ジン「EZM12」をレビューする。本作は、極限状態で人命救助にあたるドクターヘリの救命医師のために開発されたモデルだ。搭載機能が徹底的に検討され、人命救助に必要な時間測定や、待ち時間少なく測定可能なパルスメーター(脈拍測定)機能を備える他、時計を衛生的に保つための高いメンテナンス性も備える。これらの機能は医療従事者に留まらず、さまざまなシチュエーションにマッチするものであった。
Text and Photographs by Shin-ichi Sato
[2023年11月28日公開記事]
極限状態でも最高のパートナーとなるべく開発されたEZM12
ジンの正式名称は「ジン特殊時計」であり、極限状態で確実な性能を発揮するためのモデルを多くラインナップしてきた。その中で「EZMシリーズ」は、危険を冒す出撃・出動(Einsatz)における時刻(Zeit)の計測機器(Messer)と定義している。ジンの公式サイトを引用すれば、このEZMシリーズは「成功する選択肢しか許されない特殊部隊の最高のパートナーとなるため、ヒューマンエラーを徹底的に排除したデザインと機能を盛り込んで」開発されており、ジンの特色が色濃く表れたラインナップとなっている。
その中でEZM12は、命を救うために、時間と戦うドクターヘリの救命医師のために開発されたモデルだ。一般的な時分秒表示とデイデイト表示以外の、EZM12特有の機能面を列挙すると以下となる。
・カウントアップ式インナーベゼルによる経過時間測定
・カウントダウン式アウターベゼルによる残り時間測定
・秒針によるパルスメーター
自動巻き(Cal.ETA2836-2)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS+デギメント加工ケース(直径44mm、厚さ14mm)。20気圧防水。85万8000円(税込み)。
EZM12の特徴は、これらの機能を時分秒針とインデックスの組み合わせで実現している点で、クロノグラフのようなボタン操作が不要となっている。また、インプレッションを通して、これらの機能に加えてメンテナンス性や時計に触れたときの角の無さなど、細やかに、そして徹底的に考えられていることが分かった。それでは詳しく検討してゆこう。
大柄な体躯ながら優れた着用感のEZM12
時計を手に取った際の第一印象は、ずっしりとした重さだ。直径44mm、厚さ14mmのケースに、ラバーストラップを採用する本作は、ストラップ長さ調整済の全体重量が実測185gであった。かなりの重量級であると言える。
次に感じることは、肌当たりが柔らかいことである。角が丸められているだけではなく、外装各所が柔らかな曲線を描いており、時計を握り込んでみても肌を突く感触が無い。例外はバックルである。大きく大げさにも見えるバックルは他モデルと共用のデザインであり、エッジは丸められているものの時計本体のような柔らかさは無い。
周長約18cmの筆者にとって、タイトフィットに調整できれば着用感が非常に良い。ケースバックは飛び出しが無く、ラバーストラップが弧を描いているため、時計全体が腕に沿って安定感がある。さらに、厚手のラバーストラップや大きなバックルによって重量が分散しているからだろうか、秤が指し示した数字よりも軽量に感じる。これらの点は、以前にインプレッションしたジン「U1」にも通じる。ケースサイズや重量に対する着用感の良さを表現する指標が仮に存在したなら、ZEM12やU1はトップランカーになっているはずだ。
ただしこれはタイトフィットさせた場合であることを付記しておく。ルーズな場合は重量故に時計の暴れを感じやすい。ストラップが手首に沿った形状となっているものの、手首の細い方にどこまでフィットするかは要確認である。
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命を救うドクターヘリの救命医師のため開発されたEZM12
EZM12はドクターヘリの救命医師に向けたモデルである。先に示した柔らかな曲線を描くケースデザインは、医師が使用するラテックスやニトリル製手袋を引き裂かないためにデザインされたものであり、これは負傷者等の身体を傷つけない意図もあるはずだ。
さて、救急医療の現場では1分1秒が重要な意味を持つ。それを示すように、受傷後に適切な処置を行うことで生存率が高まる「プラチナの10分」や、重傷の場合にも1時間以内に手術が行われることで生存率が大幅に高まることを意味する「黄金の1時間」と呼ばれる時間が存在する。これらふたつの重要な指標がEZM12のインナーベゼルに色分けによって表示されており、任意の時間からの経過時間が測定可能となっている。
