1985年に発売され、パーペチュアルカレンダーの概念と常識を打ち破ったのが、IWCが生んだ名作「ダ・ヴィンチ」だ。その血統を正しく受け継ぎ、現代を生きる我々のために開発されたのがIWCのカレンダーモデル。その開発の歴史を振り返りつつ、IWCのパーペチュアルカレンダーにおける利便性と存在の意義を、今あらためて検証しよう。
赤みの強いレッドゴールドを採用したケースに、イタリア靴の名門サントーニが手掛けるダークブラウンのアリゲーターストラップを組み合わせ、エレガントな表情に仕上げている。自動巻き(Cal.52610)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。18Kレッドゴールド(直径44.2mm、厚さ14.9mm)。3気圧防水。605万円(税込み)。
名畑政治:文 Text by Masaharu Nabata
竹石祐三:編集 Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]
パーペチュアルカレンダーを 実用高級時計へと昇華させたIWCの偉業
パーペチュアルカレンダーは高級機械式時計の最高峰に位置する複雑機構のひとつ。名著『スイス時計の技術と歴史』(1953年)によれば、最初にその開発を行ったのは1853年、スイス・ジュウ渓谷の時計師ルイ・エリゼ・ピゲであった。その後、パーペチュアルカレンダーは懐中時計から腕時計に発展するが、製作には長い時間と多数の部品が必要となるうえに、操作も難しくデリケートで高額。決して誰もが手にできる存在ではなかった。
その常識を覆したのが、IWCが1985年に発売したパーペチュアルカレンダー搭載クロノグラフ「ダ・ヴィンチ」だ。このモデルは500年先まで機械的にプログラムされた4桁の西暦表示という世界初の機能を備えていたが、操作は簡易で、しかも信頼性に優れていた。
開発担当は当時、IWCの開発主任だったクルト・クラウス氏。2006年、彼は筆者のインタビューに答えて、ダ・ヴィンチを開発した経緯を次のように説明してくれた。
「1970年代の終わり、時計愛好家にクォーツ時計以上の満足を与えるため、パーペチュアルカレンダーが企画されました。当時、この機構は操作の複雑さが問題でしたから、私は何より簡易な操作を優先しました。そして『できる限り少ない部品で設計し、不要な部品を省くことができれば、組み立ても簡単で価格も下げられる』という理念のもと、ダ・ヴィンチが生まれたのです」
リーズナブルな価格と簡易な操作性、高い信頼性を備えたダ・ヴィンチは機械式複雑時計の人気を復活させ、実用的にも優れていることを広く知らしめた。そうしたIWCの伝統と技術を継承するのが、現代のIWCによるパーペチュアルカレンダーモデルの数々である。
中でも代表的な「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー」は、クロノグラフこそ搭載しないものの、ダ・ヴィンチの機能とレイアウトをほぼ忠実に継承。もちろん、ダ・ヴィンチで初めてパーペチュアルカレンダーに実装された4桁の西暦表示も、577年先までプログラムされて装備する。一方で、効率と信頼性に優れたペラトン式自動巻き機構による約7日間のロングパワーリザーブとパワーリザーブ表示など、ダ・ヴィンチを超える機能も備える。
また、パーペチュアルカレンダーの利便性を手軽に体験できるのが、小ぶりなサイズに仕上げられた「ポートフィノ・パーペチュアル・カレンダー」だ。このモデルは月・曜日・日付と閏年、ムーンフェイズ表示というパーペチュアルカレンダー必須の機能を搭載しながらも、リーズナブルな価格と気兼ねなく使える装着感の良さを実現している。
さらにIWCにはこうしたエレガントな外装デザインのパーペチュアルカレンダー搭載モデルのみならず、スポーティールックなモデルも存在する。それが「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・トップガン・セラタニウム」および「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・トップガン〝レイク・タホ〞」だ。
小ぶりな40mm径のレッドゴールド製ケースを採用するが、ケース径に対してベゼル幅が狭いため、文字盤の直径がより大きく見え、高い視認性を確保する。自動巻き(Cal.82650)。46石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18Kレッドゴールド(直径40.0mm、厚さ12.7mm)。5気圧防水。497万2000円(税込み)。
