2023年を代表する1本を『クロノス日本版』/webChronos編集長が勝手に選出。選ばれたのは複雑機構を多く搭載しながら、使えるサイズに留めたオーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」だ。
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2023年12月14日公開記事]
複雑なのに使えるサイズ! オーデマ ピゲのユニヴェルセル
2023年を代表する時計をひとつあげるならば、間違いなくオーデマ ピゲの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」になる。まさか、これほどの時計をオーデマ ピゲが作るとは予想もしていなかった。これより複雑なコンプリケーションはある。しかし本作は、使えるサイズと操作性を盛り込んだ点で類を見ない。
オーデマ ピゲという会社は、第2次世界大戦前まで、基本的にはコンプリケーションしか作ってこなかった。そんな同社の手掛けたモデルの中で極めつけに複雑だったのが、1899年に製造された「ユニヴェルセル」だ。これは、316本のネジを含む1168個の部品で構成される、当時、最も複雑な懐中時計だった。
自動巻き(Cal.1000)。90石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約64時間。18KWGケース(直径42mm、厚さ15.55mm)。2気圧防水。価格要問い合わせ。
このモデルを今に仕立て直したのが、2023年のユニヴェルセルだ。ウルトラコンプリケーションとオーデマ ピゲがうたうだけあって、部品点数は1100個以上、そして23のコンプリケーションを含む40の機構が詰め込まれた。スーパーソヌリ、パーペチュアルカレンダー、スプリットセコンド付きフライバッククロノグラフ、フライングトゥールビヨンなどを搭載するだけではなく、月齢表示も立体的な月が採用された。
しかし、本作で見るべきは複雑さよりも使い勝手の良さだ。重さは180gあるが、直径は42.4mm、厚さ15.5mmと普通のコンプリケーション並みに抑えられた。コンプリケーションというと、どうしても操作が複雑になり、サイズも大きくなってしまう。対してオーデマ ピゲは複雑機構を使えるパッケージに抑えるという目標を打ち立て、本作を完成させた。
使える超複雑時計を作るのは、時計メーカーにとっての夢だ。しかし、メーカーとしての総合力がないと決して作れないものだ。こういう「使えるコンプリケーション」の設計・製造を得意とするのは、フィリップ・バラが率いるパテック フィリップの設計陣である。実際、ユニヴェルセルの開発に携わったある人物は「このような類の複雑時計は、パテック フィリップが作るものだと思っていた」と筆者に語った。しかし、オーデマ ピゲは7年もの期間を費やして、使えるウルトラコンプリケーションをリリースしたのである。
「部品配置の妙」が実現した歴史的傑作
筆者の知る限りオーデマ ピゲがマニファクチュールを指向するようになったのは、2000年代以降である。それ以前も同社はオーデマ ピゲ・ルノー エ パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)という複雑時計工房を擁し、ミニッツリピーターやトゥールビヨンなどを製造していた。しかし、ベーシックなムーブメントを擁するマニュファクチュールになったのは、たかだかこの20年の話だ。
正直、オーデマ ピゲが基幹ムーブメントとして最初に完成させた自動巻きのCal.3120系は、同社が採用していたジャガー・ルクルト製エボーシュの代替でしかなかった。しかし、同社は着実に設計能力を高めていった。その帰結が、新しいベーシックキャリバーの43系と、クロノグラフの44系だろう。
蓄積されたノウハウを投じて、同社はコンプリケーションも刷新するようになった。今のオーデマ ピゲが得意とするのは、外装とフィットするようデザインされたコンプリケーションムーブメントである。例えば、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライングトゥールビヨン クロノグラフ」。このモデルはシンメトリーな造形を与えるべく、キャリッジの下にコラムホイールが格納された。
そもそも同社が指向したのは、デザインされた複雑時計である。しかし、そのために部品の配置に工夫を凝らすことで、オーデマ ピゲという会社は、部品の配置に妙味を見せるようになった。40もの機構を詰め込んだユニヴェルセルが、使えるサイズに収まったのも納得ではないか。
残念ながら筆者はこのモデルを十分に触ったことがないし、ご自慢の音も聞いたことがない。しかしながら、このサイズに40もの機能を収めたというだけで、このモデルは歴史に残りうるものと確信している。今後もさまざまなメーカーが、今までにないウルトラコンプリケーションの開発に取り組むだろう。しかし、使えるという点において、本作に超えるモノは今後もなさそうだ。これほど偉大な時計を、2023年に見られるとは、全く予想もしていなかった。
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