堅実なアップデートに大歓喜! 39mmケースの新型「ロンジン レジェンドダイバー」をレビュー

2024.02.06

2023年に登場した、新しい「ロンジン レジェンドダイバー」を実機レビュー。本作は、39mmのコンパクトなケースにノンデイトダイアルを採用したモデルだ。地味ながら着実なアップデートによって、ロンジンはロングセラーモデルの完成度を更に高めた。

ロンジン レジェンドダイバー

野島翼:文・写真
Text and Photographs by Tsubasa Nojima
[2024年2月6日公開記事]


更なる進化を遂げた、39mmケースの「ロンジン レジェンドダイバー」

 今回レビューするのは、2023年に新作として登場した39mmケースの「ロンジン レジェンドダイバー」だ。レジェンドダイバーは、1959年に誕生した同社製ダイバーズウォッチ「Ref.7042」を祖に持つ。このオリジナルモデルは、水圧を利用して防水性を高める、エルヴィン・ピケレのスーパーコンプレッサーケースによって12気圧防水を確保した、エポックメイキングなモデルだ。

1959年にロンジンから発表されたRef.7042。コンプレッサーケースによって、12気圧の防水性を実現した。コンプレッサーケースとは、スイスのケースメーカーであるエルヴィン・ピケレが、55年に特許を取得したもの。このケースは高い水圧がかかり、パッキンや金属製ガスケットが圧縮されることで防水性を維持するという仕様であり、後に広く普及した。ふたつのリュウズと回転するインナーベゼルを有することも特徴だ。

 現行コレクションのレジェンドダイバーは、2007年に始まる。当初はノンデイトモデルであったが、やがてデイト付きモデルへ変更され、その過程においてムーブメントも着々とアップデートを重ねられていった。

 既存のラインナップは、42mmと36mmケースのふたつのサイズで展開されており、新作はその中間にあたる。しかし、単なるサイズバリエーションではない。1959年から続くデザインコードを守りつつ、内外装ともにアップデート。C.O.S.C.公認クロノメーターを取得し、ISO 6425に定めるダイバーズウォッチの要件に適合した、より高性能なモデルとして登場したのだ。

 現在、既存モデルと新作は併売されている。この状態がしばらく続くのか、または新作に統合されるのかは分からない。しかし、主導権を握るのが新作であると考えて間違いないだろう。より完成度を高めたレジェンドダイバーを見ていきたい。

ロンジン「ロンジン レジェンドダイバー」
2023年に登場した、39mmケースの「レジェンドダイバー」。新デザインのケースに、エレガントなライスブレスレットを組み合わせている。ダイアルはブラックとブルーがラインナップされた。今回レビューしたのはブラックのモデルである。自動巻き(Cal.L888.6)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39mm、厚さ12.7mm)。30気圧防水。51万400円(税込み)。


復刻モデルだが古めかしくはない、タイムレスなデザインの機能主義的ダイアル

 スーパーコンプレッサーケースのデザインを踏襲しているため、ダイアル外周のリングは回転式のインナーベゼルとして機能する。1分単位の目盛りが与えられたインナーベゼルは、ある程度の幅を持たされているため、実質的なダイアルの表示部は、やや内側に寄っている。

Photograph by Yu Mitamura
力強い時分針やアラビア数字、そしてブラックとホワイトの強いコントラストによって、ダイアルの視認性は良好だ。また、回転ベゼルがインナー式であるため、すっきりとした印象を本作にもたらしている。

 インデックスはアラビア数字とバーを組み合わせており、ミニッツサークルはやや長め。これによって余白をなくし、凝縮感を高めている。時針はアロー型、分針はバトン型、秒針の先端付近には三角形のポインターが付いている。針はそれぞれ異なる形状を持つため、とっさに読み違えるようなこともない。スーパールミノバは、インナーベゼルの三角と、インデックス、時分秒針に塗布されている。

 ダイアルの印字やスーパールミノバのカラーは、ホワイトを基本に一部グリーンを採用する程度に留められている。復刻モデルでありながらも、クリーム色を取り入れるような、過度にヴィンテージ感を強調したものではない。個人的な趣味を述べるならば、本作の仕様は好ましい。ヴィンテージ感のあるダイアルにビシッとしたケースの組み合わせには、少しチグハグな印象を受けるからだ。


単なるサイズバリエーションにあらず。一番の進化はケースデザインにあり

 細身のラグを有し、ふたつのリュウズを配した基本的なデザインは、これまでのレジェンドダイバーと変わらないが、ラグはより短く下方への湾曲を抑え、リュウズの背を低くすることで、数値以上にコンパクトな見た目に仕上がっている。

