2023年11月、A.ランゲ&ゾーネの商品開発ディレクターであるアントニー・デ・ハスが来日した。その主な目的は、新作のお披露目。なるほど、わざわざ説明するだけあって、新作の音は、今までと確かに違う。
一般的なミニッツリピーターと異なり、時、10分、そして分単位で音が鳴るデシマルリピーター。ムーブメントは2015年モデルから不変。しかし、ケース素材の変更により、音質がより改善された。あくまでコレクター向けのモデル。手巻き(Cal.L043.5)。93石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約36時間。18Kハニーゴールドケース(直径44.2mm)。30m防水。世界限定30本。要価格問い合わせ。
機械式デジタル表示を切り替える余力で、リピーターを鳴らすのが本作の大きな特徴だ。可能にしたのは、動力を分岐するルモントワール。もっとも、複数の機構を動かすにもかかわらず、主ゼンマイのトルクは1700gと、エル・プリメロと同じ程度に抑えられた。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]
ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター・ハニーゴールド
大作「オデュッセウス・クロノグラフ」で時計好きを騒がせたA.ランゲ&ゾーネ。11月にお披露目されたのは、「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター」のハニーゴールドモデルだ。初出は2015年。当初はプラチナケースだったが、20年の限定版では18Kホワイトゴールドケースに改められ、23年版ではハニーゴールドとなった。商品開発ディレクターのアントニー・デ・ハスは「実のところムーブメントは、15年モデルから何も変わっていない」と説明する。素材を変えただけなのにわざわざ説明するのは、リピーターの音が違っているからだ。
1967年、オランダ生まれ。88年にクリスチャン・ホイヘンス技術学校を卒業後、IWCを経て、ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)に入社。リピーターやトゥールビヨンといった複雑時計の設計に携わる。2004年、A.ランゲ&ゾーネに入社。14年から現職。複雑な機構をまとめ上げる手腕は高く評価されている。
「18Kホワイトゴールドケースの音はやや硬く、大きいです。一方ハニーゴールドケースは温かみがあるのです」。確かに聞き比べると、ハニーゴールドの音は異なる。調整の違いかもしれないが、なるほど変えたのには理由があるわけだ。
しかし、A.ランゲ&ゾーネというメーカーは、ケースギリギリにムーブメントを詰めたがる。そのため好事家たちに好まれてきたが、ケース内にスペースを設けて音を響かせるという腕時計リピーターには向かないのではないか、と感じている。率直に尋ねたところ「ツァイトヴェルクのリピーターも、ケース内に余白を設けてある」とのことだった。もっとも、「余白が大きくても、音にはあまり影響がない。懐中時計のリピーターが好例でしょう」とデ・ハスは断言する。
相変わらず、ずば抜けた完成度を誇るツァイトヴェルク・ミニッツリピーター。今の分かりやすいリピーターのように、音は大きくない。ただし、音質の良さは想像以上だった。A.ランゲ&ゾーネによると、新しいツァイトヴェルク・ミニッツリピーターは参考価格8000万円とのこと。年産数本を考えれば仕方ないが、23年版は極め付きに高価だ。果たして何人が買えるのだろうか?
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