ブレゲ「タイプ XX」第1世代から最新作までの歴史とモデル

2023.12.13

新しくなったブレゲの「タイプ XX」が格納庫から運び出された。最新世代のパイロットクロノグラフとして新型自社製ムーブメントを搭載し、軍用と民生用、ふたつのバリエーションで初飛行に出発する。

タイプ XX

ロジャー・ルーガー:文 Text by Roger Rüegger
ブレゲ:写真 Photographs by Breguet
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]


最新パイロットクロノグラフ、テイクオフ

タイプ XX

バリエーションによって名称の異なるパイロットクロノグラフには、3つのインダイアルを備え、モデル名がローマ数字で表記される民生用の「タイプ XX」と、ふたつのインダイアルを備えた軍用の「タイプ 20」(モデル名がアラビア数字)の2種類が用意されている。

 2019年と21年に開催されたチャリティーオークション「オンリーウォッチ」でふたつのユニークピース(Ref. 2055ST/Z5/398および2065ST/Z5/398)が発表されて以来、世界中のコレクターがブレゲの戦略的に重要なコレクションである「タイプ XX」の再来を待ちわびていた。だが、ブレゲが軍用(Ref. 2057ST/92/3WU)と民生用(Ref. 2067ST/92/3WU)という、インスパイアの源が異なるふたつのクロノグラフムーブメントを開発中であることは多くのコレクターにとって予想外だった。

 時計コレクターでパイロット、そして、ブレゲのブランドマガジン『Le Quai de l’Horlogue(ケ・ド・ロルローュ)』の編集長でもあるジェフリー・キングストンは、新作を次のように賛美している。

「ブレゲの新作は、飛行時間が4000時間以上のパイロット兼飛行教官の私にとって極めて魅力的です。パイロットウォッチとはどうあるべきか、そして、どのような機能を備えるべきかについて、多くの人々が誤解しているように感じます。1950年代にタイプ XX、そして、後のタイプXXIのためにフランス空軍が指定したスペックの要件には、正確なクロノグラフ、見やすい分積算計、フライバック機能、両方向回転ベゼルなど、計器飛行の際に重視される機能がいくつも含まれていました。50年代以降、ブレゲのパイロットウォッチのDNAには、必要不可欠なこれらの機能が織り込まれています。新作はこうした基準を正しく理解していることを示す、真のパイロットウォッチなのです」

必要不可欠な計器

 パイロットや航空機乗務員にとって、高いストレスに晒される空中での厳しい任務時、機内で正確に時間を把握することは不可欠であり、極めて重要である。飛行時間や経過時間の計測、燃料消費量のモニタリング、方位の把握、操縦などの作業には、コックピットや手首のクロノグラフが必要である。その精度と使い勝手は年を経るごとに向上してきた。さらに、インストルメントパネルと手首の、ふたつのクロノグラフを装備しておいて不測の事態に備えるというリスクヘッジがここに加わる。片方が機能不全に陥った場合でも、もう一方がその役割を果たすことができるためだ。

 ブレゲのアーカイブを見ると、耐磁性を備えるシルバー製ケースに収められた19リーニュのクロノメーターであるオンボードクロノグラフに加え、断熱ケース、サーモスタット、照明、サイデロメーター(時角)を備えたサイズが24ラインのオンボードクロノメーターなど、30年代にはすでに数多くの航空機用「特別製品」が開発されていたことが分かる。高度な技術を要するこれらの製品はすべて、フランス軍や、33年に設立された航空会社であるエールフランスに供給された。航空機のインストルメントパネル用時計の供給は50年代初頭から増え始め、その後30年でブレゲの得意分野のひとつに成長した。最も広く使用されたモデルはタイプ11、11/1、12で、12カ国で販売され、有名な超音速旅客機、コンコルドを含む数多くの航空機のインストルメントパネルに採用された。

タイプ XXの黎明期

タイプ 20

第1世代
オリジナルの「タイプ 20」。新作の軍用モデルにインスピレーションを与えたこの時計は、1955年にフランス航空省に納品されたもの。同年、ダッソー社製の戦闘機、ミステールIVも就航した。

