ケースや文字盤、針、ムーブメント、ブレスレットなど、パーツの集合体である腕時計。時計産業の中心地であるスイスでは、特定のパーツの製造を専門とする数千ものサプライヤーが点在し、時計メーカーに供給を行って発展を続けてきた。本特集では、時計の供給を大きく左右し、ブランドを陰で支えるサプライヤーの最新事情を探ってゆく。
Edited&Text by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]
クロノス日本版編集部厳選、注目のサプライヤー
数多に存在するウォッチサプライヤーだが、中でも注目すべきは、従業員約1300人の規模で約1500社を顧客に擁する、スイス最大級を誇るサプライヤーグループの「アクロテックグループ」だ。また、ノルケインを支えるビウィも今後の注目株である。
Acrotec Group(アクロテック グループ)
アクロテック グループは、テクノロジーの分野で独自の専門技術をグループ内の会社で保持し、時計や医療、自動車、航空宇宙などの産業分野に提供している。1857年創業のGénérale Ressorts(ジェネラル・リソール)、1944年創業のKIF Parechoc(キフ・パラショック)など、時計産業の要となる会社を多数傘下に収めている。
現在、スイス、フランス、アメリカに拠点を持ち、グループ内の会社のノウハウを駆使して、20年以上の長い信頼関係を持つ約1500社の顧客の期待に応えている。時計関連の製品は耐震装置、香箱、主ゼンマイ、ローターなどの主要な部品。高精度な機械、微細で複雑な部品、高精密産業で著名な担い手だ。
Générale Ressorts(ジェネラル・リソール)
スイス・ビエンヌに社屋を構えるジェネラル・リソールは、時計ムーブメントの重要な部品である香箱とその内部の主ゼンマイ製造におけるリーダー的な存在だ。それと同時に、運搬や航空分野、また工業用途に向け、高いエネルギー効率を備えたモジュールなどを提供する。
同社が開発した高品質な主ゼンマイには耐磁性素材が使用されるため、金属疲労や腐食に対する高い耐久性を持ち、エネルギーロスを減らして安定した精度を実現している。また回転数を増やしてロングパワーリザーブ化を行うなど、技術開発を進めている。
KIF Parechoc(キフ・パラショック)
スイスの高級時計製作で名高いジュウ渓谷を拠点とするキフ・パラショックは、耐震装置や緩急装置の分野で独自のノウハウを築き上げてきた。特に、機械式時計の心臓部を守る精密な耐震装置専門のメーカーとして名高い。機械式時計の部品のみを製造しており、スイスをはじめ、欧州の厳格な基準を要求する顧客に応えている。
同社が展開するのは耐震装置や緩急装置、ネジ、歯車、ヒゲ持ちで、同時にエボーシュ部品の旋盤加工、歯割り、プレス、組み立て、フライス加工も行う。そのうえ研磨と装飾の分野も手掛ける。これらの多様な業務を担うため、真鍮、スティール、ステンレススティール、洋銀、ベリリウムなど、さまざまな材料を使用する。
Schwab-Feller(シュワブ・フェラー)
1894年にスイス・ビエンヌで創業したシュワブ・フェラーは、圧延加工やワイヤー放電加工に特化しており、卓越したノウハウとコンピューターを駆使した技術力を持ち合わせる。2015年には、主要な顧客(ロレックス、パテック フィリップ、リシュモン グループ)が資本参加した。
機械式ムーブメントに安定した精度をもたらす主ゼンマイと、香箱の製造においてその名が知られ、世界で唯一、主ゼンマイの計算シミュレーションも提案する。また時計産業以外では、医療、計測、金庫、メトロノームなどの分野でもサービスを提供している。
BIWI(ビウィ)
主な分野は時計部品、時計用ストラップ、アクセサリー、レザーグッズ、アート、ファッション、付属品、医療と多岐にわたる。時計部品に関しては、金属部品にラバーの層を重ねて装飾を施したり、文字盤、ケース、防水パッキン、人工素材を使ったインサートベゼルや針などを提供する。それと同時に、ストラップではスタンダードなブラックラバーから、複雑なデザインの連結式タイプ、スポーティーな一体型、硫化処理を施したものまで、エラストマー素材のストラップにおけるリーダー的なメーカーである。
また、オーデマ ピゲに供給するための部品やアクセサリー、リシャール・ミルのストラップ、ロジェ・デュブイの斬新なストラップなども手掛ける。
Mimotec(ミモテック)
1998年創業のミモテックは、スイスのみならず国外でも精密加工の分野で著名な会社で、新しい技術を常に取り入れている。電子工学を応用したUV-LIGAプロセスを使って微細な部品を製作し、多数の特許で独自の技術力を確立している。小さな時計部品からプラスティック用金型、模造品への解決策(CLR-LIGA=超小型部品へのレーザー署名)まで、年間2500以上のさまざまな製品を提供している。
フォトリソグラフィと厚い電鋳を組み合わせたUV-LIGAプロセスは、従来では製作困難だった複雑な形状の部品を、低コストかつ短時間、高品質で製造可能にした。母材を削る伝統的な方法と比べ、高い競争力を有する。
STS
2006年の創業以来発展を続け、金属部品の表面加工の分野においてスイスの最も大きなサプライヤーとなった。スイスのル・サンティエ、ラ・ショー・ド・フォン、ドゥブリエ、メイランに4つの拠点を持つSTSは、最先端のノウハウとRJC(Responsible Jewellery Council=責任あるジュエリー協議会)で証明された倫理的な価値を融合させている。
同社の主な専門分野は電気メッキ等の装飾、研磨、サンドブラスト仕上げで、特に電気メッキの分野では技術・装飾の両方で多数のコーティング技術を提案している。また同社の市場は、時計産業では時計部品の仕上げ分野を、他の産業では電子部品などを提供している。
https://www.webchronos.net/features/95372/
https://www.webchronos.net/features/35359/
https://www.webchronos.net/features/52702/