中国地方を中心に、時計専門店を展開するトミヤコーポレーション。今回は、同社が運営する「TOMIYAタイムアート店」「TOMIYA倉敷店」「TOMIYA広島店」の3店舗で働くスタッフたちを取材した。彼らは、ジラール・ペルゴ アンバサダートレーニングを受け、各店で同ブランドの販売を担当している。取材して驚かされたのは、彼らのジラール・ペルゴというブランドへの向き合い方だけでなく、各店ならではのホスピタリティ、そして顧客との接し方であった。
Photographs by Mika Hashimoto
鶴岡智恵子(クロノス日本版):取材・文
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2023年12月3日公開記事]
岡山市に拠点を置くトミヤコーポレーション
1932年に創業したトミヤコーポレーションは、岡山県岡山市に本拠を置く。時計やジュエリー、アイウェアにライフスタイルグッズと幅広い商材の販売を手掛けているが、とりわけラグジュアリーブランドの取り扱いでは中国地方を代表する存在である。現在では岡山県のほか、広島県、福岡県、そして東京都にも販路を広げており、各店舗によって異なるコンセプトを掲げ、独自色のある運営をそれぞれ行っている。
今回取材したのは、そんなトミヤコーポレーションの中で、ジラール・ペルゴを取り扱う「TOMIYAタイムアート店」「TOMIYA倉敷店」「TOMIYA広島店」のスタッフたちだ。この3名は、ジラール・ペルゴのアンバサダーとしてトレーニングを受け、各店で同ブランドの販売を担当している。なお、このトレーニングはジラール・ペルゴが主催しており、この3名は先日、スイスのラ・ショー・ド・フォンに位置する同ブランドの本社工房を見学したばかりだ。社員向けの工房見学プログラムを持つブランドは少なくないが、店頭の販売スタッフを本社工房へ招待するところは珍しい。CADに代表される現代の技術と、職人の手作業によって行われる伝統技法が融合した同ブランドのハイウォッチメイキングを目の当たりにした3名から、それぞれの店舗の強みや魅力、そしてジラール・ペルゴへの向き合い方を聞いた。
岡山市中心部の表町商店街に位置する「TOMIYAタイムアート店」
岡山市内でも、賑やかな中心部に位置するTOMIYAタイムアート店は、2023年11月よりジラール・ペルゴの取り扱いをスタート。
取材したのは、販売員の岡昭博さん。これまで飲食店などの職に就いてきた岡さんは、15年にトミヤコーポレーションに入社した。以前は同店舗でタグ・ホイヤーとウブロを担当していたが、タイムアート店でジラール・ペルゴの販売が開始され、専用コーナーが設けられるに伴い、ジラール・ペルゴの担当を会社から任命された。
岡さんに、仕事をする上で大切にしていることを尋ねてみた。
「初めてお会いするお客様には、まず笑ってもらえるようにすることを考えています。時計を売るということに固執しすぎず、自分自身もお客様と会話することを楽しみます。もちろん、店舗として売上目標は設定していて、そこを目指すのは大事。でも、それ(売り上げ)だけだと自分が接客を楽しめない。半分半分のバランスですね」
接客を楽しむという岡さん。今後も現場にはずっと立っていたいという。時計業界はトミヤコーポレーションが初となる岡さんが、どのように時計という商材、そして担当となったジラール・ペルゴというブランドに向き合っているのかうかがった。
「(トミヤコーポレーションに)転職する際、自分の知らない分野に飛び込んでみようと思いました。もともと車や機械いじりが好きで、時計にも興味があって。専門的な話も多くて大変ですが、時計を操作しながら覚えて、分からなかったら調べて解決するといったように勉強して知識を身に付けました。ジラール・ペルゴに対しては、担当となったからには(店で)一番詳しくならなくてはというプレッシャーはあります」
奥深い時計知識を習得することは並大抵ではないが、ジラール・ペルゴのトレーニングを通して、いっそう学びを深めていこうという姿勢も感じた。
「ジラール・ペルゴのトレーニングはマニアックです(笑)。マニアックすぎて、実際の接客では使っていない知識もあります。でも、工房見学を案内してくれた本社のスタッフが、『ジラール・ペルゴに興味を持ってくれるお客様は、時計が本当に好きという人。そんな人々が時計店に来る目的は、何かしらの情報を得たいとか、確認して納得したいという期待がある』と話してくれて。今はインターネットで調べれば情報が出てくる時代ですが、そんな中で現場のスタッフならではの知識をお客様に提供したいと思います」
