「ティソPRX」の自動巻き、40mm径ケースのモデルを実機レビューする。良質な外装に高性能なムーブメント、抑えられた価格と、三拍子そろったデイリーウォッチとして好評を博す本作。先日レビューした直径35mmケースモデルとの比較も交えつつ、その魅力に迫る。
Text and Photographs by Tsubasa Nojima
[2024年1月29日公開記事]
ティソの大ヒット作をレビュー!
今回レビューを行った、「ティソPRX」。ブルーダイアルを採用した、40mm径ケースの自動巻きモデルだ。自動巻き(Cal.パワーマティック80)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.9mm)。10気圧防水。10万7800円(税込み)。
今回レビューを行うのは、「ティソ PRX」の自動巻き、40mm径ケースモデルだ。PRXは、1970年代に登場した同名のクォーツウォッチを祖に持つコレクションである。オリジナルを踏襲したシンプルなダイアルやブレスレット一体型ケースを採用し、シャープさの際立ったフォルムや現代的なスペックのムーブメントを搭載することで、個性と汎用性を兼ね備えた実用機に仕上げられている。2021年の発売後まもなく、同社を代表するコレクションとして認知され、今では豊富なダイアルカラーやサイズに加え、クォーツ、自動巻き、デジタルクォーツ、自動巻きクロノグラフといったバリエーションを展開している。
歴史的な正統性に加え、スウォッチグループの技術を盛り込んだムーブメント、そして驚異的なプライスを兼ね備えたPRXは、ラグジュアリースポーツテイストな時計で飽和しつつある市場において、その勢力図を書き換えていった。
今回はその実力を知るべく、実機をもとにレビューしていきたい。ちなみに筆者は以前、自動巻きタイプの35mm径ケースのPRXもレビューしている。ときおり、そのモデルとの比較も交えていきたい。
グリッドパターンがユニークなダイアル
今回のレビュー対象は、ブルーダイアルモデルだ。3針のPRXでは、クォーツモデルにはフラットなサンレイダイアル、自動巻きモデルには格子状のパターンを施したサンレイダイアルを採用している。本作は自動巻きモデルのため、後者の仕上げが施されている。
インデックスは細身のバータイプを採用し、上面にスーパールミノバが塗布されている。時分針は、ある程度の幅を持ったバータイプ。スーパールミノバの塗布面積も大きく確保されており、中央にサテン、その外側にはポリッシュ仕上げを与えることで、視認性を高めている。秒針も含め、各針がきちんとインデックスやミニッツマーカーに届いている点も好ましい。実用時計を作り慣れた同社の心配りが見えるポイントだ。
3時位置には、日付表示が配されている。金属製の枠には内側に向かって面取りが施され、その面取り部にサンドブラストのようなざらついた仕上げが与えられている。これによってデイト窓の輪郭がはっきりと浮かび上がり、視認性を高めている。デイトディスクは、ダイアルのカラーに関わらずホワイトが採用されている。ホワイトのディスクにブラックの印字は優れた視認性を発揮するが、もしダイアルとディスクが同色でない点が気になる場合は、淡い色合いのダイアルを選ぶと良いだろう。
筆者は以前、全く同じブルーダイアルモデルを店頭で試着したことがあった。その際にまず感じたのは、視認性があまり良くないのではないかということだ。格子状のパターンとサンレイ仕上げの組み合わせは、思いのほかビカビカと光り、細いインデックスがダイアルに埋没したように見えた。時分針だけははっきりと分かるため、おおよその時刻は読み取れるが、個人的にはどうしてもその部分をネックに感じてしまった。すぐそばに陳列されていたフラットなダイアルのクォーツモデルを横目に、うらやましく感じたことを鮮明に覚えている。
しかし、今回のレビューで実機を手に取り、自宅の照明や自然光で見ると、当時の認識が全くの誤りであることに気付かされた。ダイアルそのものの輝きは記憶よりもやや抑えられ、問題なく時刻を読み取ることができたのだ。恐らく、試着時の店舗内の照明が強かったlことで、視認性を誤認してしまっていたのだろう。裏を返せば、例え強い光源下であっても、時分針は最上の仕事をしてくれるということだ。
力強いサテン仕上げが際立つシャープなケース
ケースは、面を基本として構成されている。曲面は、ダイアルに合わせて膨らんだ側面とベゼルくらいだ。面と面が重なったラグなどの部分には、シャープなエッジが生まれている。全体にサテン仕上げを基調としており、ソリッドな質感が重厚さをもたらす。しかしながら決して単調ではなく、ケースサイド上部の面取りとベゼルにポリッシュが、ほのかな上品さを添えている。
35mm径ケースと比べると、40mm径ケースの方が、よりスポーティな印象を与える。これは恐らく、40mm径の方がケース上面に与えられたサテン仕上げの面積が目立ち、より力強さが際立っているからだろう。反対に、35mm径ケースではポリッシュされたラウンド型のベゼルが強調され、ドレッシーさを感じる。同じコレクションに属するものの、両者の印象に明確な違いがあることを認識しておきたい。
