには虎の縞模様を想起させる石目も施すことで、時計に一層の力強さを与えたのである。
しかもベゼルに用いられているのは、小林氏が一般的に彫金を施す銀や真鍮といった素材に比べるとはるかに硬質な純チタン。ベゼルに施す虎の意匠は細かったり急に折れ曲がったりするような個所が多いため、作業に使う鏨(たがね)の刃も欠けやすくなり、作業時間を大幅に増やしながら独創的な意匠を完成させたのだという。その製造本数は700本。400本限定だった前作MRG-B2000SHが世界的に支持されたことを受けて決定した本数だが、1本1本に小林氏の手による彫金が施されることを考えれば、驚異的な増産と言えるだろう。
もちろんオリジナルの兜をモチーフとした意匠はベゼルのみならず、他のディテールにも盛り込まれている。ケースにはMR-Gではお馴染みの素材で、表面のテクスチャーが印象的な再結晶チタンを採用。さらにMRG-B2000SGでは、アーク放電を用いた表面処理技術AIP(アークイオンプレーティング)を駆使し、新色となるダークシルバーカラーを取り入れたことで、銀色の兜が経年によって変色したかのような佇まいを表現した。
また、ダイアルには「MRG-B2000B-1A4JR(通称“赤備え”)」にも酷似した長方形のパターンがプリントされているが、今作では斜めのラインを加え、わずかながらも変化を持たせている。このパターンがモチーフとしているのは、兜の小札板を閉じる際に使われる白糸威(しらいとおどし)。同様のパターンは、今作におけるもうひとつの特徴であるデュラソフトバンドにも施されており、兜をモチーフとしたデザインコンセプトがあらゆるディテールにまで貫かれていることが分かる。
G-SHOCK 40周年を顕彰する特別なエレメント
MRG-B2000SGは、彫金師の手による伝統技術や兜をモチーフとした意匠を細部にまで宿す、実にMR-Gらしい時計であり、一方ではG-SHOCK誕生40周年のフィナーレを飾る特別なモデルでもある。そのため、特別なエレメントを追加してアニバーサリーイヤーを顕彰しているのも、本作をより魅力的に映す重要な要素になっている。とりわけ象徴的なのが、ベゼルにセットされたラボグロウンルビーだ。
ラボグロウンルビーは数年前に社内で提案されていたものの、これまでのG-SHOCKでは使用する機会がなかったという。だが、ルビー自体がG-SHOCKのキーカラーである赤色であることに加え、ルビーをセットする4カ所のビズが40周年の数字とリンクしていること。さらには、戦国時代の兜では赤色が好んで使われていたという背景も踏まえ、本作で初採用されることになった。またMRG-B2000SGは、これまでのMR-Gにはない、白いラバーバンドを組み合わせた時計を作りたいとの考えから誕生し、結果として“雪のような白さ”を表す「皚」の文字が与えられたモデルだが、ラボグロウンルビーの深みのある赤色が際立つ白色と対をなしており、デザインの絶妙なアクセントになっている。
伝統技術や武具の意匠を取り入れたデザイン、さらにはアニバーサリーイヤーを記念するエレメントも盛り込み、コアなファンはもちろん、時計愛好家のハートもしっかりと掴む、G-SHOCK最高峰シリーズに相応しいモデルに仕上がっている。
独自の世界観とクリエイションを見せる、現行MR-Gの代表作
このような武具に着想を得たデザインや、最高峰シリーズならではのクリエイションは、他の現行モデルにもしっかりと確認できる。中でも代表的なのが、MRG-B2000Bシリーズにラインナップされる「MRG-B2000B-1A4JR(赤備え)」と「MRG-B2000B-1AJR(勝色)」の2モデルだ。どちらも戦国時代の武具をインスピレーションソースに、深紅(こきべに)や勝色といった日本の伝統色を取り入れるのみならず、MR-Gらしい勇猛なフォルムに仕上げることで、ジャパンブランドとしてのプライドを明確に表している。
武具をモチーフとした意匠こそないものの、革新的な技術や最高峰のマテリアルを駆使し、G-SHOCK初号機のスクエアデザインをMR-Gのクオリティで完成させたのが「MRG-B5000B」だ。ケースに64チタン合金、ベゼルにコバリオン、そしてバンドにはDAT55Gといった素材を採用し、さらにこれらの高硬度素材にも徹底した研磨を施してMR-Gに相応しい艶を与えるべく、外装構造を一から見直して製作された。外装設計に合わせて新たな耐衝撃構造も取り入れるなど、G-SHOCKの最高峰シリーズであるとともにフルメタルORIGINの最高峰にも位置付けられる快作である。
https://www.casio.com/jp/watches/gshock/product.MRG-B2000SG-1A/
https://www.webchronos.net/features/104047/
https://www.webchronos.net/features/103492/
https://www.webchronos.net/features/97417/