タイムアート店は表町商店街のアーケード内に位置しており、さらにこの商店街の中に系列店が合計10店舗ある。時計の正規販売店としては珍しい形態だが、この立地ならではの魅力を岡さんに聞いた。
「売り場面積が広くないので、それぞれの店舗ごとにブランドを振り分けています。そのため、取り扱う全ブランドを1カ所で販売する複合店のような性格は持ちません。ただ、店舗間の距離が物理的にも心理的にも近いので、スタッフはもちろん、お客様が気軽に行き来しています。アーケード内なので、天候にも左右されません」
系列店とはいえ、顧客も店舗間を行き来してさまざまなブランドを楽しむというのはユニークだ。トミヤコーポレーションという企業の特色が影響しているのだろう。では、岡さんはそんなトミヤコーポレーションの、どんなところを強みに感じて働いているのだろうか。
「風通しが良いお店というところです。もちろん仕事である以上厳しい面もありますが、目標に向かってみんなで進んで、達成できた時に分かち合える環境が用意されていると感じます」
専用コーナーと担当者を設け、ジラール・ペルゴの販売に力を入れていくタイムアート店。なお、2023年12月2日(土)には、同店でジラール・ペルゴに焦点を当てたイベントが開催された。イベントでは『クロノス日本版』およびwebChronos編集長・広田雅将が「ロレアート」および新作「ネオ コンスタント エスケープメント」を解説。その後に設けられた質疑応答を通して、参加者はジラール・ペルゴのウォッチメイキングを楽しんだ。
独自のホスピタリティを提供する「TOMIYA倉敷店」
TOMIYA倉敷店は、タイムアート店やTOMIYA広島店がジラール・ペルゴの取り扱いを始めるまでは、トミヤコーポレーション唯一の同ブランド販売店であった。このTOMIYA倉敷店で取材したのは、竹内理子さんだ。
竹内さんは13年、新卒でトミヤコーポレーションに入社した。もともとブライダル関連の職業に関心を持ち、調べていく中で、トミヤコーポレーションがジュエリー販売を行っていることを知り、さらに入社説明会を兼ねた店舗見学で、スタッフ同士仲が良く、雰囲気が自分自身と合うと感じて入社を決めた。こういった経緯から、トミヤコーポレーションではジュエリー販売を主に担当してきたが、21年にTOMIYA倉敷店へ異動。時計の販売も行うようになってから、「ジラール・ペルゴが一番好き」という理由で、アンバサダーに自ら志願したという。
竹内さんに、ジラール・ペルゴのどんなところに引かれたのかを聞いてみた。
「デザインが好きです。最初は『ヴィンテージ 1945』に引かれました。シンプルなデザインが好きというのもあります」
ジラール・ペルゴが好きで担当となった竹内さん。岡さんと同様、ジラール・ペルゴのアンバサダートレーニングの一環で、スイスの工房見学にも行った。この工房での体験を、楽しそうに話してくれた。
「体験型の研修が多かったです。ムーブメントの分解や組み立てでは、パーツをなかなか外せなくて大変でした。(工房見学で)感じたのは、ジラール・ペルゴが時計製造に対して、とても情熱を持っているということです」
なお、ブランド主催の研修以外に、店舗で行う勉強会も継続的に行われているという。
竹内さんにも、どのように時計、そしてジラール・ペルゴに向き合っているのか尋ねた。
「これまではTOMIYA倉敷店が(トミヤコーポレーションの中で)独占してジラール・ペルゴを販売していましたが、TOMIYAタイムアート店とTOMIYA広島店も取り扱いを始めました。もちろん当店でも変わらず、(同ブランドの)販売には力を入れていくつもりです」
ジラール・ペルゴが好きで販売している竹内さんは、仕事をするうえでどんなことに気をつけているのだろうか。
「出社前に、自分自身の気持ちを仕事モードに仕上げています。また、その日の目標や、やるべきことをしっかりと決めて、取り組むようにしています」
同時に、仕事をしていく中で大変なことやうれしいことも話してくれた。
