グラスヒュッテ・オリジナルは、スウォッチ グループの知る人ぞ知るブランドであるが、そのウォッチメイキングには目を見張るものがある。グラスヒュッテ・オリジナルの類稀な魅力について、『クロノス日本版』およびwebChronos編集長・広田雅将がトークショーを行なった。その様子と、広田が語ったグラスヒュッテ・オリジナルの4つの強みをお伝えする。
Photographs by Shungo Tanaka
阿形美子:取材・文
Text by Yoshiko Agata
[2023年12月9日公開記事]
グラスヒュッテ・オリジナルの実力を実感するトークショー
2023年11月25日(土)、ニコラス・G・ハイエックセンター 4階のグラスヒュッテ・オリジナル ブティックにて、『クロノス日本版』およびwebChronos編集長・広田雅将によるトークショーが行われた。
グラスヒュッテ・オリジナルのルーツは、19世紀中頃にドイツのザクセン州・グラスヒュッテ市に住み着いた時計職人にまでさかのぼる。2000年にはスウォッチ グループ傘下に入り、現在では11ブランドの中でも最上の「プレステージ&ラグジュアリー レンジ」に属している。堅牢かつ上質な仕上げの時計を作り出すマニュファクチュールとして時計愛好家に支持されているブランドだ。
今回のトークショーでは30分ほどのプレゼンテーションの後、参加者は充実したラインナップの中からタッチ&フィールの時間を堪能した。
“ドイツ以上にドイツ的”な時計作り
グラスヒュッテ・オリジナルは、ドイツの国営企業であったGUB(グラスヒュッテ・ウーレンベトリーブ)に源流を持つ、つまりドイツ時計の流れを組むブランドだ。その特徴は、堅牢なムーブメントと上質な仕上げにある。
広田はグラスヒュッテ・オリジナルの品質の良さについて、「僕は好きです。その証拠に、業界内で“現行品を買わない男”と言われている僕ですら、現行品を買いました(笑)」とやや自虐的に語る。
続けて、広田はグラスヒュッテ・オリジナルの強みを4点挙げた。第1に「ピュアマニュファクチュール」であること。高い純度で自社一貫生産が行われているのだ。マニュファクチュールをうたっていても、メッキ加工や焼き入れ、歯車の製造まで自社で行うブランドは、実はごく限られている。一般に、時計の価格差は耐久性の違いによってもたらされる。焼き入れで部品を硬くすることによって、真面目に長持ちする時計に仕上がるのだ。
広田は、この体制の背景には、グラスヒュッテという地理的要因があると考えている。広田自身、度々取材に訪れているが、グラスヒュッテは小さな谷に位置する小さな街である。近隣に部品メーカーもないため、全てパーツを自ら作らざるをえなかったのだ。そのために、一大マニュファクチュールブランドへと成長したのではないか。
第2の強みが「極めて凝ったメカニズム」だ。自社でほぼ全てのパーツを作れるからこそ、独自の機構を生み出している。例えば「パノインバース」は時計の心臓部であるテンプを含むムーブメント全体を表裏逆に配置しているが、他のモデル同様の精度を維持させている。
また「セネタ・クロノメーター」は、リュウズを引き出すと秒針が0にリセットされる。この際、分針も正確に合わせられるように細かい刻みで調整できる。
一般的にメーカーは時刻合わせ時に分針と秒針とを厳密にシンクロさせたがらないが、グラスヒュッテ・オリジナルは歯車を自社で作っているからこそ、全く遊びのない設計を実現させた。正確な時刻表示への探究心によって、そんな良い意味で“クレイジー”な機構も実現することができるのだ。その他にも、35のタイムゾーンを表示できる「セネタ・コスモポリト」は恐らく史上最強のワールドタイマーだろうと広田は語る。
いっそう極まるムーブメントと外装のクオリティ
第3に「大グループ傘下」の強みがある。スウォッチ グループの技術と資本力により、グラスヒュッテ・オリジナルの時計は日々、洗練されつつある。その特徴はムーブメントで顕著だ。2016年に発表された自動巻きムーブメントCal.36は、約100時間巻きで精度も恐ろしく高い。