とりわけ前者のケースに用いられているのは、IWCが開発した新素材セラタニウム。チタンの軽さと堅牢性、セラミックスに匹敵する硬さと耐傷性を兼ね備えた、タフに使えるモダンなコンプリケーションである。
独自開発の新素材セラタニウム®をケースに採用したタフなパーペチュアルカレンダー。12時位置には北半球と南半球の永久ムーンフェイズを表示。自動巻き(Cal.52615)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。セラタニウム®(直径46.2mm、厚さ15.4mm)。6気圧防水。770万円(税込み)。
パーペチュアルカレンダーを、これほど幅広く展開するのはやはり、簡易な操作性と高い信頼性を確立させたIWCならでは。そこには1985年のダ・ヴィンチから今も続く複雑機構開発の伝統が結実している。そして、人類の叡智の結晶とも言うべきこの複雑時計は、次世代に引き継がれるべき価値と運命を宿している。だからこそ、パーペチュアルカレンダーは、「いずれ」ではなく「今」こそ手に入れるべき永久不滅のコンプリケーションである、と断言したいのだ。
雪のように眩いホワイトのセラミックスをケースに用い、ファブリックパターンを刻んだ白いラバーストラップを備えたコンプリケーションモデル。自動巻き(Cal.52615)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。セラミックス(直径46.5mm、厚さ15.5mm)。6気圧防水。585万2000円(税込み)。
コンプリートカレンダーが魅せる 洗練の機能と表情
パーペチュアルカレンダーを、これほど幅広く展開するのはやはり、簡易な操作性と高い信頼性を確立させたIWCならでは。そこには1985年のダ・ヴィンチから今も続く複雑機構開発の伝統が結実している。そして、人類の叡智の結晶とも言うべきこの複雑時計は、次世代に引き継がれるべき価値と運命を宿している。だからこそ、パーペチュアルカレンダーは、「いずれ」ではなく「今」こそ手に入れるべき永久不滅のコンプリケーションである、と断言したいのだ。
コンプリートカレンダーとは、月と曜日、日付の表示機構を備え、その月の日数が 日未満の時だけ、リュウズを回して日付を進める調整が必要となる機構のこと。永久カレンダーでは月ごとの日数や閏年まで自動修正し、正しいカレンダーを表示するが、より手軽で日常使いが可能なのがコンプリートカレンダーの特徴となっている。
この実用的な機能を搭載するのがIWCの「ポートフィノ・コンプリート・カレンダー」である。イタリアの高級リゾート地の名を冠したモデルだけあって、均整の取れた左右シンメトリーなダイアルデザインは優雅さにあふれ、視認性の高さも十分に発揮する。
月の日数が31日未満の時だけ修正することで正しいカレンダーを表示するコンプリートカレンダー。縦一直線に配置された表示が、このモデルの優雅なアピアランスを強調する。自動巻き(Cal.32150)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kレッドゴールド(直径41.0mm、厚さ11.7mm)。5気圧防水。289万3000円(税込み)。
まず時位置には曜日表示と同軸で月の満ち欠けを示すムーンフェイズを装備。その下のセンターには時・分・秒を示す3本の針がセットされ、6時位置のインダイアルには指針式の月表示と日付表示が、これもまた同軸に置かれている。
ムーブメントは自社製造のCal. 32150で、秒針停止機構を備え、時報に合わせて正確な時刻合わせが可能。ケースバックはサファイアクリスタルによるシースルー仕様で、Cal.32150の丁寧な仕上げを観察することができる。さらに写真のモデルでは、レッドゴールドのケースにトープカラーのストラップを組み合わせ、より落ち着きのある表情を作り上げているのも魅力的だ。
コンプリートカレンダーによる均整の取れた表示システムと利便性に加え、ポートフィノならではの優雅で洗練されたアピアランスを併せ持つポートフィノ・コンプリート・カレンダー。それは時計愛好家なら誰もが心惹かれる、羨望のカレンダーウォッチである。
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