例年、多くの限定モデルを発表することで有名なグランドセイコー。本記事では2023年に発表された限定モデルをまとめて紹介する。本年は、セイコーが国産初の腕時計「ローレル」を完成させてから110周年であり、さらにグランドセイコーの大きなターニングポイントである9S系ムーブメント誕生25周年となる。そのため、これらを祝うアニバーサリーモデルが多くラインナップされた。いずれのモデルも数量限定のため生産終了であり、メーカーでは完売となっている。
Text and Photographs by Shin-ichi Sato
[2023年12月17日公開記事]
セイコー腕時計110周年記念モデル SBGW295
2023年は、セイコーが国産初の腕時計である「ローレル」を完成させた1913年から110年のアニバーサリーイヤーとなる。グランドセイコーでは本年をセイコー腕時計110周年とし、これを記念する「エレガンスコレクション セイコー腕時計110周年記念限定モデル SBGW295」を発表した。
SBGW295のデザインは、「世界に挑戦する世界最高級の腕時計をつくる」志の下で60年に発表された初代グランドセイコーの復刻デザインがベースであり、本作のダイアルは純国産漆を用いたブラックとなっている。
手巻き(Cal.9S64)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブリリアントハードチタンケース(直径38mm、厚さ10.9mm)。世界限定500本。181万5000円(税込み)。完売。
生産量が限られる希少な国産漆は、扱いが難しい一方で耐久性・耐光性に優れるため、国宝等の修復に用いられている。本作では、国産漆をベースにグランドセイコー専用に調合した黒漆が用いられており、鮮やかな発色を長期にわたって保つ点が特徴である。また、インデックスは金沢の漆芸家の田村一舟が加賀漆芸による高蒔絵で仕上げられている。
ケースは、軽量かつ標準的なステンレススティールの約2倍の硬度を備える独自素材「ブリリアントハードチタン」を採用し、グランドセイコーのお家芸であるザラツ研磨によって仕上げられている。ムーブメントは、初代グランドセイコーにならった手巻き式のCal.9S64である。
9S系ムーブメント誕生25周年を記念した4モデル
グランドセイコーは、1998年にCal.9S55の発表によって約20年ぶりに機械式時計を復活させ、それに合わせてスイスのクロノメーターを超える「新グランドセイコー規格」を制定した。本年は9S系ムーブメント25周年にあたり、記念モデルが4モデル発表された。
9S初搭載モデルを踏襲したCal.9S誕生25周年記念モデル「SBGH311」&「SBGR325」
「ヘリテージコレクション キャリバー9S 25周年記念限定モデル SBGH311」と「ヘリテージコレクション キャリバー9S 25周年記念限定モデル SBGR325」は共に、9S系キャリバーを初採用した1998年発表の「SBGR001」に基づいたデザインを持つモデルであり、岩手山から望む風景をダイアルに取り込んだヘリテージコレクションである。
岩手山はセイコースタジオ 雫石が位置する岩手県雫石町にそびえる日本百名山のひとつであり、南部片富士として親しまれている。岩手山がモチーフに選ばれた理由は、自然の季節の移ろいからインスピレーションを受ける感性と、時の本質に迫ろうとする匠の姿という日本特有のふたつの精神性を表したグランドセイコーのブランドフィロソフィーである「THE NATURE OF TIME」を反映しているためだ。
自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径37mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。世界限定1200本。88万円(税込み)。完売。
Cal.9S85搭載の「SBGH311」は、岩手山周辺に広がる雲海をイメージした模様をダイアルに施したモデルだ。カラーはシルバーの単色としつつ、ダイアル表面に有機的な模様を与えて表情を与える手法は近年のグランドセイコーの得意とするアプローチであり、本作でもその手腕がいかんなく発揮されている。
Cal.9S85は、耐久性と耐磁性が優れた「スプロン」製ヒゲゼンマイ、MEMS技術による軽量な脱進機を採用した3万6000振動/時のハイビート機である。また、本作には25周年記念の特別仕様であるスカイブルーのホイール型ローターが組み合わされる。