また、グループ内の供給により、シリコン製ヒゲゼンマイを使い始めるようになったのも大きな変化だ。シリコンは非磁性素材のため、磁気帯びによって精度が悪化する可能性を減らしてくれる。スマートフォンやパソコン、自動車のスピーカーなど、身の回りに磁気を放つものが多い現在において、耐磁性を高めることは重要な改善点なのだ。
第4の強みが「上質な文字盤」である。現在のグラスヒュッテ・オリジナルの文字盤は「本当に凄い」と、広田はトーンを強める。最たる例として挙げたのが、ラ・ジェンチュア・グレネー文字盤だ。
銀粉・塩・水などを配合した溶剤を用い、手作業で表面をなぞることでメッキ付けをする古典的な技法だが、大変な手間とコストがかかるため、同じスウォッチ グループでこの工法を採用するブランドは他にない。
これも自社で文字盤までを製造するグラスヒュッテ・オリジナルだからできることなのだ。また、近年では文字盤の多彩なバリエーションも魅力のひとつである。はっきりとした色味や独特のテクスチャーのあるものなどが登場しているが、そのどれをとっても、高い塗装技術と加工技術とが欠かせないのだ。
広田自身は「シックスティーズ」を愛用し、今なお色褪せない名作だと高く評価するが、「セネタ」コレクションも一押しだと語る。例えば年産50本の「セネタ・クロノメーター」は、製造時にかかる手間を考えるとコスト割れしているのではと思ってしまうほどに、驚異的な作り込みをしているモデルだ。
この「良いものを作るために多少のコストは度外視する」姿勢に、広田はドイツらしさを感じているという。また、「セネタ・エクセレンス・パーペチュアル・カレンダー」や「セネタ・エクセレンス・パノラマデイト・ムーンフェーズ」は実用に耐えうる複雑系時計だ。視認性も高く、Cal.36をベースとしたムーブメントによる約100時間パワーリザーブなどのスペックを鑑みれば、これらの販売価格は納得だろう。
そして何より、広田がグラスヒュッテ・オリジナルを好ましく思う理由は「セネタ・エクセレンス」などのベーシックモデルであっても、手を抜くことなく作っている点だという。根底にドイツの実直なものづくりの考えがあり、その上でベーシックからハイエンドモデルまですべてを真面目に生産している。「グラスヒュッテ・オリジナルはまだまだ知る人ぞ知るブランドだが、近年のいっそうの洗練によって注目を集めてきている」と、イベントを締め括った。
手に取ってこそ分かる、実直なものづくりへの姿勢
広田自身もグラスヒュッテ・オリジナルを愛用していることもあってか、熱のこもったプレゼンテーションとなった。その後、参加者には広田を交えて90分ほど、実機を用いたタッチ&フィールの時間が設けられた。
スポーツコレクションから複雑系やレディースモデルまで、豊富に取りそろえられた商品を実際に手に取り、仕上げや感触を確かめられる絶好の機会だ。
参加者の多くは、オンラインや誌面ではなかなか見ることができないケースの裏側までをくまなくチェックしていた。もちろん、ケースバックからのぞくムーブメントには、精巧な仕上げが施されている。香箱からガンギ車までを覆う「グラスヒュッテ3/4プレート」や、手彫りが施されたテンプ受けはグラスヒュッテ様式の最たる例だ。
また、歯車の軸受にも高級な「ネジ留めゴールドシャトン」や「青焼きネジ」が使われている。こういった繊細な仕上げはやはり、実際に手に取って肉眼やキズミで鑑賞してこそ味わえるものだ。
参加者はさらに、好みのモデルの装着感をチェックし、広田との会話を楽しんだり質問をしたりして、充実した時間を過ごした。同イベントはグラスヒュッテ・オリジナルの時計の魅力を再確認するまたとない機会となったことだろう。
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