活況を呈する高級時計市場にあって、マイクロメゾンの元気さが際立つ。2015年に設立されたチャペックもそのひとつだが、CEOのザビエル・デ・ロックモーレルの話を聞くと、その道程は決して平坦ではなかったことがうかがえる。
鈴木幸也(本誌):取材・文 Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]
幸運の女神を呼ぶ、走りながら考え走りながら改善するマイクロメゾン
1969年、フランス・リヨン生まれ。数々のコスメティックブランドでキャリアを積んだ後にビジネスMBAを取得し、2001年にロエベに入社。インターナショナル プロダクト マネージャーを務める。エルメネジルド ゼニアを経て、2011年にエベルのマーケティング ディレクターとして時計業界に参入。12年12月にエベルを退社した翌13年、ハリー・グール、セバスティアン・フォロニエと出会い、チャペックの復活に尽力する。
「20年3月中旬、新型コロナウイルスがヨーロッパ、そしてスイスに上陸しました。私たちはとても衝撃を受けました。ある日、国全体が突然ロックダウンするとは誰も予期していなかったからです」
そんな状況下にあっても、ロックモーレルは新作を発表する決断をした。20年5月26日、ブランド初の自社製基幹キャリバーSXH5を搭載した「アンタークティック」を発表したのだ。
「その発表に先立つ3月、私と私の妻、そしてボードメンバーたちと、この重大な決断を下しました。ロックダウンの状況下にあっても、少しでもブランドを前進させたかったのです。その時、ボードメンバーのひとりが言った〝運命の女神は勇者に味方する〞という格言は、まさにその状況を象徴するものでした。したがって、私たちは困難な状況にあっても事業を継続し、Cal.SXH5を発表したのです」
Cal.SXH5は、既存のセンターローターからマイクロローターに変更され、香箱から脱進機までの輪列を構成する歯車を鑑賞できるように、各歯車を支える受けが見事にスケルトナイズされた、独創性あふれる設計であった。
「マイクロローターを採用した理由は美観のためです。私たちは機械式ムーブメントが大好きなので、その輪列を構成する歯車をひとつひとつ鑑賞できるように受けをスケルトナイズすることで、香箱から脱進機までの輪列を見せることに注力しました」
美観もさることながら、Cal.SXH5は精度の面でも優れている。
「SXH5は優れた脱進機を搭載しており、その精度は±1秒/日という高精度をかなえています。ただ、弱点もありました。輪列を見せるために採用したマイクロローターの巻き上げ効率がとても低かったのです。そこで私たちは当初の片方向巻き上げから、MPSのリバーサーを使うことで、両方向巻き上げに変更することにしました」
使用するリバーサーはマイクロベアリングの巨人、MPS社のワンウェイ。ベアリング部に緩衝材が内蔵されているため、ローターの回転音も改善できたという。これだけ小回りの利く開発姿勢は、まさにマイクロメゾンだからこそ為せる業と言えよう。
走りながら考え、走りながら改善していく。そう、いつだって幸運の女神は前髪をつかむしかないのだから。
アンタークティックの特徴であるスポーティーな外装に、台形を連ねた個性的なダイアルを組み合わせた2020年モデル。それまでも改良が重ねられてきたCal.SXH5は、マイクロローターの素材とボールベアリングを変更し、性能も向上。自動巻き(Cal.SXH5)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ10.6mm)。120m防水。396万円(税込み)。
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