IWCのパーペチュアルカレンダー「ダ・ヴィンチ」は至便にして華麗

2023.12.06

1985年に発売され、パーペチュアルカレンダーの概念と常識を打ち破ったのが、IWCが生んだ名作「ダ・ヴィンチ」だ。その血統を正しく受け継ぎ、現代を生きる我々のために開発されたのがIWCのカレンダーモデル。その開発の歴史を振り返りつつ、IWCのパーペチュアルカレンダーにおける利便性と存在の意義を、今あらためて検証しよう。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー
赤みの強いレッドゴールドを採用したケースに、イタリア靴の名門サントーニが手掛けるダークブラウンのアリゲーターストラップを組み合わせ、エレガントな表情に仕上げている。自動巻き(Cal.52610)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。18Kレッドゴールド(直径44.2mm、厚さ14.9mm)。3気圧防水。605万円(税込み)。
岡村昌宏:写真 Photographs by Masahiro Okamura
名畑政治:文 Text by Masaharu Nabata
竹石祐三:編集 Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]


パーペチュアルカレンダーを 実用高級時計へと昇華させたIWCの偉業

 パーペチュアルカレンダーは高級機械式時計の最高峰に位置する複雑機構のひとつ。名著『スイス時計の技術と歴史』(1953年)によれば、最初にその開発を行ったのは1853年、スイス・ジュウ渓谷の時計師ルイ・エリゼ・ピゲであった。その後、パーペチュアルカレンダーは懐中時計から腕時計に発展するが、製作には長い時間と多数の部品が必要となるうえに、操作も難しくデリケートで高額。決して誰もが手にできる存在ではなかった。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー

そのダ・ヴィンチは、パーペチュアルカレンダー搭載クロノグラフという驚くべき複雑時計だったが、クラウス氏の優れた設計により、精度と操作性、耐久性と信頼性を高い次元で融合させた傑作となった。

 その常識を覆したのが、IWCが1985年に発売したパーペチュアルカレンダー搭載クロノグラフ「ダ・ヴィンチ」だ。このモデルは500年先まで機械的にプログラムされた4桁の西暦表示という世界初の機能を備えていたが、操作は簡易で、しかも信頼性に優れていた。

 開発担当は当時、IWCの開発主任だったクルト・クラウス氏。2006年、彼は筆者のインタビューに答えて、ダ・ヴィンチを開発した経緯を次のように説明してくれた。

クルト・クラウス

「ダ・ヴィンチ」の設計開発に携わった時計師クルト・クラウス氏。1934年、スイスとオーストリアの国境に近く、大学の町として知られるサンガレンに生まれ、ゾロトゥーン時計学校を経て57年にIWCに入社。50年代から90年代まで、ペラトン式自動巻き機構を開発したことで知られる伝説の時計師アルバート・ペラトンの薫陶を受け、数々の名作の設計を担当した。

「1970年代の終わり、時計愛好家にクォーツ時計以上の満足を与えるため、パーペチュアルカレンダーが企画されました。当時、この機構は操作の複雑さが問題でしたから、私は何より簡易な操作を優先しました。そして『できる限り少ない部品で設計し、不要な部品を省くことができれば、組み立ても簡単で価格も下げられる』という理念のもと、ダ・ヴィンチが生まれたのです」

 リーズナブルな価格と簡易な操作性、高い信頼性を備えたダ・ヴィンチは機械式複雑時計の人気を復活させ、実用的にも優れていることを広く知らしめた。そうしたIWCの伝統と技術を継承するのが、現代のIWCによるパーペチュアルカレンダーモデルの数々である。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー

「ダ・ヴィンチ」では500年間にわたり、無修正で正しい4桁の西暦を表示したが、現在では577年先まで表示が可能となっている。

 中でも代表的な「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー」は、クロノグラフこそ搭載しないものの、ダ・ヴィンチの機能とレイアウトをほぼ忠実に継承。もちろん、ダ・ヴィンチで初めてパーペチュアルカレンダーに実装された4桁の西暦表示も、577年先までプログラムされて装備する。一方で、効率と信頼性に優れたペラトン式自動巻き機構による約7日間のロングパワーリザーブとパワーリザーブ表示など、ダ・ヴィンチを超える機能も備える。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー

12時位置には立体的な造形で月の満ち欠けを示すムーンフェイズ表示を配置。月と星、ディスクは丁寧に仕上げ分けされている。

 また、パーペチュアルカレンダーの利便性を手軽に体験できるのが、小ぶりなサイズに仕上げられた「ポートフィノ・パーペチュアル・カレンダー」だ。このモデルは月・曜日・日付と閏年、ムーンフェイズ表示というパーペチュアルカレンダー必須の機能を搭載しながらも、リーズナブルな価格と気兼ねなく使える装着感の良さを実現している。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー

搭載ムーブメントであるCal.52610は1950年代にアルバート・ペラトンが開発したペラトン式自動巻き機構を採用し、実に約168時間(7日間)という長いパワーリザーブを実現。その精緻な構造はシースルー仕様のケースバックから観察できる。

