日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、2023年に発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は時計ジャーナリストの菅原茂が、トータルの購入価格が1000万円をひとつの目安に選んだ時計を紹介する。1位は精度への飽くなき挑戦が見てとれたオメガ「スピードマスター スーパーレーシング」だ。
1位:オメガ「スピードマスター スーパーレーシング」
コーアクシャル脱進機採用するマスター クロノメータームーブメントにスピレートシステムを加え日差0~±2秒という超高精度を実現したスピードマスターの究極形。もはや追随が困難なほどの高みに達してしまったオメガの最新技術に驚嘆する。
自動巻き(Cal.9920)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径44.25mm、厚さ14.9mm)。50m防水。156万2000円(税込み)。
2位:ブレゲ「タイプ XX」
航空の面からブレゲの歴史に光を投げかけた第4世代クロノグラフは、1950年代の第1世代のオリジナルデザインを採用し、フライバック機能搭載の最新ムーブメントを搭載。これこそ最高のいいとこ取りではあるまいか。
自動巻き(Cal.7281)。34石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.1mm)。10気圧防水。258万5000円(税込み)。
(右)ブレゲ「タイプ ⅩⅩ クロノグラフ 2067」
自動巻き(Cal.728)。39石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.1mm)。10気圧防水。258万5000円(税込み)。
3位:エルメス「エルメス H08 クロノグラフ」
独創的なエルメス H08のデザインに影響を与えずにクロノグラフを追加する困難な課題を見事に解決して一段とスタイリッシュに仕立てたエルメス。あえてクロノグラフを主張しないクロノグラフ、そんな洒脱なセンスに脱帽だ。
自動巻き(Cal.H1837)。62石(うちモジュール34石)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。カーボンファイバー×Tiケース(直径41mm)。10気圧防水。
4位:ショパール「L.U.C 1860」
ドレスウォッチでは外せない1本。自社ムーブメントのL.U.Cを初めて搭載して1997年に発表された初代モデルを再解釈して登場。高性能メカ、小径で薄型のケース、再生素材のすべてが秀逸。もちろん品の良さも。
自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。パワーリザーブ約65時間。2万8800振動/時。ルーセントスティールケース(直径36.5mm、厚さ8.2mm)。30m防水。予価326万7000円(税込み)。
5位:ロレックス「パーペチュアル 1908」
プロフェッショナルモデルのアップデートが一段落したのか、今度はクラシック路線へと急展開。1930年代のヴィンテージルックと最先端ムーブメントとを絶妙に融合して完成度が抜群。だが実際に買えるのか心配。
自動巻き(Cal.7140)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約66時間。18KYG(直径39mm、厚さ9.50mm)。50m防水。261万9100円(税込み)。
総評
振り返れば、2023年はクロノグラフイヤーだった。主要な高級時計ブランドのほとんどにクロノグラフの新作があり、近年稀にみる豊作の年だったように思う。フライバック機能搭載のパテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ブレゲ、タグ・ホイヤー、ロンジンはいずれも興味深く、オリジナルデザインとの調和を巧妙に図るA.ランゲ&ゾーネやエルメスのセンスも秀逸だ。極限まで精度を追求したオメガ、ブランド初の機械式クロノグラフを発表したグランドセイコーも見逃せない。
デザインについては特筆すべきトレンドはなかった気がした。ひとつだけ気になったのはカラーリングだ。2022年のような色また色というカラーダイアルも落ち着いたらしく、ダイアルを含む全体をワントーンやトーン・オン・トーンで品よくまとめるモデルがいくつか見られた。クラシカルでシックな色合いはやっぱりオトナの時計趣味には欠かせない。
さて、私的ベスト5を選ぶにあたり今回は発想を変えた。絶賛に値する時計であっても、桁外れに高価な時計や入手困難な稀少品は除外し、予算1000万円くらいで現実的な実用モデルを5本手に入れるなら有力候補はどれか、である。順位をつけると、クロノグラフではオメガ、ブレゲ、エルメス、続いてデザインではショパールとロレックスだ。計算したら、おっと1300万円ほど必要になった。だが、出番のなさそうなコンプリケーションを選ぶよりは賢明な「買い物」になりそうだ。
菅原茂のプロフィール
1954年生まれ。時計ジャーナリスト。1980年代にファッション誌やジュエリー専門誌でフランスやイタリアを取材。1990年代より時計に専念し、スイスで毎年開催されていた時計の見本市を25年以上にわたって取材。『クロノス日本版』などの時計専門誌や一般誌に多数の記事を執筆・発表。休日はランニングと登山に精を出す。
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