幽玄の音色に酔いしれる刹那
パテック フィリップの創業は1839年です。18世紀に入った頃には、今と変わらないミニット・リピーターのシステムが発明されているので、ミニット・リピーターの発明は、パテック フィリップの創業よりもはるかに早いわけです。創業の年に、パテック フィリップは、テーブルクロックでクォーター・リピーターの時計を出しています。6年後の1845年には、懐中時計のミニット・リピーターを450スイスフランで販売しています。これは当時としてはすごい大金です。
そして、20世紀に入って腕時計が作られるようになると、1924年に、腕時計としては初めてのミニット・リピーターを発売しています。爾来、100年近くの間、パテック フィリップは常にミニット・リピーターを販売アイテムとして出してまいりました。
ところが、1958年から1982年までの24年間に限り、ミニット・リピーターの新作は出なかったのですが、その間もミニット・リピーターを製作しなかったわけではありません。
現在、我々は、かなりの数の現行ミニット・リピーターを持っています。リファレンスの数で13。そして、リファレンスごとに、ケース素材や文字盤の種類によって平均で3種類近い数があります。このミニット・リピーターをすべて並べると、実に30本という数が並ぶことになります。これだけの種類を持っているブランドはほかにはないと思います。
これらのミニット・リピーターには、どんな種類があるのでしょうか? いろいろな分け方があります。ただ、真っ先に分けなければいけないのは、我々が違う音と認識しているものです。ひとつは、我々が「トラディショナル」と呼んでいるタイプで、〝高く澄んだ、切れの良い音〟と表現しているものです。多くのミニット・リピーターが、このタイプのゴングを積んでいます。
2本のクラシック・ゴングを備えたミニット・リピーター。ムーンフェイズ表示に加え、レトログラード日付表示針付き永久カレンダーを搭載する。曜日・月・閏年は小窓で表示。シルバー・オパーリン文字盤にはゴールド製のバー・インデックスが植字される。手巻き(Cal.R TO 27 PS QR)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRG(直径39.5mm、厚さ12.23mm)。非防水。時価。
2本のクラシック・ゴングを備えたシンプルな女性向けのミニット・リピーター。クリーム・グレイン文字盤にはゴールド製のブレゲ数字インデックスが植字され、シンプルな佇まいに凛とした気品を与えている。自動巻き(Cal.R 27 PS)。39石。2万1600振動/時。18KRG(直径33.7mm、厚さ9.5mm)。非防水。時価。
これに対して、「カセドラル」と呼ばれるものがあります。トラディショナルタイプに比べて、音が若干低い代わりに、余韻が長いタイプです。カセドラルとは大聖堂や寺院を意味します。なぜカセドラルという言葉をあてたかというと、パテック フィリップは、ミレニアムである2000年紀をお祝いとして位置付けて、スターキャリバー2000という時計を開発しました。これにはゴングが5本あります。なぜかというと、5音階使って、ウェストミンスターチャイムを再現したのです。リピーターのクォーターの部分をウェストミンスターのメロディーにしたのが、このモデルのミニット・リピーターの特徴です。
2本のカセドラル・ゴングを備えたミニット・リピーター。ほかに、ムーンフェイズ表示に加え、曜日・日付・月・閏年を指針表示する永久カレンダーを搭載する。エボニー・ブラック文字盤にはゴールド製のブレゲ数字インデックスが植字される。自動巻き(Cal.R 27 Q)。39石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Pt(直径42mm、厚さ12.23mm)。非防水。生産終了。
この時、現会長のフィリップ・スターンの強い希望がありまして、ウェストミンスターの音を鳴らす以上、音は寺院の鐘の音に近い音が欲しいということで、R&Dチームが夢中になって開発した結果、若干低音になりますが、彼の求める鐘の音を余韻の長い音だと解釈した結果、生み出したのがカセドラルなのです。会長が、これを大変に気に入り、翌年にはスカイムーン・トゥールビヨンとして、そのシステムを腕時計の中に組み込むという作業がすぐに行われました。こうして発表されたのが5002です。現在は生産終了になり、その後継機が6002です。これはカセドラルタイプのゴングを持った複雑腕時計です。このカセドラルの音をほかのモデルでも聴きたいということで、永久カレンダーとミニット・リピーターを備えた比較的シンプルな5074が発表されました。現在、この5074は生産終了し、5374という後継機種に替わっていますが、機構は同じです。