2021年にアストンマーティンとのパートナーシップを締結し、以降次々とコラボレーションウォッチを送り出してきたジラール・ペルゴ。今回、6つ目のコラボレーションモデル、「ネオ ブリッジ アストンマーティン エディション」が発表された。両社のデザイナーを含む共同製作チームによってデザインされた本作は、伝統とチャレンジ精神を体現する、コラボレーションの集大成とも言うべき完成度を見せる。
Photographs by Masanori Yoshie
野島翼:取材・文
Text by Tsubasa Nojima
[2023年12月20日公開記事]
ふたつの名門ブランドが共同製作。ジラール・ペルゴ新作「ネオ ブリッジ アストンマーティン エディション」
1791年創業のスイス名門時計ブランド、ジラール・ペルゴ。同社は2021年より、イギリスのラグジュアリースポーツカーメーカー、アストンマーティンとパートナーシップを結んできた。それぞれの分野をけん引してきた両社。そこに共通する、長い歴史の中で紡いできた伝統と、その中で培われてきたクラフトマンシップ、ユーザーの心を揺り動かす情熱は、当初の想像を超えた相乗効果を生んだ。そんなパートナーシップの結果として、これまでに「ロレアート」コレクションを中心に、5つのコラボレーションウォッチが送り出されてきた。
そして23年12月、6つ目のコラボレーションウォッチとして、「ネオ ブリッジ アストンマーティン エディション」が発表された。「ブリッジ」コレクションに属し、わずか250本のみが販売される本作は、ムーブメント内部をあらわにした構造を持ち、大きなブリッジに支えられたテンプや歯車の数々を、文字盤側から鑑賞することができる。極限状態を競うレーシングカーにも通じる、独創性に溢れたデザインと、その随所に散りばめられた特別なディティールが、唯一無二の存在感を放つ。
アストンマーティンとのコラボレーション6作目。大胆な構造の文字盤と、随所に取り入れられたグリーンが目を引く。自動巻き(Cal.GP084000-2164)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti+DLCケース(直径45mm、厚さ12.18mm)。30m防水。世界限定250本。496万1000円(税込み)。
本作のインスピレーション元となったのは、アストンマーティンのスポーツカー「DB」シリーズの最新機、「DB12」だ。今年で誕生75周年を迎えるDBシリーズは、映画「007」シリーズでボンドカーに採用されるなど、スポーツカーファンのみならず、多くの人々の憧れとして人気を集めてきた。DB12では、長距離を快適に走行できるようスーパーツアラーとしてのスペックアップを図り、デジタル化によって利便性を高めながらも、物理的な操作系を残すことによって、走る楽しみをダイレクトにドライバーへ伝えてくれるマシンに仕上がっている。
「ブリッジ」コレクションとは?
ブリッジコレクションはその名の通り、文字盤を横切る大型のブリッジを特徴とする。その起源は、1867年に発表された懐中時計、「スリー ブリッジ トゥールビヨン」にさかのぼる。それまでブリッジは、あくまでも時計の内部に組み込まれた部品のひとつであり、人の目に触れさせることを目的としたものではなかった。しかし同社は、その既成概念を打ち壊し、審美性を高めた3つのブリッジを組み込むことで、時計の新たな可能性を切り開いた。この懐中時計は、同年に開催されたパリ万国博覧会で金賞を獲得し、同社の独創性を広く世界に知らしめたのだ。
現在のブリッジコレクションは、その流れをくむものだが、単に文字盤側にブリッジを配しただけに留まらない。受け継がれたチャレンジ精神は、彫金やグラン フー エナメルなどの芸術技法を取り入れたモデルや、天球儀やミニッツリピーター、コンスタントフォース機構など、さまざまな複雑機構を取り入れたモデルを生み出してきた。2017年には、新たな解釈を加えた「ネオ ブリッジ」へと進化を遂げ、そのシンメトリーかつ立体的なデザインによって注目を集めている。伝統と革新を体現するコレクション。それがブリッジなのである。
「ネオ ブリッジ」と「DB12」の世界観が融合した文字盤
ネオ ブリッジ アストンマーティン エディションの魅力は、DB12の世界観を取り入れた、エレガントかつスポーティーな文字盤に凝縮されている。対称的に配された香箱とマイクロローターには、両社のブランド名が与えられ、随所に取り入れられたグリーンカラーとともに、ジラール・ペルゴとアストンマーティンの絆を象徴する。
本作の実現には、特別に組織された共同製作チームの存在が不可欠であった。このチームには、両社のデザイナーを含むメンバーが参画し、いかに互いの魅力を引き立てあうにふさわしい外観や強度、性能を与えるか、試行錯誤を繰り返した。コラボレーションの背景には、考え抜かれたストーリーがあるのだ。
固いパートナーシップが表れる香箱とマイクロローター
ネオ ブリッジの特徴である、シンメトリーなレイアウトを実現する要は、2時位置の香箱と10時位置のマイクロローターだ。本作では、香箱にジラール・ペルゴ、マイクロローターにアストンマーティンと、それぞれのブランド名を配している。
マイクロローターは、その回転によって主ゼンマイを巻き上げ、動力を創出するための機構である。対して香箱は、主ゼンマイを格納し、輪列へ動力を伝達する最初の歯車である。対称に配置されたパーツの位置関係だけではなく、それぞれが動力の創出と伝達という、密接に関わる機能を有していることからも、互いに認め尊敬しあうパートナーシップの理想的な関係性がうかがい知れる。香箱とマイクロローターを支えるのは、L字型のブリッジだ。受け石を囲む曲線も含めて丁寧な面取りが施されており、文字盤をのぞき込む度に、ユーザーをうっとりとさせてくれる。