 ケースの仕上げも変更された。前作では全面ポリッシュで統一されていたが、今作はケースサイドにサテン仕上げを加えている。これによってケースにメリハリが付き、立体的な印象となった。鏡面部の歪みは認められず、エッジにははっきりとした稜線が浮かび上がる。

 サファイアクリスタル製の風防はドーム型に盛り上がり、まるでインナーベゼルがせり出しているように見える。レトロな印象をもたらすことに加え、小ぶりなダイアルに最大限の視認性を与えることに寄与している。

ロンジン レジェンドダイバー

ケース側面のサテン仕上げや、大きく盛り上がったドームサファイアクリスタルが、豊かな表情を生み出す。ケース厚は12.7mmあるが重心は低く、腕を振っても引っ張られるような感覚はない。

 裏蓋は、ねじ込み式のソリッドバック。中央にはダイバーの姿が刻まれている。このダイバー、よく見ると左腕に時計を装着している。その時計にはリュウズがふたつ。そう、レジェンドダイバーを装着しているのだ。ルーペを使わなければはっきりと見ることはできないが、細部に忍ばせた遊び心が垣間見えるポイントだ。

 その外周には、クロノメーター認定を取得していることや300m防水のダイバーズウォッチであること、耐磁性の表記が配されている。多くのダイバーズウォッチであれば、これらはダイアル上に誇らしく表記されるものだろう。しかし本作ではあえて裏蓋に配することで、オリジナルに忠実なダイアルレイアウトを実現している。

ロンジン 新作 レジェンドダイバー

ケースバックに刻まれたダイバーの腕には、レジェンドダイバーが装着されている。刻印はケースに対して真っすぐに配される。

 なお、本作の裏蓋の刻印は、ケースに対して真っすぐに配されている。オメガのナイアードロックのようなバヨネット式の機構を採用しているのか、もしくは裏蓋をネジの切った外周部と刻印のある中央部のツーピース構造としているのか、その仕組みは定かでない。筆者が見た限りでは、恐らく後者だろう。


ミッドセンチュリーの空気感をまとった、ユルさが魅力のライスブレスレット

 新しいレジェンドダイバーには、ステンレススティールブレスレットとレザーストラップが用意されており、今回レビューするのは、ステンレススティールブレスレット仕様だ。一般的にダイバーズウォッチのブレスレットは、大型のコマで構成された屈強そうなデザインが多く採用されている。しかし、本作に採用されているのは、7連のライスブレスレットだ。1900年代中期を象徴するクラシカルなデザインを持ち、中央のポリッシュのコマは、米粒のように丸みを帯びている。ハードユースするには気が引けるが、インナーベゼル式の上品かつレトロなレジェンドダイバーには、すんなりと馴染むデザインだ。

 各コマが短い分、ブレスレットはクネクネとよく動く。内側はサテン仕上げで統一され、肌馴染みにも配慮されている。バックルは、プッシュボタンで開閉するシングルロックの三つ折れ式。

ロンジン レジェンドダイバー

ダイバーズウォッチとしては珍しい、ライスブレスレット。プッシュボタンによるシングルロック式であり、ワンタッチで完結する微調整機構も備わっていない。カチッとし過ぎない、リラックスできるユルさが魅力だ。

 ライスブレスレットに求められるヴィンテージ感を演出するという点では、完成度が高いが、あえてふたつほど改善を望む箇所を挙げるとすれば、コマの連結が割ピン式であることと、ワンタッチでの微調整機構が備わっていないことだろう。

 耐久性という面では、コマの連結はネジ式である方がより好ましい。コストはかさむが、同価格帯の時計においてネジ式が珍しくないことを考えると、多少見劣りするところだ。ただし、あえて割ピン式であることで、コマの可動域やヴィンテージ風の独特のユルさを得ていることも考えられる。

 バックルのサイドには5つの穴が開いており、細い棒で突いてバネ棒の位置をずらせば、微調整はできる。ただし、昨今各社が採用しているような、指先の操作だけで完結するような機構はない。ただ、この点に関して個人的にはあまりマイナスに感じていない。複雑な微調整機構が搭載されていれば、バックルはより厚くなっただろうし、その結果として多少のヴィンテージ感が損なわれていたはずだ。

 昨今では簡単にケースとベルトを脱着できるクイックチェンジなどを採用したモデルが多く、ロンジンでも複数の新製品に見られる。しかし、本作にそのような機構はない。これはあくまでも筆者の想像だが、バネ棒自体がダイバーズ専用の太めの物を採用しているからではないだろうか。


着用感は上々!