ミステールIV

 ブレゲのアーカイブによると、50年代初頭、フランス空軍がパイロットの手首にもクロノグラフが必要だと考えていることをブレゲが知り、そこから「タイプ XX」の歴史が始まった。フランス空軍のための腕時計は、黒文字盤、夜光塗料を施したインデックスと針、気圧変動や加速の負荷に耐える高性能ムーブメント、回転ベゼル、そしてフライバッククロノグラフを備えている必要があった。将来、フランス空軍に導入されることになる製品に「タイプ XX」というモデル名を与えたのはフランス航空省である。複数の企業が応募し、フランス空軍との契約を獲得した。つまり、複数のブランドがこの腕時計を製造することになったのである。一方、受注したブランドは同じ製品を個人顧客にも販売することができた。こうしてタイプ XXには軍用と民生用の2種類が作られることになった。

 ブレゲがフランス空軍に納品した最初のプロトタイプは、53年に航空技術局によって承認された。54年、フランス空軍は軍用のタイプ20(モデル名がアラビア数字)を1100本発注し、55年から59年にかけて納入された。30分積算計を備え、文字盤にブランド名はなく、裏蓋に「BREGUET -TYPE - 5101/54」と記されている。もうひとつの顧客で、フランスのエリート・テストパイロットが所属するCEV(Centred’essais en vol:フランス空軍飛行試験センター)は80本注文し、これらは56年と57年に納品された。裏蓋には「CEV」の文字に続き、1から80までのナンバーが刻印されている。

 58年、フランス海軍は航空隊のパイロットと兵士のために500本の腕時計を発注した。60年1月13日に納品されたこのタイプXX軍用モデルは空軍向けのものとは大きく異なり、15分積算計は直径がより大きくなって文字盤にはブランド名が入り、裏蓋には「BREGUET - MARINE NATIONALE - AÉRONAUTIQUE NAVALE -N° X/500」と刻まれていた。タイプXXの評判は軍の枠を超えて瞬く間に広がり、民間の航空産業の従事者やクロノグラフ愛好家たちが手に入れたがるようになった。63年に14リーニュのバルジュー製ムーブメントが13リーニュのものに変更され、文字盤、針、ベゼルなどに若干の変更が加えられたものの、70年まではタイプ XXが大きく変貌することはなかった。この民生用モデルは、2000本を超える数が販売された。

第2、第3世代

第2世代のタイプ XX

第2世代
1971年に登場した第2世代のタイプ XX。直径40mmと大径化したケースに、やはりボリュームを増したブラックベゼルやラグを備えていることが特徴だ。

 第2世代のタイプ XXは71年に発表された。大きくなったポリッシュ仕上げのステンレススティール製ケース、太いラグ、そして、ブラックのベゼルが特徴である。12時間積算計のあるタイプとないタイプから選択することができ、15分積算計も備えていた。この腕時計は770本販売され、そのほとんどが民間人に、50本がモロッコ空軍に納入された。アエロスパシアル社(後のエアバス・インダストリー社)も発注し、フランス政府は大統領からの各国首脳への公式贈呈品として、この腕時計を購入した。最後に販売されたのは86年で、30年以上にわたる第1世代から第2世代の歴史はここでいったん、幕を引くこととなる。

第3世代のタイプ XX

第3世代
1995年に登場し、2018年まで製造された第3世代。市販モデルとしてヒットを飛ばし、「タイプ XXI」などのバリエーションモデルも展開された。

 95年、Ref. 3800「アエロナバル」(日付表示なし)、後にRef. 3820「トランスアトランティック」(日付表示あり)という第3世代が登場し、タイプ XXは復活を遂げる。このモデルはブレゲのヴィンテージスタイルを継承しており、コインエッジが刻まれたケースサイドが特徴だった。当時、やや時代錯誤な外観であったにもかかわらず、このモデルは時計市場で大成功を収め、その後、何年にもわたってさまざまな金属素材や文字盤のカラーバリエーションで多くのモデルが作られた。コレクションはアラームウォッチ(Ref. 3860)やタイプ XX レディースモデル(Ref. 4820)にまで拡大され、2004年にはタイプXXI(Ref.3810)、10年にはシリコン製脱進機を備えるハイビートムーブメントを搭載したタイプXXII(Ref.3880)が発表される。さらに、近年発表されたRef.3817やRef.3815など、タイプXXIには数多くのバリエーションとリミテッドエディションが存在する。

新型タイプ XX

タイプ 20 2057(右)とタイプ XX 2067(左)

