熟成したフライバッククロノグラフムーブメントを搭載するショパール「アルパイン イーグル XL クロノ」。大ぶりなケースに巧みな工夫で優れた装着感を与えた同作は、まさに大型クロノグラフの決定版とも言えるモデルだ。ショパールが追求したヘッドとブレスレットのバランス感、そして大径ケースらしからぬ文字盤の凝縮感を、特に注目して見ていこう。
その名の通り、大径ケースにフライバッククロノグラフを収めたモデル。ヘッドとブレスレットのバランスに優れるため、装着感は良好だ。針回しの感触もよく調整されている。自動巻き(Cal.CHOPARD 03.05-C)。45石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。ルーセントスティール™(直径44mm、厚さ13.15mm)。100m防水。306万9000円(税込み)。
細田雄人:取材・文
Text by Yuto Hosoda
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]
デザインの妙技が光る大口径クロノグラフの決定版
今回の特集は「2020年代を代表する傑作クロノグラフ」をうたっているだけあり、紹介する時計はどれも魅力的だ。しかし、そんな数ある名作の中でも「アルパイン イーグル XL クロノ」は、一段と輝きを放っていた。輝くような白さを持つルーセントスティールと立体的なケース造形、そして鮮やかなブルー文字盤。気が付けば、同作を手に取り、着用を開始していた。
ブレスレットを合わせてもらい、腕に初めて載せた際の正直な感想は、「ずっしり重い」。直径こそ確かに大ぶりな44mmながら、ケース厚は13.15mmと垂直クラッチを持つ自動巻きクロノグラフとしては至って平均的なため、ここまで腕の上で存在感を放つとは思わなかった。しかし、戸惑いを感じたのも最初のみ。ラグが短く切ってあるため、170mmという筆者の腕周りならば収まりは決して悪くない。またブレスレットのコマに厚みを持たせることで、ヘッドヘビーなケースとのバランスをうまく取っており、装着感自体は良好だった。とはいえ、これはブレスレットを腕にジャストフィットさせた際の感想だ。ひとコマ分余裕を持たせる着け方では、同作が持つ装着感の良さを存分に享受できないだろう。また、そのブレスレットの構造上、どうしてもキーボードを打つ時などはバックルやその付近のコマが机に当たってしまうことがあった。デスクワークの際には外した方が無難だろう。
前述のように、アルパイン イーグル XL クロノは腕上での存在感が強い時計だ。しかし、それは装着感が良い時計の前では、決してネガティブな意味にはならない。むしろ同作のケースは切削によって凝った造形が与えられており、その厚み自体がデザイン上の奥行き感や立体感を表現するのに一役買っている。外装にポリッシュとサテンを使い分ける仕上げは今や定番の手法だが、施される面積が広いため、全体的に締まった印象を与えられていることも、アルパイン イーグル XL クロノの美点だ。
搭載するキャリバーCHOPARD03.05-Cは、「LUC クロノ ワン」用に開発された2006年初出のキャリバーLUC03・03-Lを改良したもの。LUC03.03-Lは熟成に熟成を重ねた名機であり、その安定感には定評がある。実際に精度を見てみると、歩度測定器による静態精度ではT24までは進み傾向が見られたが、T48では一転して大幅な遅れ傾向が見られた。この結果をにわかに信じ難いのは、着用した際の日差が、2日目で+3秒、3日目で+7秒、4日目でも+11秒と安定した進み傾向で見られたからだ。日較差も+4秒ずつで推移しており、動態精度だけ見れば、十分合格の範囲であると言える。
次に操作感について記載しておこう。CHOPARD03・05-Cは小型の自動巻き機構を載せることで、強固なリセットハンマーを入れるスペースを作り、無理なくフライバックを可能にしたムーブメントだ。その堅牢な設計からは意外なことにムーブメント直径自体は28・80mmと小径なため、針合わせやプッシュボタンの感触が気になるところだ。しかし、蓋を開けてみれば、流石はショパール。針回し時のトルクは常に一定で、いやらしく途中で逆回転を挟んでも、針が飛ぶようなことはなかった。ただし、大型のリュウズガードとベゼルが干渉するため、リュウズのねじ込みを解除するのにはコツが必要だ。クロノグラフプッシャーの押し心地は、2時位置のスタート/ストップと4時位置のリセット/フライバックで多少異なる。前者は押し込むのに多少の力が必要だが、後者は軽く押すことができる。スタート/ストップの方が若干固いのは、誤作動防止のためだろう。その証拠に、押し込み切ってからのカチッとした感触はどちらもそろえられている。
ところで、大型ケースに小径ムーブメントを組み合わせる時計は、ダイアルレイアウトが中心に寄ってしまうケースが多々見られる。もちろん、掲載カットを見ても明らかな通り、アルパイン イーグル XL クロノにそんな心配は無用である。これは幅広のアイコニックなベゼルを採用することで文字盤自体を小径化したこと、そしてコンパクトな文字盤の中で、見返しリングを大きく取るといった妙技によってデザインバランスを調整しているからだ。結果、マッシブな大型ケースながら文字盤は凝縮感にあふれるという、唯一無二の個性を手にしている。それぞれのインダイアルは限られた面積の中で可能な限り大きくし、針もインデックスも太くする。一歩間違えたら雑然としたダイアルレイアウトとなってしまいそうだが、それを同作のように巧みにまとめ上げられる時計は数少ない。恐ろしいのは、これだけの表示要素がありながら、文字盤上の文字サイズにメリハリを与え、高い視認性を確保していることだ。少なくとも着用していた1週間弱は、暗所でも強い光源下でも常にしっかりと時刻を読み取ることができた。
見た目良し、機構良し、そして装着感良しの3拍子そろったアルパイン イーグル XL クロノ。同作のケースサイズを見て敬遠している時計愛好家には、ぜひ手に取ってもらいたい1本だ。なんと言っても、小径時計好きが求める装着感も、文字盤の凝縮感も、この時計には備わっているのだから。
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