1972年に発表され、1977年までプレシャスメタルを用いて少量生産が続けられたピアジェの「ブラック タイ」。存在感のあるフォルムや稀少なストーンを用いたこのモデルに魅了されたひとりに「ポップアート」の巨匠、アンディ・ウォーホルがいる。本モデルは2014年に復刻され、今も時計愛好家たちの支持を得ている。
[2023年12月20日公開記事]
2014年に復刻し、少量生産が続けられているピアジェの「ブラック タイ」
20世紀を代表するアメリカの画家といえば、アンディ・ウォーホル(1928-1987)だろう。
このエキセントリックな社交界の名士は、毛沢東、マリリン・モンロー、エリザベス・テイラー、あるいは電気椅子、キャンベルのスープ缶、コカ・コーラのボトルを描いたシルクスクリーン作品で知られ、20世紀末の現代アートに足跡を残した。
ポップアート(広告芸術)の第一人者である彼は、「消費社会」を批判しつつインスピレーションを得て、何百万ドルも稼ぎながらアート界を騒がせた。
アンディ・ウォーホルはカルティエの「タンク」をはじめ、他にもロレックスの「オイスター パーペチュアル」やコルムのコインウォッチを着用していた。そしてピアジェの「ブラック タイ」も着用していたのだ。
ブラック タイは、1972年にイヴ・ピアジェによって発表された。当時は創造性によって、スポーツウォッチにもフォーマルなモデルにも欠かせない数々のタイムピースが誕生した、時計にとって“良き時代”であった。ブラック タイは、間違いなくそのうちの1本である。
都会的なブラック タイは、カジュアルシーンから夜のフォーマルシーンまで幅広くなじむ時計だった。当時は、人々がまだドレスアップして出かけていたのだ。最新の流行に敏感だったアンディ・ウォーホルがこの時計に魅了されたのは、1973年のニューヨークだった。
アンディ・ウォーホルが選んだブラック タイは、イエローゴールド製のケースにガルバニック加工を施したチャコールグレーダイアルのモデルで、月差5秒の精度を誇る有名なクォーツムーブメント、ベータ21を搭載していた。ベータ21は、わずか6000本が製造されたロレックスの「ベータクォーツ(Ref.5100)」をはじめ、パテック フィリップやIWCなどの時計にも採用されたムーブメントだ。
ブラック タイは、アンディ・ウォーホルが所有していた他のピアジェの6本の時計に仲間入りをすることになる。そのうち4本は、現在ピアジェのプライベート・コレクションに収蔵されているが、おそらくブラック タイはその存在を時計愛好家に最も知られたモデルだろう。
ブラック タイは1977年まで、ホワイトゴールケースドまたはイエローゴールドケースの少量生産モデルだった。この比較的短い期間により、コレクターにとって特に人気が高いモデルとなっている。
アンディ・ウォーホルがブラック タイを購入したのは1973年だが、イヴ・ピアジェとウォーホルが米国におけるピアジェの総代理店であるジェリー・グリンバーグを通じて知り合うようになったのは、1979年からのことだった。ここから始まる親交がきっかけとなり、アンディ・ウォーホルは1983年、彼が1969年に創刊し成功を収めた雑誌『Interview Magazine』にイヴ・ピアジェを招待した。
ブラックタイはその後ピアジェのカタログから何年ものあいだ姿を消すことになるが、2014年にようやく復刻され、エクストリーム・ピアジェ・オート・ジョワズリー・コレクションに採用された。
ブラック タイは、ピアジェが時計製造の舞台に復活したことを示すものであり、二度とこの舞台を離れることはない。まばゆいばかりの復活であることは確かだが、非常に目立たない存在であり続けた。ブラック タイは、フランスの小説家スタンダールが言うところの「幸せな少数の人」のための、愛好家のための時計なのである。
2023年に堂々たる縦43mm、横45mmのケースで復刻された「ブラック タイ ヴィンテージ インスピレーション」には、ピアジェの自社製自動巻きムーブメントCal.534Pが搭載されている。マラカイトダイアルにはホワイトゴールドケース、ブラックダイアルにはピンクゴールドケースが組み合わされた。そして後に、マラカイトダイアルとピンクゴールドケースのモデルも追加された。
ブラック タイは現在、ピアジェの特徴であるストーンを用いた希少価値の高いモデルを求めるコレクターにとって理想的な舞台となっている。アンディ・ウォーホルの愛用モデルにインスパイアされた10本のユニークピースで構成されるコレクションは、ウォッチズ&ワンダーズ 2023のピアジェのブースで密やかに展示された。
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