デビューから数年でベーシックな3針モデルからハイエンドのコンプリケーションまでを揃え、しかもケース素材の組み合わせやダイアルの豊富なカラーバリエーションを展開して「ロイヤル オーク」と並ぶブランドの基軸に成長した「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」。初採用のステンレススティールと新開発のダイアルが、オーデマ ピゲの飽くなき追求を象徴する。
菅原茂:文 Text by Shigeru Sugawara
竹石祐三:編集・文 Edited & Text by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]
コレクションの継続性を明示する、ステンレススティールモデルの追加
2023年新作は、ステンレススティールのケース、スタンプ加工による立体ダイアル、テキスタイル調のラバー加工ストラップなど、新たな試みによってスポーティーで軽快なテイストを打ち出す。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS×ブラックセラミックケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。368万5000円(税込み)。
これまで培ってきた技術とノウハウ、そして美意識のショーケースのように、次々と新たな展開を見せるスリリングな「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」(以下CODE 11.59)。2023年には、コレクションに初めてステンレススティールのケースを採用した3針モデルとクロノグラフを加えた。
「ロイヤル オーク」で実証されているように、オーデマ ピゲはステンレススティールの加工や仕上げに長け、貴金属同様の価値を生み出す高度な技術力の持ち主である。そしてまたステンレススティールは、新しいスタイリングを通じてコンテンポラリーな腕時計を志向するCODE 11.59にとってもまさに格好の素材。ステンレススティールは、最近のカジュアルなライフスタイルにもマッチし、これまで以上に普段使いの腕時計として楽しめるようになるからだ。
これらの新作は、単にゴールド素材の置き換えではない。従来との決定的な違いはダイアルにある。ステンレススティールモデルのために開発されたダイアルは、ギヨシェ職人が彫った同心円の波模様をスタンプ加工し、ガルバニックやPVDでカラーリングを施したもの。細かな波模様の立体感と奥行きを落ち着いた色調で強調したそれは、従来の艶やかなラッカーダイアルとは印象がまったく異なる。蓄光塗料を施した針とシンプルなバーインデックス、細かく秒目盛りを刻むフランジなども今回が初めて。3針モデルでは日付表示が3時位置へと移動した。今までのどことなくレトロモダンな表情の腕時計から、アクティブでスポーティーな腕時計へと変身し、若々しい表情を湛えたこの新世代のアイコンウォッチが次への扉を開いたようで実に興味深い。
新しいクロノグラフもベージュ、「ナイトブルー、クラウド50」、グリーン(写真)の3色展開。インダイアルのデザイン、フランジの細かな秒目盛り、蓄光塗料を施したバーインデックスと針など、従来よりも各所をアップデート。自動巻き(Cal.4401)。40 石。2 万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.6mm)。3気圧防水。467万5000円(税込み)。
ステンレススティールによる直径41mmケースの3針モデルはダイアルが3種類。ベージュ以外の「ナイトブルー、クラウド50」(写真)とグリーンは、スタンプ加工の新ダイアルをPVD加工によるカラーリングで引き立てる。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。335万5000円(税込み)。
3層構造ケースの再構築によって具現化した、38mmモデルの優艶な表情
サテンとポリッシュ仕上げを施したピンクゴールドのケースと、エンボス加工のパープルダイアルが絶妙にマッチ。ケースとトーンを合わせたピンクゴールドのインデックスや針も優美な表情を引き立てる。自動巻き(Cal.5900)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径38mm、厚さ9.6mm)。3気圧防水。440万円(税込み)。
2023年に発表された「CODE 11.59」の新作における初の試みは、ステンレススティール素材の導入のみならず、ケースサイズもそうだ。10月に仲間入りしたピンクゴールドの3針自動巻きモデルは、従来の41mmや42mmより小ぶりな38mmケースを採用する。だがそれは、現行モデルの単なるダウンサイジングではなかった。
オーデマ ピゲの設計チームは、ラウンドのアウターケースで八角形のミドルケースを挟む独特の複雑な3層構造を維持しながら、プロポーションを見直した。小径化と併せて厚さ9.6mmに抑えた新しいケースで注目すべきはオープンワークのラグだ。接合部の上部はCODE 11.59の特徴的な極薄ベゼルと一体になり、下部はケースバックの平面に沿いながらも微妙に下に傾いている。すなわち、細い手首のカーブにフィットしやすいように、いわゆる人間工学に基づいて計算されたデザインになっているのである。浅い溝を細かく刻み、操作しやすくなったリュウズも同様だ。
カラーコントラストによりスタイリッシュなテイストが際立つパープルダイアルに対し、アイボリーダイアルは、ピンクゴールドと穏やかに調和してCODE 11.59に内在するエレガンスを引き出す。自動巻き(Cal.5900)。29石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径38mm、厚さ9.6mm)。3気圧防水。440万円(税込み)。
サイズのみならず、ピンクゴールドのケースとマッチして優美な表情を演出するパープルやアイボリーダイアルの意匠もまた新しい。特徴は同心円状の細かな波模様がグラデーション効果を生むエンボス加工。ベースは、新しいステンレススティールモデルと同じく、スイスのギヨシェ職人ヤン・フォン・ケーネルと共同開発したもの。模様を際立たせるためのPVD処理によるカラーリングや、蓄光塗料を施した時分針などもステンレススティールモデルと共通する。これらの仕様はCODE 11.59を次の段階へと進めるための新たなデザインコードを意味するようだ。