自動巻き(Cal.9S65)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径37mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。世界限定1200本。70万4000円(税込み)。完売。
Cal.9S65搭載の「SBGR325」は、岩手山の山頂から見上げる中天の空を表現した、サンレイ仕上げのスカイブルーダイアルを備えるモデルだ。鮮やかながら落ち着きや上品さを感じさせる色調は、日本人の思う空の色をサンプリングしているためであろう。
Cal.9S65は、Cal.9S85同様にMEMS技術による軽量な脱進機を採用して作動効率を高め、約72時間のパワーリザーブを有しており、実用性の高い仕上がりである。また、本作には記念モデル特別仕様としてブランドカラーである「グランドセイコーブルー」のホイール型ローターが組み合わされる。
GMT機能を有するCal.9S誕生25周年モデル「SBGJ275」&「SBGM253」
自動巻き(Cal.9S86)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径44.2mm、厚さ14.8mm)。20気圧防水。世界限定2000本。104万5000円(税込み)。完売。
残る2モデルは、先の2本と同様に岩手山から望む風景をダイアルに取り込んだ、GMT表示機能を備えるモデルだ。Cal.9S86を搭載する「スポーツコレクション キャリバー9S 25周年記念限定モデル SBGJ275」は、24時間表示の回転ベゼルによって最大3カ所のタイムゾーンの時刻を表示可能なモデルである。
ダイアルは岩手山から望む雲海を有機的な模様で、雲海に反射する青空を爽やかなスカイブルーにて表現している。回転ベゼルはグランドセイコーらしさのあるブルーとホワイトのツートンとなり、昼夜が表示されている。
本作は、回転ベゼルと4時位置のリュウズによってスポーティーな印象を強めつつ、サファイアガラス製ベゼルインサートや、高い磨き技術が施されたケースおよびインデックスなどの優れた外装品質、爽やかなスカイブルーのコンビネーションによりエレガントな印象も備える。Cal.9S86は、GMT機能を備える3万6000振動/時のハイビートムーブメントである。本作には特別仕様としてダイアルカラーとマッチするスカイブルーのホイール型ローターが組み合わされる。
自動巻き(Cal.9S66)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39.5mm、厚さ13.7mm)。3気圧防水。世界限定1700本。75万9000円(税込み)。完売。
Cal.9S66を搭載する「エレガンスコレクション キャリバー9S 25周年記念限定モデル SBGM253」は、ドレスモデルの雰囲気とクラシカルなツールウォッチテイストを備えたGMT表示機能搭載モデルである。ダイアルは岩手山の山頂から見上げる中天の空を表現している。
ラウンドケースや、ダイヤカットを施したドーフィン針、ボックス型サファイアクリスタルはグランドセイコーのドレスモデルの特徴を色濃く反映しており、抜けるような青空が思い起こされる明るいスカイブルーのダイアルによりドレッシーに仕立てられている。
ここに24時間表示や矢印型のGMT針が組み合わさり、すっきりとしたレイアウトに収められた。本作には記念モデル特別仕様としてグランドセイコーブルーのホイール型ローターが組み合わされる。
日本ならではの情緒をダイアルで表現した「SBGY026」
手巻きスプリングドライブ(Cal.9R31)。30石。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径38.5mm、厚さ10.2mm)。日常生活防水。世界限定100本。363万円(税込み)。完売。
ケースフォルムの柔らかな曲線と薄型の仕立て、緩やかなカーブを描くドーム型サファイアクリスタルを組み合わせたモデル。現在のグランドセイコーのラインナップの中でも一段とドレッシーな仕上がりだ。
ムーブメントは「信州 時の匠工房」による手巻きスプリングドライブムーブメントのCal.9R31であり、滑らかな秒針の移ろいが本作から想起される静かな時の移ろいを思わせる仕上がりである。
少量生産によるマスターピースコレクションは2モデルの発表
多くの手作業が施され仕上げられるグランドセイコーの時計の中でも、極めて緻密な作業を必要となるため少量生産に限られるマスターピースコレクションが毎年発表されている。本年も2モデルが発表された。
厳冬の白樺林を表現した「SBGZ009」