第4世代
タイプ 20 2057(右)とタイプ XX 2067(左)。付属のNATOベルトは、どちらのモデルでもスポーツウォッチとしての性格を強化し、両モデルの類似性を強調する。

 新世代の「タイプ XX」が生まれるまで、4年にわたる準備期間があった。初代モデルにインスパイアされたこのふたつの時計に、ブレゲは機能性のより高い最新ムーブメントを搭載し、テクニカルな精神を与えることに成功した。

 タイプ XX 2067(Ref.2067ST/92/3WU)は、1950年代から60年代にかけて製造された民生用のタイプ XX、特に個体番号2988を持つ57年製のモデルの直系である。15分積算計は3時位置に、12時間積算計は6時位置に配され、スモールセコンドは9時位置で回転する。分積算計は9時位置のスモールセコンドよりかなり大きい。アラビックインデックス、針、ベゼルのトライアングルマーカーにはアイボリーカラーの蓄光塗料が施され、比較的大きな日付窓が4時と5時の間に配されている。直径42mmのステンレススティール製ケースは刻み目を施した両方向回転ベゼルを備えている。この新型クロノグラフは、ライトブラウンのカーフスキンストラップ、または、同梱されている黒のNATOベルトで着用できる。

 一方、新しいタイプ20 2057(Ref.2057ST/92/3WU)は、55年から59年にかけてフランス空軍に供給されたモデルに強くインスパイアされたモデルで、モデル名は「タイプ XX」ではなく「タイプ 20」とアラビア数字で表記される。アラビックインデックスとベゼルのトライアングルマーカーには針と同様、ミントグリーンの蓄光塗料が施されており、エイジングをイメージさせるアイボリーカラーの蓄光塗料を備えた民生用モデルと比べて、モダンな装いだ。さらに、3時位置の分積算計は15分ではなく30分積算計の仕様で、9時位置のスモールセコンドよりも大きい。4時と5時の間に日付窓が配されているのは民生用モデルと同じである。直径42mmのステンレススティール製ケースは縦溝を施した回転ベゼルを備え(新作にはケースサイドにコインエッジのエングレービングは施されていない)、さらにパイロットウォッチ特有の扱いやすいリュウズが装備されている。ストラップは黒のカーフスキンで、民生用モデル同様、黒のNATOベルトに変更することが可能だ。

Cal.728

 開発に4年を費やした結果、ブレゲはこのふたつの新作に新しい自社開発ムーブメントを搭載することに成功した。民生用のタイプ XX 2067には350個の部品で構成されるCal.728、軍用のタイプ 20 2057には部品総数339個のCal. 7281が搭載されている。どちらもフライバッククロノグラフ機能を備え、パワーリザーブは約60時間と、現代的なスペックとなっている。ムーブメントは伝統的なコラムホイールと信頼性の高い垂直クラッチを備えながらも、振動数は3万6000振動/時(5㎐)とハイビートである。ヒゲゼンマイ、ガンギ車、アンクルはシリコン製で、腐食や摩耗に強く、磁束の影響も受けにくい。サンレイ仕上げ、スネイル仕上げ、面取り仕上げ、サーキュラーグレインなどの装飾に加え、コラムホイールにはブラックのDLCコーティングが施されている。同じくブラックDLCコーティングが施されたローターは、飛行機の翼を思わせ、ブランド名が刻まれている。

Cal.7281

新型クロノグラフムーブメントCal.7281は、フライバック機能、コラムホイール、垂直クラッチ、シリコン製部品を使用したハイビート機。また、工具なしでストラップを交換できるクイックチェンジ機構を備える。

 タイプ XXではどちらのモデルでも、大きな分積算計の下に比較的大きな日付窓が装備されているが、ブレゲのこの決定はすべての時計愛好家に歓迎されるものではなかった。特に、よりピュアな性格を持つRef. 2057については、コレクターに選択の機会を提供するという意味で、日付表示の省略は検討に値したかもしれない。とはいえ、新型クロノグラフムーブメントがデビューするとなれば、実用的な機構のひとつ、すなわち日付表示が最初から省かれていたら、何かの誤ったシグナルと受け取られる可能性はある。

 価格は双方とも258万5000円である。今後、タイプ XXのさらなるバリエーションも計画されているようだ。この腕時計は間違いなく、ブレゲの新たなブランドイメージを形成する重要なコレクションのひとつとなっていくだろう。



Contact info: ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211


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