ETAを克服するウォッチメーカー&サプライヤー

2016.10.03

CASE STUDY①

DUBOIS DÉPRAZ

デュボア・デプラ

ETAのモディファイで大きな成功を収めてきたのが、
“モジュール屋”のデュボア・デプラである。
長年、ETAと密接な関係を誇ってきた同社だが、近年は方針を改めつつある。
具体的には、セリタをはじめとする非ETA製エボーシュの採用と、“中量生産”へのシフトだ。

2016年のEPHJ(高精度時計/ジュエリー、マイクロテクノロジー、医療技術展)で発表された新型モジュール。モリッツ・グロスマン風のリニア式パワーリザーブ表示を持つのはDD12022、扇形のものはDD12021。前者はモジュールを回転させることで、パワーリザーブ表示の位置を自在に変えられる。ベースに推奨されるのはセリタのSW200。 DD12020系のサンプルが搭載されていたのは、ETA2892A2代替機のSW300-1。なお、モジュールを加えた状態での直径は32.59mm、厚さは6.20mm。価格は240スイスフラン(SW 200ベース、仕上げなしの場合)。もっとも、個数と仕上げの種類によって価格は大きく変わる。 テンプ部分の拡大写真。相変わらずETAを好むデュボア・デプラだが、ここ数年はセリタの採用に積極的だ。香箱の真を伸ばすことで、文字盤側にパワーリザーブ表示を付けることに成功した。香箱真を製造するのは、子会社のDPRM。ETAの歯車なども製造する。

方向転換を支える老舗メーカーの品質に対する自信

デュボア・デプラのジェネラル・ディレクター、パスカル・デュボア。1963年、スイス生まれ。学校を卒業後、デュボア・デプラに入社。現在は子会社であるDPRMのディレクターも兼務する。「デュボア・デプラの生産個数は下がっています。しかし、高価格帯にシフトしているので問題はありません。実力があれば、環境が変わろうと対応できます」。

 私たちにはモジュールとベースムーブメント(=エボーシュ)で完成体とみなすという考えがあります。ですから、新しいベースムーブメントの採用には慎重にならざるを得ません」。そう語るのはデュボア・デプラで副社長を務めるパスカル・デュボアだ。同社が長年ベースムーブメントとして好んできたのが、信頼性の高いETAである。しかし最近は、セリタやソプロードのエボーシュも併用する。

「ETAが供給を減らすと明言して以降、私たちは解決策を模索してきました。そのひとつがセリタです。ただ、かつて同社の自動巻き(SW300)には、自動巻き機構に問題があった」。デュボア・デプラがセリタの使用を増やしたのは、改善の目処が立って以降のこと。信頼性を重視する、同社らしい姿勢だ。

 もうひとつの解決策が、少量多品種化の推進である。私たちが想像するデュボア・デプラのイメージは、ETAにクロノグラフモジュールを被せたムーブメントを、年に数十万個も作る大メーカーだ。しかし、永久カレンダーを例に挙げると、現在、同社は最低5個から注文を受け付けるという。小メーカー、クロード・メイランへの納入数もわずか15個というから、その生産体制は驚くほど柔軟だ。

「かつては某メーカーに、クロノグラフモジュールを載せたムーブメントを年に6万個収めたこともあります。しかし、単価は低かった。今は本数を減らし、代わりに単価を上げています」

 もっとも同社の本当の強みは、大量生産でも少量生産でもない、〝中量生産〟にある。現在、デュボア・デプラが擁するモジュールは300以上。最低数百のロットから受注に応じられるという。可能にしたのは、独自のノウハウだ。1970年代後半、デュボア・デプラは他社に先駆けてワイヤ放電加工機を導入し、永久カレンダーやミニッツリピーターの量産に成功した。後に同社は、こういった精密な部品の加工を、精密な切削でも行うようになった。「ジャンパーの加工を例に挙げると、加工のスピードは放電加工機の倍になりました」。また老舗のクロノグラフメーカーらしく、穴開けは切削ではなく古典的なプレス。数を作れる上、加工時の繰り返し精度も保てるが、基本的には大量生産向けの手法である。〝中量生産〟に活用できたのは、金型を内製できればこそ、だ。


2016年のEPHJで発表されたクロノグラフモジュールがDD250系である。ベースは名機DD2000系。直径は30mm、厚さは7.6mmである。価格は550スイスフラン(SW200ベース、仕上げなしの場合)。カタログには「魅力的な価格での解決策を提供」とある。 DD2000系の地板を抜き、その上にカラフルなカバーを被せたのがDD250系である。カバーの素材はアルミ製。しかし「穴石を打ち込むと簡単に抜けるので素材の配合を変えた新しいアルミを開発した」(デュボア)とのこと。彩色はアルマイト処理で行っている。
DD250系のサンプルが載るのは、ETA2892A2である。ETAからのエボーシュ供給は年に15%ずつ削減されているが、ベースとしての選択は可能である。「2020年以降、供給がどうなるかは不明だ。しかし、ETAはおそらく、供給を続けてくれるでしょう」(デュボア)。
“中量生産”を可能にしたのが切削を使った大量生産の手法である。プレスは大量生産に向くが、精密な加工はできない。対して、放電加工機は精密な加工はできるが大量生産に向かない。この場合、0.2mmのバイトで切削することにより、同時に100個以上の部品を作れる。

 その成果が、毎年のように発表される新しいモジュールに表れている。2016年に同社が発表したモジュールは、パワーリザーブを強調したDD12020系、ムーブメントをスケルトナイズしたDD250系など。いずれもトレンドを意識した機構を持ち、小メーカーの注文に応じられるよう、見た目も自在に変えられる。適応できるベースムーブメントは、ETA、セリタ、ソプロードなど。

こちらはエクスクルーシブなモジュールのDD90000系。最近のトレンドを反映して、ムーンディスクは極大化されている。左3つがDD90000。
パテック フィリップ風の扇形カレンダーを持つのがDD90313である。こちらもベースムーブメントは自由に選べる。

 ETAに依存した大量生産から、中量生産にシフトするデュボア・デプラ。方向転換を支えるのは、品質に対する絶対的な自信だ。「私たちは、今やどのベースムーブメントでも同じ品質を与えることができるのです」。(広田雅将:本誌)