アウターベゼルはカウントダウン式のインデックスが配される。これを用いることで、投与した医薬品の効果が表れる時間を計測するなど活用可能である。カウントアップ式とダウン式の両方を備えたモデルは珍しく、一度に複数の負傷者の対応をしなければならない救急医療の現場を想定した本作のコンセプトがよく表れている。
この他に特徴的なのが、十字型の秒針とパルスメーター表示だ。パルスメーター表示とは、脈拍15回に要する時間を測定することで1分間あたりの心拍数が求めるもので、基本原理はタキメーターと同じである。パルスメーターはクロノグラフでの採用例や、本作同様に秒針を利用するものが存在する。これらに対する本作の特徴が十字型の秒針だ。この秒針は、ドクターヘリのメインローターをサンプリングするのと同時に、パルスメーターのカウントを15秒毎に素早く開始可能としている。これはクロノグラフのようなボタン操作を必要としないため、片手で脈を捉えなければならないことを考えれば合理的な設計である。秒針を利用する場合でも、1本タイプの一般的な秒針だったなら、測定開始を1分近く待たなければならないこともある。緊迫した現場に本作の十字型の秒針が威力を発揮するはずだ。
メンテナンス性も熟考されたロバストな構造
本作は、ツール無しにストラップを着脱可能であり、付属のツールを用いることでベゼルも簡単に取り外すことができて、洗浄や消毒が容易な構造を採用している。加えて、ベゼル上のインデックスはレーザー彫刻によるもので、凹凸が小さく汚れが溜まりにくい配慮がされている。ケースバック側の造形も凹凸が少なく、汚れが溜まりにくく洗浄もしやすそうだ。
また、20気圧防水かつ減圧耐性を備える他、80,000A/mまでの耐磁性能、特殊オイル66-228による-45℃から+80℃までの精度保証を備え、Arドライテクノロジーによりオイルや機械の性能低下を招く湿気を吸収している。ケースはデギメント加工が施されており耐傷性も高い。これらは、ツールウォッチ作りを得意とするジンの真骨頂だ。
以上からEZM12は、清潔さを保ちやすく、性能低下を抑制する各種対策が施されており、医療現場に求められる良好なメンテナンス性とロバストさを備えたモデルであると評価できる。
医療系以外の方にもお勧めしたいEZM12
ここまで述べたように、EZM12は医療従事者に向けたモデルとして十分に説得力のある完成度となっている。では、それ以外の方にはどうだろうか。今回のインプレッションを通じて、料理や製菓といった食品に関わる職業の方にもマッチすると筆者は考えた。その理由について述べよう。
洗浄や消毒に適した構造を持つEZM12は、医療同様に清潔さが求められる食品分野にも適している。特に近年では衛生面が重視されているので、調理時にニトリル製やビニール製の料理用手袋を使用する場面が良く見られる。この点でも、これらの手袋を破りにくい突起の無いEZM12がマッチすることだろう。表面に病原菌が付着している可能性があるブロック肉やホルモンを扱う方にとっては、洗浄しやすく手袋との相性が良いEZM12は良い選択となるかもしれない。カウントアップとカウントダウンの両方が可能なベゼルを用いた測時も、煮込みやオーブンでの加熱時間を管理しつつ、来客時間の確認を行う忙しい料理人の方に歓迎されるものとなるだろう。
今回例示した食品関連以外にも、衛生管理と時間管理の両方が必要なプロフェッショナルにとってEZM12は、他のモデルには無い魅力を持つ一本としてマッチする可能性がある。
明確なコンセプトと、そこから導かれた合理的なデザインを持つEZM12
ジン EZM12は、明確なコンセプトを定め、使用者のために熟考を重ねて仕様が練り上げられている。ここで、それらの仕様を実現する機構に着目すると、ジンが得意とする外装の基本構成に加え、一般的な三針ムーブメントに回転式のベゼルやインデックスを組み合わせたものであって画期的な物は含まれない。言い換えれば、枯れた技術の水平展開が見事に実現されており、信頼性が重視される医療現場に向けたデザインとして高く評価できる。それゆえに、コンセプトからやや外れたように見える角の立ったバックルは、僅かなネガティブポイントとして残る。
以上から、EZM12のコンセプトに共感を覚える方や、機能が各位の用途とマッチしそうであれば、店頭で手に取ってみる価値がある。その際はフィッティングに注目して確認し、手首が細い方は店舗スタッフに相談することもおすすめしておこう。各位のニーズにマッチするならば、EZM12は頼れる相棒として実直に仕事をこなしてくれるはずだ。
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