2本のクラシック・ゴングを備えたミニット・リピーター。トゥールビヨンと瞬時日送り式永久カレンダーを搭載。カレンダーの曜日・日付・月・閏年は小窓表示。さらに、ムーンフェイズと昼夜表示を備える。ベゼルには40個(約3.91ct)、バックルには6個(約0.30ct)のバゲットカットダイヤモンドがセッティングされる。エボニー・ブラック・ソレイユ文字盤にもバゲットカットダイヤモンドのインデックスが配される。手巻き(Cal.R TO 27 PS QI)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Pt(直径41mm、厚さ13.96mm)。非防水。時価。
スライドピースを引くと、中にある調速機が回転を始める様子を見ることができます。実際に回転しているパーツは、我々がイナーシャル・フライと呼んでいる特殊なもので、回転軸を中心にして鉄製の錘が開いていきます。この錘はバネによって開きすぎないように、押さえられています。スライドピースを引いた時、ゼンマイのトルクが強い時には、とても速く回転します。したがって、鉄製の錘はいきなり大きく開きます。開いた錘は、ゼンマイのトルクが落ちてくると徐々に速度が落ちて、鉄製の錘は内側に収納されていきます。実は、この錘が開き切った時から、リピーターの音が鳴りはじめます。なにゆえ、このパーツを使うのでしょうか? この遠心ガバナーは、ゼンマイのトルクが強い時には、錘が開くことで回転速度が速くなりすぎないように調整します。そして、バネのトルクが落ちてきた時には、徐々に錘を内側に入れることで、回転数を下げないようにしているのです。この機能によって、ひとつひとつの打刻の間隔を常に一定に保ち、最後まで間延びすることなくゴングを打ち鳴らしきります。パテック フィリップは、この技術では他の追随を許しません。
2本のカセドラル・ゴングを備えたミニット・リピーター。ムーフェイズ表示に加え、曜日・日付・月・閏年を指針表示する永久カレンダーを搭載。ベゼルとラグには103個(約4.33ct)、バックルには42個(約0.69ct)のバゲットカットダイヤモンドがセッティングされる。ラック・ブラック文字盤にもバゲットカットダイヤモンドのインデックスが配される。自動巻き(Cal.R 27 Q)。39石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRG(直径42mm、厚さ11.11mm)。非防水。時価。
ほかにも視覚的に分かりやすい特徴があります。パテック フィリップの手巻きでトゥールビヨンを搭載したミニット・リピーターは3番車にゴールド製の歯車を使っています。金というものは非常に軟らかい素材で、そもそも歯車には向かない金属です。通常は、平歯車は真鍮、軸の付いたカナ歯車は鉄製です。この中で唯一の例外が、このトゥールビヨン搭載手巻きミニット・リピーターの3番車です。ただし、この3番車は9金を使っています。なぜ、3番車をあえてゴールドにしたのか? 美しいからです。しかし、誰が美しいと決めるのか? 基本的に客観的な基準は何もありません。非常にはっきりしているのは、これもフィリップ・スターン会長の好みなのです。これは大変、時計師泣かせの部品で、ただでさえ金という変形しやすい部品を、非常に手間暇をかけて仕上げています。PC制御のRC旋盤でミクロン単位まで管理加工したものを、時計師が10時間かけて磨き込みます。10時間ということは、この3番車の研磨だけで、1日以上かかるということです。湾曲したアームにもきっちりと面取りが施されていますが、この加工は高度な技能を持った時計師が10時間かけて行うわけですから、決して歩留まりが良いパーツとは言えません。なぜそこまでするのか? 理由はひとつです。「美しい」からです。
パテック フィリップの場合、審美性が我々の矜恃の中で非常に大きな部分を占めています。磨くということは、本来、摩擦を軽減して、時計の寿命を長くするという非常に大切な役割があるのですが、このようにまったく触れ合わない部分を磨くというのは、機能とは関係のない作業です。この機能とは関係のない作業が何に基づいているのかというと、それがこの「審美性」なのです。
この3番車のモチーフになったのが、たまたまフィリップ・スターン会長の部屋に飾ってあった会長が好きな昔の旋盤です。歯車の歯を切り出す旋盤の手回し車がこの3番車のモチーフなのです。ある日、会長が「こういう形の歯車があったら、きれいだね」と言った、その一言をR&Dの人間が聞きつけて、1992年に3939Hというモデルに現在のゴールド製の3番車を搭載したところ、非常にお客様からのリアクションが良かったのです。何なんだ、このきれいな歯車は? どうやったら、こんなにきれいな歯車が使えるんだ、と。こういうリアクションがあると、パテック フィリップの場合、他の商品にも適用されるということがままあります。ということで、手巻きでトゥールビヨンを搭載しているミニット・リピーターに関しては、ほかのモデルの3番車もこの形にするということになりました。これもミニット・リピーターだけの特徴です。
──パテック フィリップの数あるモデルの中でも、頂点に君臨するミニット・リピーター。通常は、目にすることすら不可能な、ただでさえ稀少なこのグランド・コンプリケーションについて、その知られざる数々のエピソードを、パテック フィリップ ジャパン代表取締役CEOの長野英樹氏のプレゼンテーションから、抜粋してお伝えした。本特集で紹介したミニット・リピーターのひとつひとつ異なる幽玄の音色は、ウェブクロノスにアップされた動画ページで堪能することができる。
その調べに耳を傾けながら、ミニット・リピーターの審美性に隠されたエピソードに思いを馳せるのも、秋の夜長を楽しむ一興としていかがだろうか?
動画はこちらから>>「パテック フィリップ ミニット・リピーターコレクション」