ショパール マニュファクチュール
20年今昔物語
普通、マニュファクチュールを称するウォッチメーカーの多くは、まずムーブメントを設計し、数が売れたら工房を建てる。
対してショパールは、自社製ムーブメントの開発と並行して工房を設立した。
ショパールらしい一流好みに貫かれたフルリエのショパール マニュファクチュール。
1860年にルイ-ユリス・ショパールによって創業され、同社が脈々と受け継いできた時計製造の遺産を現代によみがえらせるべく創設され、着実な進化とともに20年を経た現在、その内容は一層充実している。その20年の成果を、“ショパールらしさ”にポイントを絞ってお届けする。
2016年、ムーブメントの発表から20年を迎えたLUC コレクション。筆者に対して、カール-フリードリッヒ・ショイフレ氏はこう語った。「LUCを作るにあたって、チューリヒのウォッチリテーラーであるベイヤーに出向いて話を聞きました。時計作りはマラソンだ、辛抱強くやっていくことが大事だと聞きました」。
ガレージから始めたわけではないが、LUCとはスタートアップのようなものだった、と話すショイフレ氏。それを示すのが、フルリエにあるショパール マニュファクチュールだろう。
「自社製ムーブメントを作るにあたって、父には反対されましたね。そこでまずひとつだけムーブメントを作らせて欲しいと頼みました」(ショイフレ氏)
幸いにも、彼が言うところの〝ガレージ〟向けの物件がフルリエには存在していた。ETAが所有していた旧工房である。ショイフレ氏はこの工房の半分を間借りして、LUCプロジェクトを秘密裏にスタートさせた。やがてLUCコレクションの拡大に伴い、ショパールは工房すべてを買収。今のようなショパール マニュファクチュールの体裁を整えた。
ショパールという会社には、ふたつの際立った特徴がある。ひとつは一流好み、もうひとつは可能な限り社内で作るということだ。前者については、第1作の基本設計をミシェル・パルミジャーニに仰いだことからも明らかだ。そして名刺さえも自前で作る同社の姿勢を考えれば、フルリエのマニュファクチュールが高い内製化率を誇るのは当然だろう。
フルリエの工房では巻き上げヒゲの製造を自社で行っている。当然、ヒゲ玉やヒゲ持ちの固定も工房内で職人が手掛ける。現在、ショパールには、フルリエにひとり、ジュネーブにはふたりの調時師が在籍している。
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96系自動巻きの鍵を握るのが、ラチェット式の自動巻き機構。爪をバネで支えるという極めて複雑な構造を持つ。組み立てては洗浄し、また組み立てるという作業を繰り返す。現在、ラチェットの爪はスティールからDLCコーティングに変更された。
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工房で目を引いたのが、メッキの工程である。1階にあるメッキ部門では、職人が部品を洗浄し、メッキを施していた。この工程は他社でもしばしば見られるが、手掛けていた職人は在職18年で、もともと仕上げ部門出身とのこと。地板や受けの仕上げをルーペで確認し、適切な厚みになるようにメッキを施していた。
サブアッセンブルの工程も、ショパールらしい入念さだ。例えば、96系自動巻きが内蔵するラチェット部分。普通、こういった部品は他社に製作を依頼する。しかし、職人が軸をリベットで打ち込み、洗ってはベアリングを入れ、そしてワッシャーを噛ませる作業を行っていた。理由は「きちんと組まないと巻き上がらないから」とのこと。
ムーブメントにメッキを施す工程。フルリエの工房では9年前から始まったとのこと。L.U.Cのメッキはかなり良質だが、理由のひとつは責任者がデコレーション部門出身のため。繊細な仕上げをつぶさないよう、ごく浅くメッキを施していく。
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彫金の責任者、ナタリー・ブルジョワ氏。
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彫金中のトゥールビヨンの受け。フルリエの伝統的な装飾、フルリザン模様をひとつひとつ手で彫り込んでいく。
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デコレーション部門ではCal.L.U.C 96.09-Lの面取りが行われていた。電動切削工具による仕上げだが、面取りの幅はかなり広い。
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