2トーンカラー×スモークサファイアダイアルが示す、コンプリケーションの新表現
2019年の初出とは異なる新デザインで23年に再登場。ケースはピンクゴールドとブラックセラミックスの組み合わせによる2トーン、奥にムーブメントを見せるスモークサファイアクリスタルのダイアルには、23年の他の新作と同様にシンプルなバーインデックスを配す。18KPG×ブラックセラミックケース(直径41mm、厚さ13.6mm)。2気圧防水。要価格問い合わせ。
軽やかに越境し、増殖しながら自らの領域を拡大していく。そうしたダイナミズムを持った「CODE 11.59」を象徴する2023年の新作で、さらに注目すべきモデルがミニッツリピーター スーパーソヌリの最新バージョンである。19年のデビューに際し、フライングトゥールビヨンやパーペチュアルカレンダーと並んでハイコンプリケーションの御三家を成したミニッツリピーター スーパーソヌリだが、今回は初出時とは違い、スモークサファイアのダイアルを通してオーデマピゲが誇るCal.2953とその複雑機構を見せる初のデザインワークが最大の特徴だ。
16年に初めて「ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ」に搭載されたこの最高峰のミニッツリピータームーブメントは、特許保持の機構により、卓越した音響性能、音質、調和的な音色を実現。手巻き。32石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。
Cal.2953は「ロイヤル オーク コンセプト RD#1」で初導入されたスーパーソヌリテクノロジーを使ったミニッツリピータームーブメントで、現代の音響工学に基づく最先端のムーブメントである。このムーブメントを収めたCODE 11.59はしかし、どこまでもハイテク感を強調したロイヤル オーク コンセプトのデザインとはまったく対照的に、一見しただけではスーパーコンプリケーションとは気づかせないほどシックで落ち着いた佇まいを持つ。絶妙な効果を上げているのは、エレガントな雰囲気を醸すピンクゴールドのケースはもちろん、スモークのほの暗いサファイアクリスタルを通してムーブメントをモノクロームで見せるダイアルだ。さらにダイアル外周のブラックと、同じくブラックセラミックスのミドルケースもピンクゴールドとのバイカラーを成して腕時計をスタイリッシュに演出する。コンプリケーションに新たな美観をもたらす計算された表現は洗練の極みだ。
デビューから5年── 止まることのない、表現の進化
プロジェクトのスタートは2010年代半ば。それは、「ロイヤル オーク」以前の時代まで遡り、自社の創作に宿るDNAを精査して完全に新しいオリジナルデザインを考案し、同時に次世代ムーブメントの開発とコンプリケーションへの発展性も含むプラットフォームづくりを行うという革新的なものだった。オーデマ ピゲはそのコンセプトを、Challenge=挑戦、Own=継承、Dare=追求心、Evolve=進化の頭文字による「CODE」と、新たな日付に切り替わる直前の23時59分を意味する数字の「11.59」を組み合わせたユニークな名称で表現した。
19年の初コレクションは、次世代の新型自社ムーブメントを搭載するオートマティックとクロノグラフに加え、フライングトゥールビヨン、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター スーパーソヌリをラインナップ。全体のフレームを成すトップとケースバック間に八角形のミドルケースを挟む3層構造のケースに、限界まで切り詰めた薄く細いベゼルや湾曲したダブルカーブサファイアクリスタル風防を組み合わせた異色の造形は、見る角度によってクラシックとモダン、ドレッシーとカジュアル、エレガントとアバンギャルドというように多様な表情を生む前代未聞のものだった。
翌20年、進化はまずダイアルに現れる。サンバーストサテンブラッシュ仕上げの下地にラッカーを塗り重ね、外周にグラデーションペイントを施すスモークラッカーダイアルだ。単色のゴールドで始まった3層構造のケースも、2年目にしてホワイトゴールドの間にピンクゴールドのミドルケースを挟むバイカラーが登場。この組み合わせによる3針やクロノグラフに加え、スケルトンのフライングトゥールビヨンクロノグラフも誕生する。
さらに3年目となる21年に発表されたクロノグラフでは、ゴールドの間にブラックセラミックスのミドルケースを挿入し、異素材による対比的なバイカラーによってケースに新たな美観と存在感をもたらした。この斬新なスタイリングも、特別なケース構造や別角度から見るとデザインが変化するCODE 11.59ならではだ。そして、オーデマ ピゲの高度な技術で精密加工されたセラミックスは、ゴールドのケースと一体感をもって融合し、以降の複雑時計にも利用されるようになる。
ブラックセラミックスのミドルケースを導入した21年のクロノグラフは、コレクションにとって大きな前進を意味するものだが、また芯材がレザーで表面にテキスタイルモチーフを施した特殊なラバー加工ストラップも表現の進化を語るキーポイントだ。スポーティーで軽快なイメージのラバー加工ストラップは、セラミックスと同様に以降の各種モデルに多用され、デザインコードのひとつに数えられる。
22年はハイコンプリケーションでのさらなる美観の追求に挑む。ゴールドとブラックセラミックスの2トーンによるトゥールビヨンやスターホイールはたゆみなく続く表現の進化の象徴だ。
そして23年は、初のステンレススティールモデル、新しいダイアルデザイン、38mmケースなどを導入して新鮮なイメージを創出し、さらなる発展を予想させる。明確なコンセプトのもとに着々と進化を続け、わずか5年で比類ない充実したコレクションを築き上げたのは、驚異と言うほかない。
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