「販売の仕事なので、売れない時はしんどいです。でも、目標達成できた時は本当にうれしいですね。また、接客という仕事では当たり前かもしれませんが、お客様が喜んでくれたり、自分を訪ねてきてくれたりすることはうれしいです。先日、入社して1年目の時に担当していたお客様が、10年ぶりに自分に会いにきてくれて、購入までしてくれて。当時話したことや買った時の思い出話をしてくれました」
竹内さんにも倉敷店ならではの魅力を聞いた。
「倉敷は観光地なので、ついでに寄られるという方もいらっしゃいます。また、駐車場があることも、大きな利点だと思います。近県はもちろん、関西や九州からいらっしゃる方も目立つのは、倉敷だからかなと思います」
活き活きと楽しそうに仕事の話をしてくれた竹内さん。もともと雰囲気の良さが入社の決め手になったとのことだが、最後にトミヤコーポレーションの強みを聞いた。
「入社後も、変わらずスタッフ同士の仲の良さを感じています。スタッフ同士が和気あいあいとしています。また、社長との距離が近く、意見が言いやすいところも良いなと思っています。飲み会でぽろっと話したことが、採用されることもあります」
ちなみにTOMIYA倉敷店には、高級時計を扱う販売店としては珍しく、キッズスペースが設けられている。このスペースを店内に置くアイデアは、トミヤコーポレーション社長、古市聖一郎さんが出したのだという。
今後は店舗での販売のみならず、ホームページの更新やSNSなどといったデジタル分野での集客にも意欲的な竹内さん。「好き」があるからこそ、やりたいことが明確に決まるという姿勢を感じた。
顧客と密なコミュニケーションを取る「TOMIYA広島店」
最後に取材したのは、さまざまなショップや飲食店で賑わう広島市内のTOMIYA広島店で店長を務める笹原隆さんだ。笹原さんはブライダルジュエリー業界の職業を経て、19年にトミヤコーポレーションに入社した。
そんな笹原さんは、仕事をするうえで顧客とのコミュニケーションを大切にし、顧客の「購入体験」に加えて、購入時または購入後の「思い出」や「気持ち」を重視することに気をつけているという。
「ブライダルジュエリーが出身ということもあるかもしれませんが、時計を1本買って終わりではなく、購入の思い出とか、購入した後の経験とかを、お客様に大切にしてほしいと思っています。例えば、時計やジュエリーって、生活必需品というわけではないですよね。時には、時計にそんな大金を使うなんて理解できないって方もいらっしゃいます。でも、自分が好きな時計をいつも手元に着けていてほしいからプレゼントするとか、あるいは子供に残したいとか、そういうドラマが時計の楽しいところだと思います。そしてそのステージに、自分自身も一緒に加わりたい。そんな接客がしたいのです」
やはり楽しそうに仕事の話をする笹原さん。ジラール・ペルゴのアンバサダーとしてスイスの工房見学に行った話も、活き活きと語ってくれた。
「工房見学で強く感じたのが、ジラール・ペルゴが欲しくなるということ(笑)。CADの設計図やコンプリケーションの模型を見せてもらって、実際に職人がムーブメントの組み立てやパーツの仕上げを行うところを見学して、ジラール・ペルゴの(ウォッチメイキングへの)姿勢に改めて驚かされました」
笹原さんは店長だ。従業員の教育や研修を行う立場である。自店舗の従業員が、どんな風に育ってほしいのかをうかがったところ、笹原さんらしい回答が返ってきた。
「当店はベテランが多いので、自由にやってもらっています。自分が一番自由かもしれませんけど。みんな接客を楽しそうにやってくれるのはうれしいですね。販売という仕事柄、数字を気にしなくてはいけないシーンもありますが、数字だけではない価値を(時計の販売という仕事から)見つけてほしいと思っています」
また、笹原さんは広島という土地の時計市場についても、さまざまな話を聞かせてくれた。
「広島は老舗の時計店もあり、お客様が集まりやすい土地柄だと思います。近県から、時計店に目的来店される方も少なくありません。他店はもちろん競合にはなりますが、一緒に広島に時計文化を根付かせて、(時計市場を)大きくしていきたいという思いの方が強いです」
笹原さんにとって、トミヤコーポレーションはどんな存在なのだろうか。
「トミヤコーポレーションはお祭り好きで、お客様との距離が近く、お客様も販売員も楽しんで時計に関わっている方が多いと思います。そんなトミヤコーポレーションを、もっともっと多くのお客様に知ってほしいです」
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