2023年新作モデルから、傑作パイロットウォッチを厳選! デザイン、機能、ストーリー性で選ぶ

FEATUREその他
2023.12.23

2023年新作モデルのうち、特筆すべきパイロットウォッチを5本、選出した。各社が製造するパイロットウォッチには、さまざまなデザインや機能、ストーリー性がある。そんな特徴が、パイロットウォッチへの所有欲を刺激するものだ。

356フリーガー・クラシックJUB

佐藤しんいち:文
Text by Shin-ichi Sato
[2023年12月23日公開記事]


2023年新作モデルから傑作パイロットウォッチを5本紹介

 2023年上半期に発表された魅力的な新作を、ジャンル別にブランド横断で俯瞰する企画として「パイロットウォッチ」を取り上げる。

 男子は一度ぐらいは抱く、航空機と、それを操るパイロットへの憧れ。そんな憧れが、パイロットウォッチに感じる魅力の源泉になるのだろう。また、厳密な時間管理と機器の信頼性を必要とするパイロットに向けた時計であるため、計測のための機能性や精度、タフさも魅力となっている。これらはすなわち、各ブランドの技術力や強みが現れる部分である。こういった点から、俯瞰的に眺めてみよう。


IWC「パイロット・ウォッチ・オートマティック 41・ブラック・エイセス」

IWC パイロットウォッチ

2023年8月に発表された、米国海軍第41戦闘攻撃飛行隊(ブラック・エイセス)とのコラボレーションモデル。ブラック・エイセスは、映画のモチーフにもなった有名な戦闘飛行隊だ。

 85年以上の長きに渡り、コックピット向けの計器類の開発に携わってきたのがIWCだ。特に、2007年からはアメリカ海軍の戦闘機戦術教育特別コース、通称”トップガン”との協力関係にある。18年以降は、トップガン教官と共同でパイロットウォッチの開発を行い、その過程で、最高峰のパイロットからのフィードバックがIWCにもたらされてきた。

 そんなフィードバックの成果のひとつが「パイロット・ウォッチ・オートマティック 41 ブラック・エイセス」だ。ブラック・エイセスはアメリカ海軍第41戦闘攻撃飛行隊の愛称であり、1950年の創設以来、さまざまな地域での作戦の最前線で活躍してきた歴史を持つ。作戦行動のひとつが映画「トップガン」のモチーフとなっていることも知られている。

IWC「パイロット・ウォッチ・オートマティック 41・ブラック・エイセス」
自動巻き(Cal.32100)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックケース(直径41mm、厚さ11.4mm)。6気圧防水。97万9000円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868

 本作は、ブラック・エイセスとのコラボレーションモデルであり、6時位置にはエンブレムが描かれている。そして、本作最大の特徴は、ダイアル全面がスーパールミノバ顔料により発光する点である。本作のダイアルは、スーパールミノバを結合剤と混ぜ、円形の鋳型に流し込んで硬化させることで、セラミックスのような耐久性を持たせたものであり、十分に蓄光させた本作のダイアルは、23時間以上にもわたって鮮やかに発光し、夜間の視認性を確保し続ける性能を備える。

 ケースは、コックピット内で機材に衝突しても傷がつきにくいセラミックス製で、チタン製のケースバックと相まって軽量な着け心地を実現する。また、ケースバックにはブラック・エイセスで運用されるF/A-18Fが描かれる。マルチロール機として長きに渡って運用されるF/A-18と同様に、本作は日常使いから過酷な環境下でのツールウォッチとして活躍してくれることだろう。


ゼニスの刷新された「パイロット」コレクション

ゼニス「パイロット ビッグデイト フライバック」
自動巻き(Cal.El Primero 3652)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42.5mm)。10気圧防水。146万3000円(税込み)。(問)ゼニスブティック銀座 Tel.03-3575-5861

 パイロットウォッチを語るうえで外せないのがゼニスだ。ゼニスは航空機の可能性をいち早く感じ取り、パイロットを意味する商標として、1888年にフランス語の「PILOTE」、1904年に英語の「PILOT」を取得した歴史を持つ。そんなゼニスのパイロットウォッチが2023年に刷新された。発表されたのは三針のシンプルな「パイロット オートマティック」とフライバック機能を有するクロノグラフモデル「パイロット ビッグデイト フライバック」である。今回は後者に注目しよう。

