2023年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(W&WG)で発表されたばかりの新作「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」を早速、インプレッションできるという僥倖にあずかった。このモデルは、W&WGの数ある新作の中でも、個人的に気に入ったモデルのひとつだ。したがって、期待とともに、インプレッションには気合い十分で臨んだ。
「タグ・ホイヤー カレラ」60周年を記念して今年発表されたモデル。両面無反射加工されたグラスボックス風防を通して、ガルバニックとラッカーで仕上げられた清冽なブルーダイアル上に、アジュラージュ加工(同心円模様)が施された30分積算計とスモールセコンドを確実に視認できる。自動巻き(Cal.TH20-00)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS(直径39mm)。100m防水。80万8500円(税込み)。
鈴木幸也:取材・文
Text by Yukiya Suzuki
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]
期待を上回る満足感を与えてくれたのは卓越した内外装のパッケージング
新しい「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」を気に入った理由は、まず見た目のパッケージングの良さだ。1960年代に見られた風防が盛り上がったグラスボックスをサファイアクリスタル風防で再現。一見、クラシカルだが、その実、風防は傷に強く、ベゼルを廃したために、広い開口部から見える文字盤は、見晴らしがよい。ベゼルの代わりに文字盤外周にはすり鉢状の見返しリングが配され、その見返しリングに半分足をかけるように立体的なアワーマーカーインデックスが置かれている。そもそも腕時計は、装着時に斜めから見ることがほとんどのため、インデックスが立体的であるが故に非常に高い視認性をもたらす。
もうひとつ絶対に触れておきたいのが、この新作の外装のディテールの中でも最も注目すべき、パッキンの存在である。風防を正面から直視しても、風防の周りにはパッキンが一切見えない。これはかつてのカレラからすると意匠的には最も大きな進化と言っていいだろう。現在、タグ・ホイヤーでムーブメント・ディレクターを務めるキャロル・カザピは、W&WGにおいて、本誌の取材にこう明言した。「風防は接着ではなく、パッキンで支えています。見えにくくしていますけれど」と。彼女はムーブメントの設計を担当するのが主な職務のはずだが、この新作モデルには、外装を含めた企画から関わったという。
腕時計の実用性にとって、防水性は必要不可欠なものだ。何不自由なく日常使いするためには、最低でも5気圧の防水性がほしい。だが実際は、手を洗ったり、思わぬゲリラ豪雨に遭遇したりと、流水に腕時計がさらされる場面は決して少なくない。その場合、10気圧(100m)防水はほしいところだ。もちろん、このインプレッションモデルは100m防水のため、その条件は十分にクリアしている。だが、実用性が十分でも、もしこのモデルの時刻を確認するたびに、風防の外周に白くパッキンが見えていたら、個人的には気になって仕方がない。この新作では、そうした興ざめポイントが改善されたのは何よりの朗報である。
カザピが開発に関わっただけあって、本機が搭載するムーブメントもまた進化している。既存のタグ・ホイヤー カレラクロノグラフが搭載していたキャリバーホイヤー02ではなく、それをベースに発展させたキャリバーTH20-00が採用された。一番の改善点は、片方向巻き上げが両方向巻き上げに変更された点だ。しかも、セラミックベアリングを採用したリバーサーを採用しているという。セラミックベアリングの弱点は、巻き上げる時にシャカシャカと音がすることだが、タグ・ホイヤーによると、このリバーサーでは、その巻き上げ音を既存の片方向巻き上げ式よりも抑えたという。実際に、約1週間、身に着けていたが、日常生活において、巻き上げ音は一切気にならなかった。むしろ、かつて愛用していた片方向巻き上げ式のETA7750搭載モデルよりも圧倒的に静かであった。近年は、MPSのActiVibのように、セラミックベアリングにゴムなどの緩衝材を内蔵することで巻き上げ音を吸収する機構も開発されているから、確かにこうした進化は理解できるし、ありがたい。
さて、進化したTH20-00の肝心の精度はどうだろうか? 歩度測定器による静態精度を見ると、クロノグラフ非作動時のT24における平均日差がプラス1秒/日、T48における平均日差がプラス2秒/日とすこぶる良い。パワーリザーブが約80時間もあることから、巻き上げないまま48時間置いておいても十分に精度が出ていることが分かる。クロノグラフを作動させると、T24では平均日差はマイナス3.5秒/日だが、T48でも平均日差はマイナス3秒/日ということから、マイナス傾向には振れるものの、許容範囲の誤差だろう。
実際に腕時計を身に着けた際の動態精度は、24時間後でプラス7秒、48時間後でプラス11秒であった。静態精度よりは誤差が大きく出てしまったが、日常生活で不都合を感じることはなかった。ただ、自動巻きであることを考えると、着用時は常に巻き上げられているわけだから、48時間後の誤差がプラス11秒と、24時間後の誤差のプラス7秒よりもプラス4秒も広がってしまったのは残念だった。
今回試しにクロノグラフを作動したままの状態で、24時間後と48時間後の誤差も計測してみた。結果、24時間後の誤差がプラス5秒、48時間後の誤差がプラス10秒となり、クロノグラフ非作動時とほぼ同じか若干良い結果となった。着用時は、クロノグラフを駆動し続けたほうが、精度が安定するのはなぜだろうか?
現実的には、進化版のTH20-00の片方向巻き上げ式と比べた場合の巻き上げ効率や、セラミックベアリングの耐久性などは、もっとさまざまな場面での腕の動きや腕の振りの強さなどで、数カ月単位で実験してみないと実感できないに違いないが、この約1週間の着用インプレッションを経て感じたことは、外装デザインのパッケージングに対して、中身のムーブメントの精度は実用に十分であり、普段使いにおける装着感と視認性、そして何よりも、このグラスボックス越しに見る文字盤の意匠と立体的な造形美が、当初の期待を上回る満足感を与えてくれたことだ。
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