ブレスレットは、ケースラインと一体化したシームレスなデザイン。バックル側に向かうに連れて、徐々に幅を絞られている。ケース同様、全体的にサテン仕上げを施されているが、コマとコマの間にはポリッシュが加えられており、時計を動かすたびに光が煌めく。
バックルは、プッシュボタンによって開閉する両開きのタイプ。閉じた状態では目立たないよう、一体感のあるデザインを採用している。プレートには十分な厚みが持たされ、剛性感にも不足はないだろう。
ケースバックにはサファイアクリスタルが取り付けられ、内部のムーブメントを鑑賞することが可能だ。本作が搭載しているのは、機械式自動巻きのCal.パワーマティック80。信頼性の高いETA社のCal.2824-2をベースとしたムーブメントであり、ニヴァクロン製ヒゲゼンマイによる優れた耐磁性や約80時間のロングパワーリザーブを備えている。グループ内でノウハウを蓄積させ、スケールメリットを生かしてコストダウンを図った、スウォッチグループならではのハイパフォーマンスなムーブメントだ。本作に近い価格帯で類似したスペックの時計を見つけようとすると、ハミルトンやミドーなど、同グループのブランドの時計が思い浮かぶはずだ。
ベルトを複数用意すれば、ひと粒で何度でもおいしい
全く同じPRXを試着したことがあると先述したが、その際に感じたことがもうひとつある。思ったよりもケースが大きく見えるということだ。ブレスレットのひとコマ目が可動せず、手首が細いとこのコマの分が、少し張り出して見えてしまうためだ。この点に関しては、今回のレビューにあたっても同じ感想を得た。筆者の手首回りは約16.5cm。手首に載せれば見た目には十分収まっているが、数値上の感覚と多少のズレが生じる可能性がある点は把握しておきたい。
ケースとブレスレットの一体感は、着用することでより強く実感できる。小ぶりな35mmケースとは異なり、まるで鉄板をぐるりと巻き付けたような塊感からは、重厚さと頼もしさを感じられる。しかしながら、各コマの可動域は十分に確保されており、ブレスレットが手首に沿って滑らかなカーブを描く。バックルのプッシュボタンもスムーズに操作できるため、ノンストレスで着脱可能だ。
今回は、ステンレススティールブレスレットの他に、ラバーストラップも同梱されていた。PRXのベルトには、インターチェンジャブルシステムが採用されており、工具なしで付け替えることが可能だ。
操作は簡単。取り外す際は、時計を裏返しにして、ラグの付け根にある2本のレバーを爪で内側に縮め、ケースを引っ張るだけだ。取り付けるときは、ベルトのレバーを縮め、ケースと噛み合わせるだけ。取り付けたら軽くベルトを引っ張り、外れないことを必ず確認しよう。
ラバーストラップの表面には、ダイアルと同じ格子状のパターンが与えられている。手触りはサラリとしており、ごみや埃も付着しにくい。また、非常にしなやかであり、ラバーストラップのままで時計の平置きができるほどだ。同社のロゴが刻まれたピンバックルは、厚みのあるがっしりとしたデザインを持ち、スポーティなケースにもマッチしている。
実際に手首に載せた感触は、軽快そのもの。ステンレススティールブレスレットに比べて軽いことはもちろん、腕を振り回しても暴れることがないため、ストレスなく使用することができる。ストラップの裏側には、“PRX”の文字が大きく刻まれているが、通気性を高めるための溝などはなく、汗をかく夏場での使用時には、また違った感想になるかもしれない。
また、ステンレススティールブレスレットの際に感じた、数値よりも大きく見えるという点に関しては、ラバーストラップに付け替えれば当てはまらない。むしろぎゅっとコンパクトな印象となり、まさに思い描いていたサイズ感で着用することができた。
唯一の悩みどころは目移りしてしまうラインナップか
21年の登場からわずか数年、今やティソを代表するコレクションへと成長したPRX。個性と視認性を両立させたダイアルや、精悍さを湛えたシャープなケースデザイン、そして堅牢かつ高い耐磁性とロングパワーリザーブを備えたムーブメントは、上質なデイリーウォッチとしての条件を不足なく盛り込んでいる。そればかりか、豊富なカラーバリエーションやケースサイズ、純正ベルトを用意し、ユーザーの好みに合わせたチョイスを実現させている。ひと通りレビューした現在においても、PRXの人気ぶりには疑う余地がないと感じる。
あえて悩みどころを挙げるとすれば、バリエーションの多さゆえに何を選べばよいか迷ってしまうことだろう。文中でも触れたように、35mm径と40mm径では印象がだいぶ変わる。もしベルトを付け替えて楽しみたいのであれば、純正ベルトの選択肢が多い40mmに軍配が上がるだろう。いずれにしろ、じっくりと吟味することをおすすめしたい。そうして選び抜いた1本は、きっとかけがえのない相棒になってくれるはずだ。
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