 さらにIWCにはこうしたエレガントな外装デザインのパーペチュアルカレンダー搭載モデルのみならず、スポーティールックなモデルも存在する。それが「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・トップガン・セラタニウム」および「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・トップガン〝レイク・タホ〞」だ。

ポートフィノ・パーペチュアル・カレンダー

ポートフィノ・パーペチュアル・カレンダー
小ぶりな40mm径のレッドゴールド製ケースを採用するが、ケース径に対してベゼル幅が狭いため、文字盤の直径がより大きく見え、高い視認性を確保する。自動巻き(Cal.82650)。46石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18Kレッドゴールド(直径40.0mm、厚さ12.7mm)。5気圧防水。497万2000円(税込み)。

 とりわけ前者のケースに用いられているのは、IWCが開発した新素材セラタニウム。チタンの軽さと堅牢性、セラミックスに匹敵する硬さと耐傷性を兼ね備えた、タフに使えるモダンなコンプリケーションである。

ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・トップガン・セラタニウム

ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・トップガン・セラタニウム
独自開発の新素材セラタニウム®をケースに採用したタフなパーペチュアルカレンダー。12時位置には北半球と南半球の永久ムーンフェイズを表示。自動巻き(Cal.52615)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。セラタニウム®(直径46.2mm、厚さ15.4mm)。6気圧防水。770万円(税込み)。

 パーペチュアルカレンダーを、これほど幅広く展開するのはやはり、簡易な操作性と高い信頼性を確立させたIWCならでは。そこには1985年のダ・ヴィンチから今も続く複雑機構開発の伝統が結実している。そして、人類の叡智の結晶とも言うべきこの複雑時計は、次世代に引き継がれるべき価値と運命を宿している。だからこそ、パーペチュアルカレンダーは、「いずれ」ではなく「今」こそ手に入れるべき永久不滅のコンプリケーションである、と断言したいのだ。

ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・トップガン “レイク・タホ”

ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・トップガン“レイク・タホ”
雪のように眩いホワイトのセラミックスをケースに用い、ファブリックパターンを刻んだ白いラバーストラップを備えたコンプリケーションモデル。自動巻き(Cal.52615)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。セラミックス(直径46.5mm、厚さ15.5mm)。6気圧防水。585万2000円(税込み)。


コンプリートカレンダーが魅せる 洗練の機能と表情

 パーペチュアルカレンダーを、これほど幅広く展開するのはやはり、簡易な操作性と高い信頼性を確立させたIWCならでは。そこには1985年のダ・ヴィンチから今も続く複雑機構開発の伝統が結実している。そして、人類の叡智の結晶とも言うべきこの複雑時計は、次世代に引き継がれるべき価値と運命を宿している。だからこそ、パーペチュアルカレンダーは、「いずれ」ではなく「今」こそ手に入れるべき永久不滅のコンプリケーションである、と断言したいのだ。

 コンプリートカレンダーとは、月と曜日、日付の表示機構を備え、その月の日数が 日未満の時だけ、リュウズを回して日付を進める調整が必要となる機構のこと。永久カレンダーでは月ごとの日数や閏年まで自動修正し、正しいカレンダーを表示するが、より手軽で日常使いが可能なのがコンプリートカレンダーの特徴となっている。

 この実用的な機能を搭載するのがIWCの「ポートフィノ・コンプリート・カレンダー」である。イタリアの高級リゾート地の名を冠したモデルだけあって、均整の取れた左右シンメトリーなダイアルデザインは優雅さにあふれ、視認性の高さも十分に発揮する。

ポートフィノ・コンプリート・カレンダー

ポートフィノ・コンプリート・カレンダー
月の日数が31日未満の時だけ修正することで正しいカレンダーを表示するコンプリートカレンダー。縦一直線に配置された表示が、このモデルの優雅なアピアランスを強調する。自動巻き(Cal.32150)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kレッドゴールド(直径41.0mm、厚さ11.7mm)。5気圧防水。289万3000円(税込み)。

 まず時位置には曜日表示と同軸で月の満ち欠けを示すムーンフェイズを装備。その下のセンターには時・分・秒を示す3本の針がセットされ、6時位置のインダイアルには指針式の月表示と日付表示が、これもまた同軸に置かれている。

 ムーブメントは自社製造のCal. 32150で、秒針停止機構を備え、時報に合わせて正確な時刻合わせが可能。ケースバックはサファイアクリスタルによるシースルー仕様で、Cal.32150の丁寧な仕上げを観察することができる。さらに写真のモデルでは、レッドゴールドのケースにトープカラーのストラップを組み合わせ、より落ち着きのある表情を作り上げているのも魅力的だ。

 コンプリートカレンダーによる均整の取れた表示システムと利便性に加え、ポートフィノならではの優雅で洗練されたアピアランスを併せ持つポートフィノ・コンプリート・カレンダー。それは時計愛好家なら誰もが心惹かれる、羨望のカレンダーウォッチである。


Contact info:IWC Tel.0120-05-1868


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