[2023年12月31日公開記事]
“クォーツウォッチはレストア不可”の常識を覆す奇跡のサービス
昔の時計をよみがえらせるレストアといえば世界的に、歴史的な価値のある超高価なモデル、それも機械式時計が対象だ。しかも、主として100年を超える歴史を誇る老舗時計ブランドが用意している超スペシャルなサービスである。昔の設計図に基づいて当時そのままの部品を時計師がひとつひとつ手作りし、それを組み立てるのだから、かかる費用も桁違いに高い。かかった費用が後から請求されるのが一般的。ハイエンドな複雑時計の価格同様、修理価格は「時価」の世界だ。
この時計業界の常識を破った時計メーカーのレストアサービスが、期間限定だが日本にはある。それがカシオの「G-SHOCKレストアサービス」である。初めて行われたのは2018年。G-SHOCK誕生35周年の、ファンのための特別限定企画として行われた。初代G-SHOCK「DW-5000C」の価格は9600円(当時、消費税はない)。1万円未満のクォーツ時計をレストアするなんて、これほど時計業界の常識に挑戦する掟破りの企画はない。この1点だけでもこれは“奇跡のサービス”なのだ。
2018年の第1回「G-SHOCKレストアサービス」では、予想をはるかに超える申し込みがあったという。そこで第2回、そして今回の第3回が行われることになった。「これはG-SHOCKを長年愛用し、育ててくれた熱心なファンやユーザーに対する感謝の気持ちから企画されたもので、期間限定のカタチで、今後も何とか続けていきたい」とこの企画を担当するカシオのメンバーは語る。
また初期モデルのレストアには、かつてG-SHOCKを愛用していたユーザーを「呼び戻す」という目的もあるという。筆者もそんな「呼び戻された」ひとりかもしれない。実は先日、30周年記念モデルと2代目MR-G(MRG-210、1997年発売)の電池を交換したばかり。どんなシーンでも安心して使えるからそれ以来、着ける機会が増えた。また電波ソーラー機能とスマートフォンリンクを備えたモデルも欲しくなって、オリジンの最新モデル「GW-B5600」も購入してしまった。
対象は初代オリジン8モデル。ベゼル&バンド&バッテリー交換+α
今回のレストアはこの専用のウェブサイトからの申し込みとなる。そして、レストアの料金は税込みで1万560円。ただし、返却送料などは別途必要で、専用サイトから申し込む。なお、申し込みに当たっては「CASIO ID」への登録が必要だ。
対象モデルは初代G-SHOCKの「DW-5000C」「WW-5100C」(1983年発売)、「DW-5200C」「WW-5300C」(1984年発売)、「DW-5600C」「DW-5800C」(1987年発売)、「DW-1983」(1993年発売)、「SWC-05」(1994年発売)の初代オリジン8モデル。
行われるのはベゼルとバンド、そしてバッテリーの交換。その他、サービス現場で可能なことだという。このレストア対象モデルにはカラーバリエーションがあるモデルもあったが、今回、用意されているのは最もベーシックでオリジナルなブラックのパーツのみ。また使うネジはプラスネジのみ。また、防水性も20気圧防水から日常生活防水になる。でもどちらも、日常使いには何の問題もない。これでまた日常的に使えるようになるわけだ。
樹脂外装はオリジナルの金型と新規金型のハイブリッドを使用!