 従来のゼニスのパイロットウォッチは、ラウンドケースにストレートラグ、コブラ針の組み合わせと、クラシカルな意匠であった。今回の刷新では一転してモダンなスタイリングを獲得している。ケースデザインは新規に起こされたもので、固定されたフラット トップ ラウンド型のベゼルと、ベゼル端から接線状のラインを描いて伸びるラグが特徴である。アラビアインデックスに先端がダイヤ型となったクロノグラフ秒針を備え、さらにダイアルには横方向の溝が与えられている。この溝のテクスチャーは、古い航空機の機体を構成する波状のメタルシートからインスピレーションを得たもので、従来モデルのクラシカルな雰囲気とリンクするものとなっており、刷新されているがどこか共通点を感じる仕上がりとなっている。大型のリュウズも共通点のひとつだ。

 ムーブメントは、ゼニスのアイコンである3万6000振動/時のエル・プリメロ3652を搭載する。6時位置のビッグデイトは、動き始めから0.03秒以内に表示が安定する視認性の高さを備え、いつ見ても正しい表示がなされている点が特徴である。また、連続して経過時間を測定可能なフライバック機能を備える。

ゼニス「パイロット ビッグデイト フライバック」
自動巻き(Cal.El Primero 3652)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラミックケース(直径42.5mm)。10気圧防水。172万7000円。(問)ゼニスブティック銀座 Tel.03-3575-5861

 なお、ステンレスケースモデルの他、ブラックセラミックケースモデルも用意される。モダンかつストイックでスパルタンな印象の強いブラックセラミックケースモデルと、それと比べてクラシカルな印象もあるステンレスケースモデルと印象が大きく違っており、幅広い層の注目を浴びることになりそうだ。


ブレゲ「タイプ XX 2067」

新しい「タイプ XX」は2型発表された。今回紹介する、民生用の「タイプ XX」(左)と、軍用の「タイプ 20」(右)である。

 時計技術の歴史に大きな影響を与えたアブラアン-ルイ・ブレゲの名を冠し、エレガントなドレスウォッチや古典に根差した複雑機構の作り手として知られるブレゲ。そして、もうひとつ、ブレゲについて欠かせない歴史が、1954年にフランス空軍からの発注を受け、55年から59年にかけてフライバッククロノグラフのパイロットウォッチ「タイプ 20」を供給してきたことだ。

 タイプ20と同時に民生版として製造された「タイプ XX」は、改良を続けながら販売が続けられ、86年から95年の中断時期を挟みながら第3世代は2018年まで製造されてきた。このような経緯の中で、23年6月に第4世代として大幅に刷新されたのが「タイプ XX 2067」である。

 スティールカラーのベゼルやダイアル配置など、第3世代の特徴を引き継ぎながら、焼け色を模したインデックスや針を採用し、往年のパイロットウォッチを思わせるデザインに仕立てられている。キープコンセプトのデザインと言える本作は、フランス軍がタイプ 20発注時に重視したフライバック機能に特化したムーブメントを採用して、こちらもキープコンセプト、むしろ約70年の時を経て完成させたと言える仕上がりとなっている。

ブレゲ「タイプ XX 2067」
自動巻き(Cal.728)。39石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.1mm)。10気圧防水。258万5000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211

 第3世代にはレマニア製クロノグラフを大改造によってフライバック化したムーブメントが搭載されていた。これは熟成によって傑作となったが、その構成はベースムーブメントからの大改造を必要としていた。本作に搭載されるCal.728では、リセットボタンが直接リセットハンマーを動かす機構が採用されており、加えてリセットハンマーの形状もフライバックに特化したものとなっている。秒クロノグラフ車、12時間積算計と15分積算計の3つは、ほぼ直線状のリセットハンマーで瞬時にリセットされる。