「マスターピースコレクション 手巻きスプリングドライブ 彫金 限定モデルSBGZ009」は、厳冬の八千穂高原に広がる白樺林を彫金で表現したモデルだ。八千穂高原は長野県の北八ヶ岳に所在し、本作を製作する「マイクロアーティスト工房」が同じく長野県の塩尻に工房を構えることからテーマに選ばれている。
手巻きスプリングドライブ(Cal.9R02)。39石。パワーリザーブ約84時間。Ptケース(直径38.5mm、厚さ9.8mm)。3気圧防水。世界限定50本。951万5000円(税込み)。完売。
本作のプラチナケースは、一度、ザラツ研磨によって歪みのない鏡面に仕上げられてから、熟練職人の手作業で彫金を施して仕上げている。ベゼルからダイアルにかけて深くつながる深く長い彫金は、雪の中でも存在感を示す白樺の力強さからインスピレーションを受けている。
ダイアルも白銀の世界を思わせるシルバーカラーとし、白樺の幹をイメージした凹凸の深い有機的な型打ちが施している。時分針とインデックスは14Kホワイトゴールド製で、6時位置には貴金属を用いていることを示すSDマーク(Special Dialの意)が施される。これは60年代のモデルに用いられた意匠であり、古くからのセイコーファンにもうれしいデザインだ。
搭載される手巻きスプリングドライブムーブメントのCal.9R02は厚さ4.02mmと薄い仕立てであり、本作の時計ケース厚9.8mmを実現するのに寄与している。
Cal.9R02はデュアル・スプリング・バレルとトルクリターンシステムにより約84時間のロングパワーリザーブを実現して高い実用性を備え、非常に高いレベルの仕上げが楽しめる審美性を備える他、スプリングドライブ特有のスイープ運針が、静寂な厳冬の白樺林を思わせる仕上がりである。
ブランドのシンボルである獅子を表現した「SBGD213」
近年のグランドセイコーは男性の着用を想定したジュエリーウォッチをラインナップしている。本年の作品として発表された「マスターピースコレクション スプリングドライブ8days ジュエリーウォッチ限定モデル SBGD213」は、グランドセイコーのシンボルである獅子をダイヤモンドとブルーサファイアで表現したモデルだ。
手巻きスプリングドライブムーブメント(Cal.9R01)。56石。パワーリザーブ約192時間。Ptケース(直径44.5mm、厚さ14.4mm)。3気圧防水。世界限定8本。3080万円(税込み)。完売。
グランドセイコーは1960年の誕生以来、王の象徴として広く認識される獅子をシンボルとして用いてきており、これには最高峰の腕時計を目指す意思が込められている。サファイアによってブランドカラーのブルーを取り込みつつ、インデックスとして放射状に配置されたダイヤモンドとサファイア、太く張り出したラグなどによって獅子の圧倒的な存在感を表現している。
搭載されるCal.9R01は、マイクロアーティスト工房が手掛けるスプリングドライブムーブメントで、3つの香箱を直列に配置することで約192時間のロングパワーリザーブを可能としている。さらに受けの形状は富士山、ローターは太陽、ルビーは諏訪の町の灯り、パワーリザーブ表示は諏訪湖をイメージしたものとなっており、裏蓋を通してスプリングドライブ誕生の地から富士山を望むかのような情景を楽しむことができる。
この他、本年もグランドセイコーは店舗限定モデルを発表してきた。それらを紹介してゆこう。
ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 銀座限定2023モデル SBGH315
「メカニカルハイビート36000 銀座限定2023モデル SBGH315」は銀座をテーマとしたモデルだ。銀座は、各国の有名ブランド日本旗艦店が立ち並ぶ世界有数のショッピングスポットである。
また、セイコー創業の地であり、現在も「グランドセイコーブティックフラッグシップ和光」やセイコーウォッチ本社を構えるなど、セイコーにとってゆかりの深い街である。本作のダイアルには、テクスチャーとして個性的な通りが交錯する銀座の街を模した「銀座グリッドパターン」を採用し、カラーは銀座の朝の晴天のように気持ちが高まる爽やかな群青色としている。
自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径40.0mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。84万7000円(税込み)。完売。
ムーブメントは3万6000振動/時のCal.9S85で、ケースバックには「GINZA LIMITED EDITION」と記されている。