ところで、この樹脂の外装とバンドを持つ初代G-SHOCKのレストアで問題になるのが、絶対に交換が必要なこの外装パーツをどうやって調達するか、だ。通常、補修部品のストックは7年〜10年。各メーカーの自主基準であるガイドラインで義務付けられた期間より長くキープされていることが多いが、これが枯渇すると修理NGになる。
2018年のレストアのときに使われたのは「光成形」という方法。これは樹脂では最も一般的な金型を使わず、樹脂を光で溶かして成形する手法を使って外装パーツを作る方法で、そもそも試作品や小ロット向き。この技術は2016年に外部から紹介され、約2年間をかけて社内で実用化したもの。2018年のレストアは、この技術があったから企画されたのだという。
だが予想外の多数のレストア申し込みには、光成形では時間もコストもかかり過ぎる。そこで2021年の第2回「G-SHOCKレストアサービス」では、当初はアルミニウム製の簡易金型が使われた。そして最終的には、量産と同じ鋼材の金型を作製した。今回のベゼルもその金型を使って作られたものだ。ただ、それでも部品の製作数を考えれば、果たして部品の原価はいくらになるのか。そのうえ、もしこの金型がダメになったら新たに金型を作るつもりだという。この樹脂パーツのことだけでも、このレストアサービスがコストを度外視したものであることがわかるだろう。
細心の注意で行われる手作業でのレストア
では実際のレストア作業はどのようなものなのか。東京都武蔵村山市の「カシオテクノ」で取材させてもらった。ここは時計や電子楽器など、カシオのさまざまな製品の修理サービスを行う拠点である。G-SHOCK以外の時計の修理作業も行われている。初代オリジン系G-SHOCKのレストア作業を見せてくれたのは、同社のサービス事業推進部東日本リペアセンターの多田稔(ただ・みのる)さん。2級時計技能士で、どのように修理を進めるかも検討するこの部門のチーフ的存在だ。
作業はまず時計から樹脂製のベゼルとバンドを取り外す。そしてステンレススティール製のケースを作業台にしっかり固定して、スクリューバック式のケースオープナーを使って裏蓋を回して取り外す。そして時計モジュールを取り外して、時計モジュールやケースの内部、風防など内部に問題がないかを確認。必要なら掃除してから再び組み付け、新しい電池をセットして再び組み立てる。そして防水検査を行って、レストア作業は終了となる。
多田さんによれば、まず大変なのがこの裏蓋を取り外す作業。「長い年月が経っているので、インナーケースと裏蓋の間にあるパッキンが接着剤のようになって固着していて、なかなか外れないんです」。
さらに、このレストア作業でいちばん気を使うのが、時計の左右にある操作ボタン用の金属製シャフトの取り扱いだという。ステンレススティールケースにはボタン操作のために左右にふたつずつ計4つの穴があり、防水パッキンがはめ込まれたこの穴の中を、操作ボタン用のシャフトが通っている。外装のボタンを押すと、このシャフトがケースの中のモジュールのスイッチを押す仕組みになっている。
だが、この金属製のシャフトは、操作のときに強い力がかかるので曲がりやすい。そして、曲がってしまうとスムーズなボタン操作ができず、最悪の場合はボタンが機能しなくなる。だから、できるだけ「曲がり」を直したい。でも無理に直そうとすると、古いパーツだけに折れてしまう可能性がある。「でも、このパーツは交換用のストックがありません。だから折らないように注意して作業します」と多田さん。
組み込み作業が終わったら、新しい防水パッキンにグリースを付け、位置を確認して慎重にセットしてから再び裏蓋を締める。そして新品の樹脂製ベゼルとバンドをネジ留めで取り付け、防水検査を行ってレストア作業は完了する。
採算度外視としか思えない価格設定
レストアが完了したG-SHOCKは“G-SHOCKの生みの親”でカシオ計算機のシニアフェローの伊部菊雄さんの特別メッセージ入りのスペシャルボックスに入れられてユーザーの元に戻される。この演出もうれしい。
これで1万560円(税込み)という料金は、「もともとの製品価格に近いから高過ぎる」という意見もあるだろうが、作業の内容を考えると信じられない安さだ。これで数十年前に自分で購入したり、大事な人からプレゼントされたりなど、思い出深いあの昔のG-SHOCKがよみがえって、毎日使えるようになるのだから、お手元にそんな初代オリジン系G-SHOCKをお持ちの方は、ぜひこのレストアサービスの利用をオススメしたい。
今回のレストア受付は2024年2月29日まで。申し込み多数の場合、予定されている期間の前に受け付けを締め切られることがあるから、利用をお考えの方はぜひお早めに!
また、今回の3回目のレストアサービスとG-SHOCK 40周年を記念して、愛用のG-SHOCKをInstagramに投稿するとオリジナルグッズが抽選で当たるキャンペーンも同じ2024年2月29日まで開催されている。応募方法は「G-SHOCK」の公式Instagramアカウントをフォローし、ハッシュタグ「#相棒G-SHOCK」を付けて、愛用している「G-SHOCK」の写真をInstagramに投稿するだけ。なお、投稿対象製品は「DW-5000」または「DW-5600」シリーズ。そして抽選で当たるオリジナルグッズはキャップ、ウォッチスタンド、消しゴム3色セットの3種類。気になる方はぜひこちらにアクセスしてほしい。
【公式webページ】
https://casio.link/48zsasw
【G-SHOCKの公式Instagram】
https://www.instagram.com/gshock_jp/
https://www.webchronos.net/features/28811/
https://www.webchronos.net/features/104299/
https://www.webchronos.net/comic/34335/