 このほか、Cal.728にはフライバック機能の信頼性や操作性向上の策が詰め込まれている。すなわち、ブレゲは本作でのフライバックの多用を前提としているのだ。これは、かつてフランス空軍が求めた要件を満たす仕様を実現するものであり、ここまでフライバック機構の存在意義を重視し、その性能を研ぎ澄ませたモデルも無いだろう。そういった意味で、本作はフライバック付きクロノグラフの集大成と言える。


ロンジン「ロンジン パイロット マジェテック」

近年、復刻をコンセプトに、時計愛好家に“刺さる”モデルを展開するロンジン。本作の、オリジナルを踏襲したクッション型のステンレススティールケースや双方向回転式フルーテッドベゼルも、そんな所有欲をくすぐる要素であろう。

 ロンジンは、長きに渡ってパイロットウォッチを提供し続けてきた歴史を持ち、本年はこれを反映した新作「パイロット マジェテック」が発表された。パイロット マジェテックは、1935年発表のパイロットウォッチ「Ref.3582」の直系となるモデルである。Ref.3582はチェコスロバキア軍のオーダーを受けて製造されたもので、個性的で頑強なクッションケースと、両方向回転フルーテッドベゼルが特徴である。このベゼルによって操作するトライアングルマーカーによって計測開始時間を指し示し、飛行時間の測定に活用されていた。なお、「マジェテック」はオリジナルに刻印された(軍の)所有物を意味するチェコ語を起源とする愛称である。

ロンジン「ロンジン パイロット マジェテック」
自動巻き(Cal.893.6)。26石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径43mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。59万5100円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350

 パイロット マジェテックはこれらの特徴を色濃く残しつつ、防水性の確保やリュウズガードの追加、ケース形状、特にラグ形状の見直しによる着用感の向上などリファインが図られている。ムーブメントは自動巻きを採用して利便性を向上させつつ、スモールセコンドの配置が適切でオリジナルモデルの雰囲気がある点にも注目したい。

 また、ケースサイドはサテン仕上げでエッジが立っており、現代的な雰囲気も兼ね備えている。過去のアイコンのテイストを上手く取り込みつつ現代に通用するデザインをまとめる点には、ロンジンのうまさが光っている。


ジン「356フリーガー・クラシックJUB」

ジンの356シリーズ25周年の節目にあたる2023年、発表された「356フリーガー・クラシックJUB」。限定500本生産。

 ジンは、60年代にクロノグラフ「155」がドイツ空軍に正式採用されていた歴史を持ち、魅力的なパイロットウォッチを現在もラインナップするブランドだ。本年発売された「356フリーガー・クラシックJUB」は、ジンの歴史を感じさせるクラシカルなミリタリーテイストと、都会的なエレガントさを備えたモデルである。

 搭載する自動巻きクロノグラフムーブメントCal.SW510は、3時位置に30分積算計、9時位置にスモールセコンドを備えるムーブメントで、クロノグラフながら表示がシンプルであり、回転ベゼルを排したことも相まって本作のエレガントな雰囲気にマッチしている。ケース径を38.5mmとしたことで、コンパクトかつインダイアルがダイアルいっぱいに配置されることに繋がっており、これらはクラシカルな印象を生み出すのに一役買っている。

 落ち着いたアンスラサイトのダイアルカラーとアプライドのロゴによって、ドレッシーさを生み出しつつ、描かれたアラビアインデックスと細かな秒スケールが本格的なツールウォッチであることを主張している。

 ストラップは、ヴィンテージやミリタリーテイストの強い、2点のステッチワークが特徴で、その素材はイノシシ革のヌバックであり、荒々しさのあるテクスチャーが本作の雰囲気とマッチしている。

ジン パイロットウォッチ

ジン「356フリーガー・クラシックJUB」
自動巻き(Cal.SW510)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ15mm)。10気圧防水。限定500本。72万6000円(税込み)。(問)ホッタ Tel.03-5148-2174


大空に思いを馳せる人気パイロットウォッチ10選。魅力や歴史も解説

https://www.webchronos.net/features/92045/
注目のツールウォッチ7選。2023年新作から特筆すべきモデルを紹介

https://www.webchronos.net/features/102202/
2023年新作ダイバーズウォッチから注目の6モデルを紹介!

https://www.webchronos.net/features/99411/