秋の夜空に浮かび上がるセイコーハウス銀座を表現したSBGY033
銀座の和光でのみ購入可能な「エレガンスコレクション 和光限定モデル SBGY033」は、セイコーハウス銀座をテーマにしたモデルだ。放射状の繊細な型打模様で澄み渡る秋空を、金色のGSロゴによってライトアップされた銀座のシンボルにもなっているセイコーハウス銀座の時計塔を表現している。
ムーブメントには信州 時の匠工房製の手巻きスプリングドライブCal.9R31を採用し、薄く、エレガントなスタイリングを実現している。また、ケースバックには獅子の紋章に加えて、「WAKO LIMITED COLLECTION」の文字が記されている。
手巻きスプリングドライブ(Cal.9R31)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38.5mm)。限定50本。113万3000円。完売。
長野県の「あんずの里」に咲く杏の花を表現したSBGA485
「エレガンスコレクション 和光限定モデル SBGA485」は、本作の製造拠点である長野県の「あんずの里」で見られる杏の花をモチーフとしたモデルだ。あんずの里では4月頃になると一面がピンクに染まり、春の訪れを告げることが知られる。
杏は「不屈の精神」を花言葉に持ち、不況な状況が続いても強い気持ちをもって歩みたいとの想いを重ね、本作のテーマとして選ばれている。
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R65)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40.2mm)。10気圧防水。和光限定70本。75万9000円(税込み)。完売。
本作のダイアルは濃淡を伴いつつ柔らかなピンクでまとめられており、秒針や秒スケール、パワーリザーブ表示針などを朱色として、デザインに統一感を与えている。ゴールドカラーのGSロゴもエレガントだ。ダイアルの濃淡は、型打模様によって生み出されており、立体感や奥行きが加えられている。
ムーブメントは自動巻きスプリングドライブのCal.9R65を搭載し、ダイアルの柔らかな色調とマッチするスムースな運針を楽しむことができる。ケースバックには獅子の紋章と「WAKO LIMITED COLLECTION」の文字が記される。
三越創業350周年を記念して製作されたSBGH319
「日本橋三越限定 2023 ヘリテージコレクション SBGH319」は、日本を代表する百貨店のひとつである三越の創業350周年を記念したモデルだ。本作の特徴は創業時の江戸時代を偲ばせる紺色の大店暖簾に着想を得たダイアルである。縦方向に不規則に施されたストライプパターンによって、張りのある暖簾生地のドレープを表現している。
ケースデザインは1967年発表でブランド初の自動巻モデルとなった62GSをベースに現代的にアレンジが施されたものであり、搭載されるCal.9S85はグランドセイコーが得意とする3万6000振動/時のハイビートムーブメントと、三越とグランドセイコーの歴史が融合した1本に仕上がっている。
自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径40mm)。10気圧防水。84万7000円(税込み)。完売。
都会のオアシスを表現したグレイッシュなボタニカルグリーンダイアルが特徴のSBGA495
伊勢丹新宿店で開催された「ウォッチコレクターズウィーク」に合わせて用意されたのが「ヘリテージコレクション SBGA495 伊勢丹新宿2023限定モデル」である。本作のダイアルはグレイッシュなボタニカルグリーンであることが特徴だ。
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R65)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm)。10気圧防水。生産完了。
ボタニカルとは植物から作られたことを意味しており、彩度を抑えて落ち着いた印象に調色し、有機的な型打模様によって濃淡が与えられている。都会のオアシスをテーマとしており、都会的な端正さと、見ていて落ち着く柔らかさを備えている。ムーブメントは自動巻きスプリングドライブのCal.9R65であり、特徴であるパワーリザーブ表示針もグリーンで彩られている。
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