 実際に装着すると、その収まりの良さに驚く。筆者は42mmケースモデルを使用したことがあるが、その際は長めのラグが手首いっぱいに広がり、少し収まりが悪く感じていた。新作ではケース自体が小さく、さらにラグも短くなったため、腕周り約16.5cmの筆者でも違和感なく着用することができる。300m防水だが厚みも抑えられ、シャツの袖口にも難なく入る。

 ラッカー仕上げのグロッシーなブラックダイアルや、すっきりとしたケースライン、インナーベゼル、ライスブレスレットなど、エレガントな要素が組み合わさり、ダイバーズウォッチでありながらも過度なスポーティさが抑えられ、ビジネスでも使いやすいだろう。

 コントラストの強いダイアルは、屋内でも強い日差しの屋外でも問題なく視認性を発揮する。スーパールミノバは、ふたつのカラーが使用されている。インナーベゼルの三角と、アラビア数字インデックスの内側にある4つのバーがグリーン。その他のインデックスがブルーに発光する。

ロンジン レジェンドダイバー

筆者の腕にもベストマッチなサイズ感。短く改められたラグとしなやかなブレスレットが、快適な装着感をもたらす。もちろん視認性も抜群。

 インナーベゼルは、2時位置のリュウズによって操作することができる。ねじ込みを解除しリュウズを回すと、それにつれてインナーベゼルも回転する。12時側にリュウズを回せば反時計回り、6時側に回せば時計回りに動くため、直感的に設定可能だ。回す際のクリック感はなく、ぬるっと動く。そのため、ミニッツマーカーぴったりに合わせるためには、指先での微調整が必要だ。リュウズをねじ込む際に、一緒にインナーベゼルが回ってしまうようなことはなかった。

 つかんで回すだけのアウターベゼルに比べると、ねじ込みの解除、リュウズを何回転もさせてスケールの位置を設定、ねじ込みというステップを踏む分、操作は面倒だ。この機能の常用を前提にするならば、それなりに手間がかかることを認識しておくべきだろう。あまりに頻繁に使用すると、リュウズとチューブのねじ部が磨耗することにも繋がる。

 4時位置のリュウズは、時刻設定を司る。こちらもねじ込み式。ねじ込みを解除して一段引くと時刻調整ができる。日付表示はないため、操作上特に気を付けるべき箇所はない。

 ムーブメントは、ロンジン専用のCal.L888.6を搭載する。C.O.S.C.公認クロノメーターを取得した高精度に加え、シリコン製ヒゲゼンマイによる高い耐磁性、約72時間のパワーリザーブと、優れたスペックを持ち合わせている。ベースは、ETAのCal.2892-A2。薄型の自動巻きとして定評のある機械だ。


レトロ顔の都会派ダイバーズ

 2023年に登場した新しいレジェンドダイバーは、既存のモデルに比べてより着用しやすいサイズ感と優れた仕上げの外装を手に入れたモデルであった。レジェンドダイバーに限らず多くの時計は、アップデートを繰り返し、時代に即した姿へと変わっていく。しかし、それは必ずしも万人にとって望ましい進化とは言えない。トレンドや特定の趣味嗜好を意識した結果、従来のファンを失望させる場合もある。そんな中、変化を取り入れながらも、オリジナルのデザインコードを愚直に守り続けてきたモデルが、ブランドを代表するアイコニックピースとして認められていく。

 個人的な感想として、本作は100%好感を持って受け入れられるアップデートであった。1959年から続くデザインをほとんど変えることなく、しかし外装はモダンに、ムーブメントはスペックアップし、復刻モデルであるにも関わらず、古臭さを感じさせない。

 すっきりとした回転式インナーベゼルを、コンパクトなケースに収めた新しいレジェンドダイバーは、都会派ダイバーズウォッチとしての最適解ではないだろうか。シングルロックタイプのバックルを持つライスブレスレットは、あまり潜水向きとは言えない。バリエーションとして用意されているレザーストラップなど尚更だ。しかし、日常でリラックスして使うには、このくらいがちょうど良い。いざとなれば、ISO規格を満たす本格ダイバーズウォッチとしての活躍も可能。羊の皮を被った狼とは、まさに本作のことだ。


Contact info:ロンジン Tel.03-6254-7350


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