アストンマーティンカラーのブリッジでテンプを支える
文字盤の中央と6時側に配されたブリッジは、コレクションを象徴する意匠である。本作のブリッジは、アストンマーティンの伝統であるグリーンカラーに彩られ、コラボレーションモデルとしての特別な仕様を与えられている。アーチ状に持ち上がったブリッジが優雅なラインを描き、ムーブメント内部をあらわにした立体的な構造を強調する。
ネオ ブリッジの魅力として、6時位置で鼓動するテンプを存分に鑑賞できる点が挙げられる。テンプは、時計を構成する要素の中で特に早く動くパーツだ。左右に振れる度にヒゲゼンマイが収縮する様子は、機械好きの心をつかんで離さない。オープンハートやシースルーバックでも、同様にテンプの動きを眺めることは可能だ。しかし、本作ほどじっくりと鑑賞したいのならば、その競合はかなり限られる。
複雑な構造の文字盤だが、細部には実用性への配慮が見られる。時分針と外周リングに配された立体的なサスペンデッドインデックスには、蓄光塗料が塗布され、暗所での視認性を飛躍的に向上させている。分単位での時刻が読み取れるよう、外周リングにはグリーンのミニッツサークルが配されている。
アストンマーティンの伝統的なカラーをあしらう
アストンマーティンを象徴するグリーンは、過去のコラボレーションウォッチである4つのロレアートでも採用されてきた。「ロレアート クロノグラフ アストンマーティン エディション」では、アストンマーティンのかつての“AMロゴ”を想起させるパターンのグリーン文字盤を採用し、カーボンケースを持つ「ロレアート アブソルート クロノグラフ アストンマーティン F1 エディション」ではさらに、文字盤だけではなく、ラバーとカーボンの複合素材による特製ストラップまでもグリーンとした。続く38mmと42mmの「ロレアート グリーンセラミック アストンマーティン エディション」は、グリーン文字盤にグリーンセラミックス製のケースとブレスレットを組み合わせ、オールグリーンの外装を手に入れている。
これまでのモデルを振り返ると、本作におけるグリーンが占める割合は少ないように思える。しかし、目に見える要素の多いブリッジコレクションであるからこそ、その最も重要で象徴的なブリッジを中心にグリーンを用いることで、両社に共通する伝統への深い敬意と、エンジニアリングへの情熱を強調しているのではないだろうか。
細部にも宿る、ふたつのブランドの哲学
注目すべきは文字盤だけではない。直径45mmのケースは軽量かつ耐食性と耐アレルギー性に優れたチタンを採用し、DLC加工を施すことで耐傷性も向上させている。軽量な素材を採用するというスーパーカーに通ずる素材選定に加え、ブラックカラーのケースがムーブメントとの連続性を生み、グリーンカラーをより際立たせている。ケースバックのサファイアクリスタルには、アストンマーティンのロゴがプリントされ、内部に格納されたムーブメントを鑑賞することが可能だ。
ストラップはファブリック調のブラックラバー製を採用し、チタンにDLC加工を施したトリプルフォールディングバックルが取り付けられている。ストラップにはグリーンのステッチが採用され、コラボレーションモデルとしてのワンポイントとなっている。
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ジラール・ペルゴ創業家一族のひとり、〝フランソワ・ペルゴの功績をたたえる会〟が開催
今回紹介したスペシャルエディションからも見て取れるように、ハイレベルなウォッチメイキングによって時計市場で存在感を高めているジラール・ペルゴ。このウォッチメイキングの歴史をスタートさせた創業家一族のひとり、フランソワ・ペルゴをご存知だろうか。
フランソワ・ペルゴは1860年、前年に開港したばかりの横浜に降り立った、スイス人時計師であり商人である。西洋と大きく時間感覚が異なっていた日本へ西洋式時計を輸入し、普及することに尽力した。
ジラール・ペルゴ ジャパンと正規時計販売店COMMON TIMEは、横浜外国人墓地に眠るフランソワ・ペルゴの墓の整備や、命日にあたる12月18日に合わせた墓参を継続的に行なってきた。
これまでは顧客を交えて行なっていたフランソワ・ペルゴの墓参。しかし新型コロナウイルスの影響で、ここ2年ほどは関係者のみで執り行われた。
2023年、2年ぶりに顧客への参加が呼び掛けられた。COMMON TIMEの今西店長によると、想像以上に多くの顧客から反響があったという。ジラール・ペルゴ ジャパンとCOMMON TIMEは、同年12月18日、墓参とともに、日本へ西洋式時計を輸入した先駆者としての、フランソワ・ペルゴの功績をたたえるための会を横浜のホテルニューグランドで開催した。会場には多くの参加者が集い、展示されたジラール・ペルゴの名作を楽しんだ。また、作家の松山猛、時計ライター柴田充、「ウォッチ情熱応援団」団長、COMMON TIME代表取締役の田中孝太郎による、ジラール・ペルゴのトークセッションも行われた。
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https://www.webchronos.net/features/101764/
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