L.U.C コレクション20年の軌跡
1996年に始まったL.U.C コレクション。ショパールは多くを語らないが、この20年間で作り上げてきたムーブメントは卓越したものばかりだ。
時計愛好家の注目を集めるのは、まず96系の自動巻きだろう。
しかし、永久カレンダーやクロノグラフなどにも、語るべき点は実に多い。
その代表作のいくつかから、L.U.C コレクションに通底するショパールの物作りに対する哲学をひもといていこう。
2000
L.U.C クアトロ
4つの香箱で約9日間のパワーリザーブを誇るモデル。2011年にはデザインが一新され、L.U.Cに共通したデザインコードが与えられた。直径は大きくなったが、厚さが8.87mmしかないため、装着感は良好だ。その充実した内容を考えれば、価格は非常に戦略的だ。手巻き。18KWG(直径43mm)。50m防水。289万円。 Cal.L.U.C 98.01-L
ふたつのダブルバレルを並列した手巻きムーブメント。6時位置にはスモールセコンドとポインターデイトが備わる。ジュネーブ・シール付きだけあって仕上げは優秀だ。直径28.6mm、厚さ3.7mm。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約9日間。巻き上げヒゲ。
2005
L.U.C
カリテ フルリエ
96系をチューンナップし、カリテ フルリエ規格を通したモデル。耐衝撃性を高め、より小さな姿勢差誤差を与えた結果、テスト上の日差は、C.O.S.C.の規格を超える0秒から+5秒以内に抑えられた。96系搭載機の中では、最も魅力的なモデルのひとつだ。これは2014年発表モデル。自動巻き。18KRG(直径39mm)。30m防水。210万円。 Cal.L.U.C 96.09-L
96系のハイパフォーマンス版。緩急針がトリオビスに、ヒacゲゼンマイが平ヒゲに変更された以外、仕上げなどは96.01-Lに準じる。初出から10年近く経っているため、信頼性も高い。直径27.4mm、厚さ3.3mm。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。
まずは階段を上り始めることが重要だった」とカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏が説明したように、自社製ムーブメントを作るにあたって、ショパールの姿勢は堅実だった。初めに基幹ムーブメントを作り、時間をかけてエクステンションを増やしていった。加えて、どのムーブメントであれ、必ず既存ムーブメントにはない要素が盛り込まれてきた。
好例が、約9日間のパワーリザーブを備える「LUC クアトロ」こと、キャリバー98・01-L(旧1・98)だ。同程度のパワーリザーブを持つムーブメントは今や珍しくない。だが、これは4つの香箱で長いパワーリザーブを与える設計の嚆矢だった。香箱を増やすと振り角が落ちにくく等時性が高まる、という設計の常識も、実はこのムーブメント以降、設計者たちが認識するようになったものだ。当初、ショパールの設計チームは96系のマイクロローターを外し、そこにダブルバレルを追加すればいいと考えていた。しかしトルクが増えないため、彼らは地板を延ばし、設計を一から見直すことで98・01-Lを完成させた。パワーリザーブを減らせば小改良で済んだが、ショパールはそれを良しとしなかったのである。
2005
L.U.C
ルナ ワン
極めてよく出来た永久カレンダー。閏年と2月末以外は、ビッグデイトを含めてほぼ瞬時に切り替わるほか、日付の切り替え禁止時間帯もない。また針を逆戻ししてもカレンダーが壊れないよう、重厚な安全装置が追加されている。ベースムーブメントは96.01-L。2012年発表モデル。自動巻き。18KWG(直径43mm)。50m防水。693万円。 Cal.L.U.C 96.13-L
旧キャリバー名1.96QP。96.01-Lに瞬時送り式の永久カレンダーモジュールを加えたムーブメントである。ジュネーブ・シールを取得しているため、仕上げは卓越している。直径33mm、厚さ6mm。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。巻き上げヒゲ。
2007
L.U.C
クロノ ワン
ショパール初のフライバック付き自動巻きクロノグラフ。自社製のフライバック付きクロノグラフとしては先駆けと言えるだろう。後にケースやムーブメントがブラッシュアップされた結果、時計の完成度は大きく高まった。緩急針のないヴァリナー・テンプを採用する。2011年発表モデル。自動巻き。18KRG(直径44mm)。100m防水。439万円。 Cal.L.U.C 03.03-L
重厚な設計を持つ自動巻きクロノグラフ。コラムホイールに垂直クラッチという構成は現代のクロノグラフだが、フライバック時の衝撃に耐えられるように各所の設計は強化されている。直径28.8mm、厚さ7.6mm。45石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。
2005年の「LUC ルナ ワン」が載せる96・13-L(旧1・96QP)も、エクステンションを超えたムーブメントだ。ベースとなったのは傑作96・01-L。その上にショパールは瞬時送り式の永久カレンダーモジュールを加えた(ヨーロッパ特許EP 1586962 A2ほか)。しかもこの永久カレンダーは、12時位置のビッグデイトも瞬時に切り替わる(ただし閏年などは時間がかかる)。トルクを蓄積してカレンダーを早送りすると聞けば簡単そうだが、各社が瞬時送り式の永久カレンダーを作るようになったのはごく最近のこと。瞬時送りのカレンダーで起こる問題は、大きな慣性を制御できない点にある。カレンダーを瞬時に動かすのは難しくないが、止めるための頑丈なバネと、部品のガタが出ない強固な立て付けが必要になる。つまり、メーカーとしての経験値が不可欠だ。しかしショパールは、ムーブメントを自製するようになってわずか9年で、この永久カレンダーを完成させたから驚かされる。後に某メーカーの設計者はこう漏らした。「私たちも瞬時送りの永久カレンダーを作ろうと考えたが特許はショパールに押さえられていた」。
07年の「LUC クロノ ワン」こと、キャリバー03・03-L(旧10/11CF)は、LUC コレクションのひとつの極北だろう。自動巻きに垂直クラッチ、コラムホイールという構成は、現行の高級クロノグラフに共通するものだ。しかし細部に目を凝らすと、ユニークさと重厚な設計が際立っている。一例が調整可能なリセットハンマーだ。ハートカムとの当たりを調整するため、リセットハンマーの先端は、ヤスリで成形する必要がある。対して、03・03-Lでは、リセットハンマーにバネ性を持たせ、またそのヒンジを可動式にすることで、当たりを調整可能にした。採用例としては、パネライに続く2例目である。こういう改良を加えると、リセットハンマーは重くなるが、ショパールは、ハンマーのプレートを受けで挟むことで、ガタツキを抑えた。
「単なる自社製ムーブメントは作らない」(ショイフレ氏)というショパール。そのあり方は、この20年間一切不変だ。